内閣官房より、6月23日より弾道ミサイル発射時に取る行動についての、CMなどの広報が行われると発表がありました。

最近では各自治体などで、弾道ミサイル発射を想定した訓練なども行われていますが、それに対して「過剰な対応ではないのか」、酷いものだと地面に伏せる写真に対して「こんな方法で避難訓練とは馬鹿げてる」という声もありますが、筆者からすれば、それを馬鹿にすること自体に疑問を感じざるをえません。

なお、先に断りを入れておきますと、筆者はあらゆる政府行政機関、また官公庁などとの関係を持たない、一民間人の立場です。

ここから先は、民間人の私見としてご覧ください。
正しい情報は政府行政機関、または地方自治体などから発信される情報を確認してください。

政府は、まず「屋内退避または地下避難」を推奨している

地面に伏せている写真ばかりが1人歩きしていますが、政府の広報を読むと

屋外にいる場合
出来る限り頑丈な建物や地下に避難する

建物が無い場合
物陰に身を隠すか、地面に伏せて頭部を守る

http://dwl.gov-online.go.jp/video/cao/dl/public_html/gov/kokuminhogo/pdf/290421koudou2.pdf

2段階となっています。

つまりあくまでも地面に伏せるというのは、周りに建物が無い場合の最終手段であり、基本は頑丈な建物か地下への避難です。

広島への原爆投下でも爆心地から160mの距離にいながら生存した方もいらっしゃるなど、特に「地下」は熱線・爆風などからの被害を大幅に軽減してくれます。

「隠れる」「伏せる」は有効な被害軽減手段

爆発物による攻撃で人体に被害を与えるのは爆風、破片の飛散。
核兵器の場合、これに熱線が加わることになります。

これに対し、隠れる、身を伏せるというのは、非常に有効な被害軽減手段です。

熱線の場合は「光」なので、基本的にその性質は直進です。
何かの影に入ってしまえば、とりあえず熱線の直撃だけは回避出来ます。

長崎に投下されたプルトニウム型原子爆弾「ファットマン」の規模でも、半径約1.6kmの範囲で熱線の直撃を受ければ、皮膚は「炭化」します。
(かのよしのり著 ミサイルの科学 P.157より引用)

しかし、とにかく熱線を防げる何かを見つけられれば、被害は大幅に減らすことが出来るのです。

熱線の被害は爆風よりも更に遠くまで到達するため、爆風だけなら生き残れる範囲にいたのに、熱線で深刻な熱傷を負ってしまうという可能性は十分にあり得ます。

 

参考図:20kt級核兵器(長崎型原爆相当)の爆風と熱線の到達範囲

かのよしのり著 ミサイルの科学 P.157よりデータ引用

(かのよしのり著 ミサイルの科学 P.157よりデータ引用)

また爆風・破片に対しても「隠れる」は当然、被害を軽減する効果がありますし、出来る限り低い姿勢を取っただけでも、何もしないよりは遥かに被害は小さくなります。
爆風は単位面積あたりに働く力として襲ってきますから、爆風を受ける方向に晒している面積が大きければ大きいほど受ける力も大きくなりますし、破片は散弾銃のように単位面積あたりに○個という確立で飛んできますから、当然総面積が小さければ、それだけ当たる数は少なくなります。

そもそも軍隊でも、敵の爆撃・砲撃に対しては塹壕(地面に掘った窪み)で対処したり、遮蔽物に隠れる、身を低くするなどの行動は普通に行われているものです。
これが何の意味も無い行動であれば、わざわざそんな行動は取らないでしょう。

国外でも、同様の対処は推奨されている

有名な本で、スイス政府の「民間防衛」というのがありますが、此方には以下のような記載があります。

熱線に対する防護の項より
(中略)・・・急いで遮蔽物の陰に飛び込めなかったら、その場で地上に伏せ、顔を下にし、両手を身体の下に隠しなさい

圧力波に対する防護の項より
(中略)・・・すぐに地に伏せて、圧力波が過ぎ去るまで、つまり破片が飛び交わなくなるまで待ちなさい

(原書房 民間防衛より引用)

「民間防衛」そのものは、東西冷戦時代に使われていたもので、その内容・想定については、いささか古いことは否めませんが、少なくとも世界の大国が常に核戦争の危機を想定していた、そんな時代であることには間違いありません。

その時代に推奨された対処方法が現代には通じない、などということはないでしょう。

出来ないことより誰でも出来ることを

緊急時の対応方法として、重要なこととして「誰でも確実に出来る」ということがあります。

例えば救急救命用のAEDは、パッドを音声ガイドの指示通りに貼ってボタンを押すだけで使えるようになっていますが、これが「手順を各々が覚える」だと使える人間は訓練を受けた特殊な人だけでしょう。

ミサイル対応の訓練も、やろうと思えば「速やかにその場で地図を確認して、到達可能時間内に逃げ込める建造物をただちに選定する」などの方法もあるかと思います。
しかし、そこまで訓練するには、相当な練習が必要です。

それならば「屋内に逃げて」「物陰に隠れて」「その場で伏せて」などの、シンプルな方法を広報する方が実行できる確立は上がります。

あくまでも「生存率を上げる」対処法である

ここまで色々と書いてきましたが、最後に付け加えるのであれば、推奨する対処方法を取ったからといって、必ず助かるという保障はありません。

広島への原爆投下の例を見ても、原爆ドームは建物の構造は残っていますが、当時そこに勤めていた方は全員即死したと伝えられています。
旧燃料会館で爆心地付近にいながら地下室で生存された方も、同じ建物にいた他の職員は即死、または行方不明となっています。

核兵器炸裂直後の爆心地付近は数千度の熱線と秒速数百メートルの爆風が襲う世界です。地下施設などに逃げ込まない限り、人間の生存など絶望的な状況でしょう。

極端な話、爆心地近くであれば、助かる可能性は極めて低いです。

言い方は悪いかもしれませんが、政府が推奨してる方法は

1万人の犠牲者をゼロにする方法
ではなく
1万人の犠牲者を○割に減らす方法

です。

度々引用しているスイスの「民間防衛」より再度引用すれば、何の準備も無しに核兵器の攻撃を受ければ人口の35%が死亡、30%が負傷するが、全員が避難所に向かえば8%が死亡、2%が負傷という公算まで下がるそうです。
(原書房 民間防衛より引用)
全員が確実な避難を行っても、死亡率は35%→8%に下がるだけで、ゼロにはなりません。

しかし、何処が爆心地になるか、自分が何処にいる時に、その時がやってくるか。
はっきり言って誰にも分かりません。
そもそも本当にその日が来るのか、迎撃に成功するのか失敗するのかも分かりません。

いざ、その時、何もしないで命を落とすか、1%でも生き残る確立が高い方法を身に付けておくか。

「その時」に生き残る可能性を少しでも上げることが、無駄か有用か、決めるのは自分自身です。

 

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