前編と中編では世界や日本における事情の変化を扱って来ました。

それを踏まえて筆者なりに想定される未来像を書いていこうと思います。

筆者の予想は単純に言ってしまえば

日本は安全保障の主戦場を本土防衛からシーレーン防衛にシフトするが、日本単独でのシーレーン防衛は望めない。

世界には日本同様に「開かれた海」を自国の利益の為に望む一方、単独で有効な軍事力を展開するのは難しい国がある。

故に「開かれた海」を共同利益とする複数国のネットワークが生まれ、日本もその一員として行動していくことになる。

という結論となります。

集・散・動・静

この話を進める上で、有名な戦術論を先行して述べる必要があります。

旧日本海軍の名参謀・秋山真之氏も説いた戦力の「集・散・動・静」という考え方です。

すなわち同じ兵力でも「散らばっているより1箇所に集めたほうが強い、止まっているよりも動いているほうが強い」という戦いの9原則における「集中」と「機動」の要素の必要性を説いたのです。

この考え方はシンプルながら、これからの安全保障を語る上で欠かせないものになると思います。

シーレーン防衛へのシフト

日本という国にとってシーレーンが非常に重要である一方、今まで頼っていたアメリカ単独では中国の加速度的に進むシーパワー増大に太刀打ち出来ない可能性があることは、前編で述べた通りです。

さて、戦略・戦術の基本として

「第二義的正面は助攻・最小限の戦力として、決戦正面における主攻に決定的戦力を集中せよ」

というのがあります。ランチェスター交戦理論、集中の原則、多くの戦訓や教範がこの重要性を語っています。
至る処(ところ)守らんとすれば、至る処弱し
全てを守ろうとすれば、結局どこも中途半端になってしまうのです。

冷戦終結、そして中国の海洋進出が進む日本の安全保障情勢においては、今や仮想敵の強襲揚陸・大規模侵攻に対する本土防衛は第二義的正面となりつつあると考えます。

軍備増強を進める中国も、将来的に日本への本土侵攻、強襲揚陸を行う可能性があるかと言われれば、可能性は非常に低いでしょう。

何故か?

わざわざ攻め込まなくてもシーレーンの安全を脅かすことで、日本に対して致命的なダメージを与えられるからです。
そしてシーレーンにおいて軍事的優位を得る事は、中国自身の経済成長にも繋がることであり「日本に対する軍事的圧力+中国自身の経済成長」という2つの目的を同時に果たせる以上、費用対効果の高いそちらに戦力を割くのは当然でしょう。

故に、日本も本土防衛に割く戦力は最小限に抑え、主戦場となるシーレーンに決定的戦力を投入するのが最も効率的と言えます。

しかし一方でシーレーンはあまりにも長大です。

大型タンカーはペルシャ湾から日本まで12000kmの旅路を20日間掛けて航行するといいます(出光タンカー株式会社HPより)

日本単独で全てに睨みを利かせようと思っても、とてもじゃないが成り立ちません。

国際協力
中国の弱点

「開かれた海」が自国の利益の為に不可欠なのが、日本だけではないというのは、中編にて述べた通り。

しかし、どこの国も広大な海を単独で警備するだけの戦力は持ち合わせていません。故に「同盟関係」を構築する事で、互いに一致する利益を守ろうという形が必然的に生まれると思います。

一方、海洋進出を進める中国ですが、現在のところ世界でもトップクラスの一線級の海軍力を誇る中国寄りの国家はロシアのみです。
そしてロシアが太平洋・インド洋に進出するには、東は日本、西はイギリスに抑えられています。

日本とイギリスが協力関係にある限り、中国は太平洋・インド洋においてロシアの海軍力の後ろ盾を期待できないのです。

こうなると中国は自力で長大なシーレーンに対処する必要が生じます。

先ほども書いたとおり原油地帯からアジアまでは10000kmを超える長い道。

そして、その長い道の何処か一点が「詰まる」だけでも、血管が詰まるように経済活動はたちまち混乱を来たします。

故に長大なシーレーンの全体に睨みを利かせねばならず、必然的に戦闘力は分散します。先の戦闘力の定義で言えば「散」になってしまうわけです。

散らばらないようにしようと思えば、更なる軍備増大が必要になりますが、軍備開発の費用が上限知らずになれば、国そのものが滅びかねないのは冷戦の末期におけるソ連を見れば分かる通り。

日本を始めとした各国が狙っているのは、恐らくこのような形でしょう。

即ち
「中国が海軍力を分散せざるを得ない状況を作り出す」
ということです。

海の同盟

NATOは旧ソ連を始めとした東側諸国の侵攻から西欧を守るための同盟として生まれましたが、日本や英国などが目指しているものはこれに近いと思います。

即ち開かれた海」を共通利益とした同盟関係です。

NATOは主に地上戦を想定して誕生した同盟なの対して、言わば「海の同盟」として海軍力を1つの大きな戦力として運用するような新しい形の同盟関係が今後出来上がっていくというのが筆者の予想となります。

