我が国の航空戦力においてF-4EJ改の老朽化が問題となることが多いですが、実はF-15Jイーグルもかなりの年数が経っているということはご存知でしょうか。

最初に日本へ導入されたF-15Jの機番は02-8801号機と02-8802号機。
自衛隊機の機番の頭一桁は領収年度、すなわち自衛隊に引き渡された西暦年度の下一桁。

F-15Jの最初の2機は「0」。これは1990年ではなくて「1980年」。
つまり日本で最初に導入されたイーグルは間もなく40年に達しようとしているのです。
2017年度末の時点で機齢30年を超えるイーグルは72-8895号機までの95機。
特にPre-MSIPやF-15SJと呼ばれる機体は戦力の面でも旧式となりつつあります。

812号機 1982年導入で機齢は35年に達する

ファントムだけではない、今後自衛隊にすぐに訪れるF-15Jの更新問題を改めて整理していきます。
(機体数などについては話をシンプルにするためDJ型を除いて解説していきます)

MSIPとは

F-15JにはPre-MSIP(F-15SJ)とJ-MSIP(F-15MJ)の2種類が存在します。

898号機までがPre-MSIP、それ以降の生産がJ-MSIP機になります。

MSIPとは米空軍で採用されたMulti Stage Improvement Program 、段階的能力増強計画の略語。J-MSIPはその日本版です。
そして、それ以外をMSIP非対象機としてPre-MSIPと呼んでいます。

MSIP機はイーグルを将来に亘り一線級の制空戦闘機として活躍させられるよう、将来的な拡張・改造の余地を最初から盛り込んだ設計がされています。

戦闘機は最早、飛行性能だけでは兵器としての優劣を確保できない時代です。
空戦の極意は時代が移り変わっても
「ファーストルック・ファーストショット・ファーストキル」
先に見つけ、先に撃ち、先に仕留める
より高性能なレーダーとミサイル、さらにはデータリンク能力が現代の航空戦ではこの優劣を担うことになります。

MSIP機は将来的に高性能なレーダーや電子機器が主流となった時、機体はそのままでそれらに積み変えることが可能なのです。

パソコンで言えば、拡張機器の増設や改造を見越したマザーボードや電源ユニットを選択してあるようなものです。
重量制限の厳しい航空機の設計において「拡張の余地を大幅に確保する」というのは大出力のエンジンと大型の機体を持つイーグルだからこそとも言えます。

Pre-MSIPの問題点

一方、Pre-MSIP機にはこのような改修の余地がありません。既存の電子機器で完成されてしまっているのです。仮に積み替える場合、まず「最新の電子機器を積める本体に作り直す」レベルの改修が必要と言われます。

先のパソコンの例で言えば、フロッピーディスクと読み込み専用の低速CD-Rドライブとグラフィックボードしか付いていないパソコンで、最新のブルーレイドライブとグラフィックボードを付けて高画質の映像コンテンツを楽しもうと思ったら

  • そもそも接続出来るポートが無い(ボードの規格が古い)
  • 電源能力も足りない
  • 排熱能力も足りない

新しい機器を付けるために電源ユニットを交換してマザーボードも交換して、更に冷却系も…

Pre-MSIPのF-15Jは戦闘機としては、そのようなイメージなのです。

勿論、飛行機ですので「機体そのもの」も非常に重要であり価値のあるものというのはパソコンの外装ケースと違うところではありますが。

F-15が開発段階から非常に高い性能を求められたとはいえ、基本設計は約半世紀前の1968年に作られた設計提案要求書にまで遡ります。
新しいイメージのあるF-15ですが、実は既に開発開始からは半世紀が経っているのです。

当時の設計要求ではARH(アクティブ・レーダー・ホーミング)ミサイルの運用や統合電子戦能力は盛り込まれておらず、機体自身のレーダーを活かした中距離セミアクテイブ(SARH)のスパローを主武装とする運用が考えられています。
F-15は誕生した時代としては保守的と言われる戦闘機です。

しかし時代は移り変わり、BVR・視界外戦闘の主流は自機からのレーダー照射を必要とするSARHではなく、より一方的な攻撃が可能になる撃ちっ放しのARHへ。
(ARH=アクティブレーダーホーミング。AIM-120などに代表される母機のレーダー照射に依存しないミサイル誘導方式。自機の生存性が大幅に向上する)

