【防衛大綱見直しの未来を考える】自衛隊は離島よりも更に先を見据えるか(中編・新たな可能性)
前編では日本の安全保障が従来型のスタイルでは最早維持できない可能性について言及しました。
では、従来型のスタイルを言わば「捨てて」、新しいスタイルを模索する上でどのような要素が関わってくるか。
日本の安全保障の新たな可能性について考えていきます。
ハブ&スポークから
ネットワークへ
ハブ&スポーク、交通輸送、特に航空輸送の世界で聞く言葉ですがこれが安全保障の分野でも存在します。
従来、アメリカはハブ&スポーク型の同盟関係を重視してきました。
即ちアメリカを「ハブ」として、同盟国と1対1の関係で米国の利益を模索するという形です。
航空輸送でも地方空港同士が直通便をお互いに飛ばしあうようになると、ハブ空港は必然的に地位が低下するように、自らが「ハブ」としての優位を確保する事に拘っていたのです。
一見すると非効率的な形ですが、米軍の圧倒的な軍事力がこれを可能にしていたのが第二次世界大戦後の大きな枠組みです(逆を言えば、これを実現する為に膨大な軍事費を国家予算で賄っていたと言えます)。
しかし中国の台頭で、ハブ&スポーク型では優位性を保てなくなってきた。
全体的な軍事的優位を航空輸送で例えるなら、今までは米国主導のハブ&スポーク型ネットワークで乗客を確保できていたところを、中国主導の新しいネットワークに乗客を奪われそうになっているわけです。
これに対し米国は今まで「ハブ」である自分のところへしか飛行機を飛ばすことを許さなかった各国に、お互いが直通便を飛ばしあうのを認めて「全体」の強さを重視する方向にシフトします。
当然、アメリカの相対的な発言力は低下しますが、あくまでも「全体の強さ」を重視した政策であると言えます。
これにより日本も今までのアメリカへの100%依存から、ネットワーク型同盟へとシフトすることを余儀なくされます。
鍵は英・豪・印
恐らく日本の今後を考える上で、大きな存在となるのがイギリス・オーストラリア・インドの3カ国だと思われます。
個別に見ていきましょう。
イギリス
イギリスと日本は近年、防衛分野での交流を活発化させており昨年は三沢基地に英軍のタイフーン戦闘機が飛来して共同訓練を実施。
また2018年度中には英陸軍が日本国内で自衛隊と共同訓練を行うとの報道もあります。
何故イギリスと日本がここまで足並みを揃えようとするのか。
まず一点は共に海洋型国家である点が挙げられます。
英国は中国の南沙諸島での埋め立て行為や領有権の主張、航行の不当な制限などに対して強い不快感を示しています。
これは南沙諸島そのものが重要というよりは
「現在の海洋ルールに従い、世界中の海を安全に利用出来ること」
が海洋国家にとって非常に重要な事案であるからでしょう。
相手にルールを変更されるということは、自国にとって不利になりかねません。
つまり既成事実を作られて、現在の海洋秩序を破壊される事を危惧していると思われます。
一度でも既成事実化してしまうと、自国にとってのチョークポイント、海上交通の要所で似たようなことをやられかねません。
それは相手から首元にナイフを突きつけられるようなものです。
EU離脱後の英国は英国独自の同盟関係などを重視すると思われますが、それらは何処も海を通じて繋がっています。
「海」の秩序を維持することは英国にとって非常に重要なのです。
更に日本との関係性で言うと、お互いユーラシア大陸の端に位置することが挙げられます。大陸のランドパワーを両端で押さえ込むことは相手に戦力を大きく分散される=負担を強いることに繋がり、非常に有意義です。
シーレーンにおいても西はスエズ運河、東は南シナ海というユーラシア大陸に沿う航路の両端を押さえる形になります。
左右どちらにも敵がいるというのは、相手にとっては大きな負担です。
オーストラリア
オーストラリアも英国と同様に海洋型国家であるという点が1つ。
更にオーストラリアの安全保障政策は日本と似ているところがあります。
オーストラリアは基本的に安全保障政策において「自国の防衛」を重点的に考えてきた国です。
島国・海洋型国家でありながら、自国の国土と周辺海域を重視した装備体系を整え、米国との安全保障同盟に大きく依存する形であった点は、我が国の自衛隊の装備体系に似ていると言えます。
(なおオーストラリアは米国主導の軍事作戦に対し積極的に海外派兵を行って、協力関係を誇示してきた経緯があります)
またオーストラリアはニュージーランドやインドネシアなど、隣接する島国の政治的な安定が自国にとっても大きな国益であり、それを実現するためにはアメリカの軍事的プレゼンスが太平洋で有効的に機能することが必要という国策を取っています。
加えて広範囲で見ると、中国軍の戦略「第二列島線」への対抗という点が考えられます。
これは有事が起きた際に、ハワイの米軍太平洋部隊や更には米国本土から送られてくる増援を阻止する為、侵入阻止ラインとして想定されているものです。
ラインでいうと、小笠原諸島~グアム~ニューギニアになります。
日本とオーストラリアを線で結ぶと途中グアムを通って、この第二列島線を南北で挟む形になります。
これも中国からすれば、自軍の防衛ラインを複数方向から狙われる形になるわけです。
故に、日~米~豪という太平洋を縦断するラインが存在する事は、第二列島線を防衛構想とする中国にとっては脅威となり、太平洋に米軍の軍事的プレゼンスを臨むオーストラリアにとっても利益となるわけです。
またオーストラリアの西岸はインド洋に面しており、日本のシーレーンを担うインド洋を見張る場所に軍事的同盟関係があることはシーレーンの安定を求める日本にとっても利益となります。
インド
イギリス・オーストラリアとは異なる事情を抱えているのがインドです。
何故ならインドは北部の国境線が中国と接しており、中印国境紛争など軍事的衝突も度々起きています。
中国と面と向かって対立している構図が既に存在するのです。
しかし現状は北部国境での睨み合いという構図ですが、中国が圧倒的な海軍力を手に入れてインド洋で軍事的優位を示すようになるとガラリと状況が変化します。
インドは陸地で中国と睨み合うだけでなく、海からの侵攻にも備えなければならなくなるのです。
この中国の戦略を「真珠の首飾り」と呼びます。
すなわちインドという「頭」に、グルリと首飾りをぶら下げて囲ってしまうという考え方です。
インドとしては、これを看過することは当然出来ず、真珠の首飾りを更に大きく囲むような海洋同盟型の軍事的圧力の構想を考えています。
この一角に日本もあると考えるのが妥当です。
日本からしてみても中東~日本へのシーレーンに大きく接するインドと軍事的に協力関係を築くことは重要であり、双方の利益は合致すると考えられます。
以上を整理すると
日本は従来のハブ&スポーク型の日米安保ではなく、ネットワーク型の同盟関係を模索する
その中でもイギリス・オーストラリア・インドの3カ国が占めるウェイトは非常に大きい
この話を踏まえて、日本の安全保障の将来像、自衛隊がどんな姿になっていくかを考えて行きたいと思います。
[…] 「開かれた海」が自国の利益の為に不可欠なのが日本だけではないというのは、中編にて述べた通り。 […]
[…] 中編に続く […]