パッケージ化された投射戦力

イギリスにおいては国家安全保障戦略の2015年版として「ジョイントフォース2025」という計画が設定されています。


(National Security Strategy and Strategic Defence and Security Review 2015より)

2025年までに既存兵員を再編することで、高い緊急展開能力を持つ兵員5,000人の打撃旅団を2個新設する。

2025年までに、空母を中心とした10-25隻の艦隊、(上記打撃旅団を含む)3個旅団を中心とした3万から4万の地上部隊、4から9個の戦闘飛行隊及び輸送・偵察からなる総計5万の部隊(2010年の計では3万だった)を海外に派兵できる体制を整える。

【イギリス】 2015年国防見直し 海外立法情報課 岡久 慶より引用

5000人規模の緊急展開能力の高い打撃旅団への編成変更、更にクィーンエリザベス型空母を中心に据えた機動艦隊を置き、国内の部隊においても海外への派兵へ柔軟に対応出来る形を目指すとしています。

その一方で

ジョイントフォース2025は、政府と国際的に他国とも協力して軍隊の能力を高めます。
私たちは、世界中の最も挑戦的な事業環境において脅威を混乱させるように、警備諜報機関と協力して軍隊の能力を強化します。
私たちの軍隊は、必要に応じていつでも自力で展開することができますが、基本的には米国やフランスなどの同盟国と共に展開することを期待しています。
(National Security Strategy and Strategic Defence and Security Review 2015より 日本語訳)

と書いており、各国との協調により一層効果的な戦力となり得ることを示唆しています。

恐らくは、これが今後「海の同盟」に属する国の1つのスタンダードな形になるのではないかと筆者は思います。

即ち「同盟国との協調を前提とした緊急展開性の高い機動打撃部隊」を各国がそれぞれ持ち、有事の際には普段は個別に散らばっている各国の部隊を「集める」ことで強力な1つの戦闘能力とする。

機動打撃という「動」、そして統合運用という「集」を目指す形です。

近年の軍事力行使は、かつての大国同士の衝突に限らず、複雑な形を呈しています。
MOOTW=Millitary Operations Othter Whan Warという「戦争以外の軍事作戦」が今や各国の安全保障にとって不可欠なのです。
このような情勢においては「軍事力の限定的な使用」が求められ、より柔軟に規模を変更して運用出来る形の軍事力が不可欠となります。

そのような意味で個々がパッケージ化された戦力を持ち、その組み合わせにより柔軟性を高めるというのは1つの答えと言えるかと思います。

またグラウラー電子戦機などの高価値装備を各国が互いに保有して即応性を高めたり、有事においては、展開可能な戦力を互いにサポートする集団的自衛権としての運用も視野に入るでしょう。

これを速やかに有効な形で展開し先手を打つために、諜報・サイバーの分野において情報収集活動を強化することも求められると思います。

必要な時必要な戦力機動的に統合運用する体制を整える事で「抑止力」とするということです。

中国と戦争するのか?

軍事力の本質は抑止力であるという観点から見て、筆者の考えはNOです。

先の「海の同盟」にとって、中国と戦火を交える必要性は無いでしょう。

あくまでも中国が軍事力を盾に、海の秩序を脅かすのを防ぐのが目的と考えます。

自衛隊はどうなるか

今まで以上に「空」と「海」が重視されることになるかと思います。

まず以前より噂のあるF-35Bの導入ですが、筆者は「このまま導入が推し進められる」と思います。先に書いた「機動打撃部隊」を考える上で不可欠な装備になるからです。

F-35、特にB型は航空母艦の常識を変えかねない機体です。
これまでのハリアーのようなSTOVL機はせいぜい自衛用の空対空火器を装備することしか出来ず航空支配には用いることが出来ませんでしたが、F-35Bは高度な対空戦闘能力を有しています。

カタパルトで発進する機体のそれと比較すれば制限は大きくなりますが「カタパルトの無いコストの低い艦でも、洋上を拠点として対空航空戦力を投入出来る」というのは画期的です。

また強力なネットワーク戦闘が可能という点でも、各国の戦力を「集中」して運用するという点で、強力なツールとなるでしょう。

「いずも」の空母改修も報じられていますが、これはどちらかというと将来的に建造する艦までの繋ぎとしての運用や運用ノウハウの習得の為に用いられると思います。

そしてV-22オスプレイも恐らくは、この機動打撃部隊のために使われるでしょう。

現在、護衛艦と陸上拠点の間では補給艦による燃料や物資の補給に加えて、緊急性の高い輸送は主にヘリにより行われています。
しかし将来的に機動打撃部隊は日本の陸地からヘリで到達できる範囲を超えて活動する事も十分に予想されます。そうなるとSTOVLの機能を有した機体が必要となり、現状その選択肢としてはV-22オスプレイが最も妥当な選択肢です。