また戦闘機という限られたサイズのレーダーだけに頼らず、AWACSや地上とのデータリンクを用いた、より高度な状況認識を駆使した戦い方が求められています。
(対艦攻撃が最も分りやすい例ですが、レーダーの性能はサイズと電源能力に大きく依存します。同じ技術で作るレーダーならサイズが大きいほうが有利なのです)

この点を考えるとARHミサイルの運用能力を持たず、またデータリンク能力も乏しいF-15JのPre-MSIP機は既に一線級の戦闘機とは言えず
「レーダー性能などの点で、ファントムより少し上」
程度となっています。

Pre-MSIPの今後

Pre-MSIPには「改修する」か「機体を買い換える」かの二択しかありませんが、先進装備相当に改修する場合は、先ほども書いたようにパソコンならマザーボードごと交換するくらいの規模となります。
当然、費用・工期も莫大になりますので
改修内容に対して費用対効果が見込めるか
という点がまず一点。

またPre-MSIPの大半は間もなく機齢が30年を超える機体ばかりです。

F-15Jの構造的強度が優れているとはいえ「既に30年飛行した機体」であることは間違いなく、多額の改修費用が残飛行時間に見合うだけの費用対効果を得られるのかという点も問題となります。

F-15JのJ-MSIP機を形態2型へ改修するには12~13億円の費用が掛かっています。
更にこれはあくまでも「工賃」であり、改修用搭載機材として推定1機あたり12.5億円程度の費用が掛かると思われます(平成21年度予算案より推定)

1機のF-15Jを改修するのに最低でも25億円、更にPre-MSIPからJ-MSIP相当へ機体本体を改修する費用を考えれば30億は遥かに超えるのではないでしょうか。

これが「30年使った機体」に見合う価格かどうかと言われると、筆者は否定的な意見です。

買い換えるのであれば何が選ばれる?

F-35A一択だと思います。

F-15Jは元々F-104の更新計画・第三次F-Xで採用された戦闘機であり広大な領空をカバー可能な能力を強く求められています。

また一度採用すれば、今後最低でも20年30年と運用しますので、仮想脅威(言わずもがな大陸のお国です)に対して長期的に抑止力となり得る性能も必須です。
そうなると第5世代機が望ましい選択肢となります。

現状、F-15Jを置き換え今後何十年と第一線級の能力を発揮でき、かつ安定的な調達が可能な第5世代機は間違いなくF-35Aだけでしょう。(F-22は生産再開するつもりはなさそうですし)
国産機、いわゆるF-3は個人的にも期待するところではありますが、まだまだ先の話、F-2の後継機として選択肢に入れることを目的としていますので、F-15Jの置き換えには間に合いません。

またF-35Aの調達は現在のところ42機が予定されていますが、その調達にあたっては導入・初期準備コストとして2700億円以上が投じられています。
F-35Aの調達数を増やせば、機体1機あたりの初期コストを下げられるのです。

F-4EJ改の更新は2019年の発注をもって完了する見込みです。
(2018年度予算で8機購入、2019年度予算で更に8機購入とする場合)

よってF-35Aの購入でF-15JのPre-MSIP機を置き換えるのであれば、2020年度予算案に間に合わせる形で話が進むのではないかと思われます。

2020年発注の機体は2024年に納入されるので、2020年と2021年で1個飛行隊相当のF-35Aを発注するのであれば、最初の機種変更される飛行隊は2025年頃になるのではないでしょうか。

まず先行して302飛行隊がF-35A飛行隊となる予定ですので、次は301飛行隊。
そのまま300番台の飛行隊がF-35A部隊に生まれ変わり

200番台→F-15J
300番台→F-35A

となると個人的には予想しています。
Pre-MSIPのF-15Jが98機ですので、303~306の4個飛行隊を予備機込みで更新すると考えても、ちょうど数もしっくり来ます。

1年に最大8機としても2020年代に10年掛けて80機調達。
2030年代中盤までにPre-MSIP機の更新を完了(平行してF-2後継機の調達計画・開発)
続けて2030年代に退役の始まるであろうF-2の後継機調達へ、という流れではないでしょうか。

余談ながら、先日アメリカ大統領の来日で防衛装備品の購入拡大の話もありましたので
「F-35AをF-15JのPre-MSIP更新分として、更に追加で100機近く購入する」
となれば、米国にも顔が立つと思います。

※参考資料
F-15Jの科学(著:青木謙知)
F-15完全マニュアル(イカロス出版)
JWings 2016年11月号

痛飛行機弐