何故ミサイルを迎撃しないか

何故ミサイルを迎撃しないか

先日も北朝鮮による弾道ミサイル発射が行われ、ますます重要度を増すミサイル防衛。

ミサイル発射のニュースが流れるたびに

「なんで迎撃しないの?」

というコメントを見かけます。

今回は、ミサイル防衛=MDの概要と、何故、日本は迎撃を行わないか。
簡単に解説できればと思います。

あくまでも素人の一人の考えですので、参考程度に

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弾道ミサイルの迎撃は3段階

そもそも、弾道ミサイルって何かと言うと

「弾道飛行をするミサイル」

と定義することが出来ます。

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ミサイルはロケットと同様に一定速度まで加速した後、その慣性力を以って、目標まで弾道飛行を行います。
逆を言えば、角度と加速終了時の速度で着弾点は決まります。
(第1宇宙速度相当のエネルギーに達しない以上、物体はいつかは落下してきます)
対して、常に一定の推力を用いて水平に「飛行」するのが巡航ミサイルです。

弾道ミサイルには大きく分けて3段階があり、ミサイル防衛も、この段階別に区別する事が出来ます。

上昇フェイズ(ブーストフェイズ)

弾道ミサイルがブースターで所定の速度まで加速している段階です。

ここを迎撃で狙うメリットとして、速度が遅いこと、ブースター切り離し前なので的が大きく、更に大量の推進剤=可燃物を積んでいることが挙げられます。

つまり「的にしやすい」というのが最大のメリット。

では何故、ここを狙わないのかというと、敵の懐に飛び込む必要があるためです。

航空機にしろ、船にしろ、敵の領空・領海近くにまで接近して待機しておくというのは、戦略的に見て負担ばかりが増える悪手になります。
(それこそ空母機動艦隊が常にスタンバイしなければ厳しいでしょう)

狙うのは楽でも、それを発射する母体の運用に支障が大きいのが上昇フェイズ迎撃の難点です。

中間フェイズ(ミッドフェイズ)

上昇フェイズの燃焼を終えて、ミサイルが弾道飛行の中間=ミッドを飛行している状態です。

ブースターを切り離しているのでミサイル本体は小さくなっていますが、再突入前なので速度は上がりきっていません。
反面、高度100km以上に達する高高度を飛行しているので、迎撃弾そのものに高い高高度性能を必要とします。

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こんごう型イージス艦に搭載されているSM-3による迎撃も、このミッドフェイズを狙うタイプです。

終末フェイズ(ターミナルフェイズ)

ミサイルが弾道飛行の下りに差し掛かり、大気圏内に再突入する段階です。

高度は低くなりますが重力加速度で徐々に加速していき秒速○kmまで達するため、高度が低ければ低いほど、その迎撃は困難を極めます。

また仮に迎撃弾を直撃させたとしても十分な軌道変化を与えられなかったり残骸の落下などが懸念されます。

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日本では航空自衛隊の高射隊がペトリオットPAC-3で終末フェイズの迎撃に当たります。

また近年、何かとニュースで聞く機会の多いTHAADシステムは、PAC-3よりも更に高い高度での終末フェイズ迎撃用として開発されたミサイルです。

何故、迎撃しないの?

イージスシステムによるSM-3迎撃を行う場合、AN/SPY-1レーダーにより目標を探知・追尾。
その情報を基に飛行軌道が直ちに算出され、SM-3は計算された飛行軌道に合わせミッドフェイズで迎撃可能なコースに向けて発射されます。
その後、母艦より軌道修正の指示を受けながら最終的に直撃により弾頭を破壊するのです。

自衛艦隊HPより
自衛艦隊HPより

しかし、弾道ミサイルの特性上、ミッドフェイズの軌道を計算出来るということは

「着弾点」も予測できます

つまり、迎撃が可能=自国に飛んでくるミサイルか否か判別可能なのです。

先ほども書いたとおり弾道ミサイルは燃焼が終えるとあとは慣性飛行しているだけなので途中から大幅に針路変更は出来ないのです。

法的にも破壊措置命令は「日本に着弾する恐れのある場合」に限りミサイルの破壊を許可しており、日本への着弾がありえないと確認できた時点で、自衛隊は破壊措置を取る法的な根拠を失います。
これを超えての迎撃行動となると、現状の日本で許可されているのは「防衛出動」のみです。
しかし防衛出動の発令が如何に厳しい条件を要するかは、その発令実績が無い事からも明らかでしょう。
文民統制、シビリアンコントロールを求められる自衛隊においては、根拠無く「弾を撃つ」ことは出来ないのです。

また軍事の世界では「威力偵察」という言葉があります。わざと仕掛けてみることで、相手の出方を探るというものです。
明らかに威力偵察と分かる攻撃に対して必要以上の反撃を行えば、自軍の武器構成や手の内を読まれる恐れがあり、これは明らかに愚策です。

ミサイル防衛は最先端技術の塊です。
自国に影響が無いと分かりきってるミサイルに対して、それをわざわざ迎撃して自らの手札を晒す必要はありません。
軌道さえ正確に掴めているのなら、それで十分なのです。

最後に今日も日本海の何処かで、任務についている「こんごう型」の乗員や、呼び出しに備えている高射の皆様への感謝を以って、結びとしたいと思います。

 

8月29日のJアラート発動に関する考察を書きました。
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更に細かな情報などを加筆した記事を追加しています。