またV-22オスプレイは早期警戒機としてのポテンシャルも秘めています。
F-35Bが空対空戦闘能力を持つといっても、艦隊として効果的な航空優勢領域を確保するには空中の目となる早期警戒機が不可欠なのです。

ただし、これについてはMCH-101ヘリコプターに搭載するシステムを導入する可能性についても同様に議論の余地があるでしょう。

まとめますと

F-35B+V-22+各種ヘリや無人機を搭載した軽空母、あるいは強襲揚陸艦が海上自衛隊において生まれる

と予想します。

これらの装備品は今まで「離島防衛用装備品」として積極的に導入が図られてきていましたが、筆者は離島防衛用の装備は、これらの構想にそのまま用いられると思います。
実際「離島防衛」にも役立つ装備品であり、中国にとって沖縄が太平洋への出入り口として魅力的である以上、離島防衛力が不可欠なのは確かです。
しかし実際には政府は離島防衛よりも更に先を見据えている。だが現状、積極的な前進防御の政策は政治的に避けたい。
そのような中で言わば「隠れ蓑」「建前」として、取得を進める上で「離島防衛」という言葉が使われてきたのではないでしょうか。

また「対北朝鮮」として扱われている装備品も、将来的にはこのシーレーン防衛構想に用いられる可能性があると思います。

ただし逆を言えば、今後各国との協調を前提に防衛装備品調達を考えるとなると、今までのような「自衛隊専用品」の開発・調達は今後難しくなるでしょう。

単独開発では無く共同開発が主流となるため、完成機を作り上げる能力よりも「強み」を活かして、共同開発においてどれだけ主導権を握れるか、自国の利益に沿う要望を組み込んでいけるかというのが、今後の防衛装備品開発では必要になるのではないでしょうか。
この点、日本の防衛装備産業をどのように維持していくかというのは、不安が残る部分ではあります。

一番影響を受けるのは
やはり陸自か

恐らく、というか言わずもがなですが、最もこの変革の影響を受けるのは陸自でしょう。

既に26大綱で機動部隊化が積極的に進められていますが、今後も引き続き冷戦型構造からの変革を余儀なくされ、機甲部隊や重火砲などは更に積極的に削減されていくのではないかと思います。

ただし、下図にもある通り、今後も引き続き北海道にはある程度の重火力が残されるものと思われます。

これは海の同盟が中国だけではなく、ロシアも見据えてるものという考えからです。
事実ロシアは北方領土に軍事基地を建設して、極東における軍事的プレゼンスを強化しています。
ロシアが狙うのがシーレーンへの侵攻か、逆にオホーツク海などでの戦略原潜の安定的運用か、その意図を掴むには資料が足りませぬが、何にせよ中国だけでなくロシアとは今後も北海道という最前線基地で対峙することになります。
その為には北海道に、やはり一定の抑止力が必要でしょう。

平成26年度防衛白書より

しかし北海道を除けば、やはり縮小の流れは避けられません。

戦車や重砲を主戦力とした部隊は北海道と九州がメインとなり、他の地域は機動戦闘車(16MCV)や迫撃砲などの空輸や緊急展開に即した装備品を中心とした即応機動連隊中心の編成へ。

また残った機甲部隊も師団隷下部隊を統合し、方面隊隷下部隊へというのが今後も進むでしょう。

陸上自衛隊の戦力が仮想敵国に大規模な着上陸作戦を思いとどまらせる抑止力となっていることは確かですが、近年の事情から考えると大規模な着上陸作戦そのものが考えにくくなっています。

家計でも収入が減ったら保険の見直しを考えると思いますが、日本という国もこれから人口減少=国力衰退の時代を迎えるにあたり、「着上陸作戦」という起こる可能性の低いリスクに対して高い保険金を払い続けることは出来ないのです。

さて、全三編に亘り長々と書いてきましたが、これを書いている筆者自身も色々と思うところがあります。

しかし、かつてフランスがマジノ線を構築したにも関わらずドイツにそれを迂回されたように、中国海軍が空母機動部隊を本格運用するようになれば、日本本土の防衛をどれだけ固めても、その外側で日本の生命線を絶たれてしまうわけです。

先ほども書いたとおり、これからの日本は人口減少と国力の衰退の時代を迎えます。
その中で如何に「抑止力」を発揮するか。

「集・散・動・静」、止まったままでは守りきれない以上、「動く」ことが必要な時代を迎えているのかもしれません。

※参考書籍

  • 軍事学入門(かや書房)
  • 戦略の地政学(著:秋元千明)
  • 陸上自衛隊・機甲科全史(著:菊池征雄)
  • 日本のステルス機・F-35ライトニングⅡ(イカロス出版)
  • 月刊J-Wing各号
  • 戦術の本質(著:木本寛明)
  • 戦闘機と空中戦の100年史(著:関賢太郎)