F-2後継機問題に見る、日本の『エアパワー』の乏しさ

F-2後継機問題に見る、日本の『エアパワー』の乏しさ

F-2戦闘機の後継機(仮称・F-3)の動向を巡って、最近報道が相次いでいます。

国産単独開発を断念する、既存機をベースに改良を加えて新型機とするなど、まだ真偽の程は定かではありませんが、少なくとも筆者は「国産・単独開発」は不可能であろうとの考えです。
政治的問題・技術的問題というよりも、国産の単独開発をする上で、日本には「エアパワー」が圧倒的に足りないと思うのです。

今回はF-2後継機問題を機に日本の「エアパワー」について考えてみたいと思います。


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エアパワー=空軍力ではない

○○パワーという言葉は、その国の軍隊のことを現すのに使われがちですが、正確には「その国が持つ力のトータル」という考え方になります。

例えば近年、隣国の海洋進出で聞く「シーパワー」という言葉は海軍力だけでなく、商船・民間船の運用能力、船員など人材の豊富さ、造船能力など「海」に関するあらゆる能力を含むものとされます。

エアパワーという言葉も同様です。

エアパワーは1930年、ウィリアム・ミッチェル少将(米国)が提言したもので国家が保有する航空に関する力の総称とされます。

エアーパワーは単に航空戦力だけでなく、官民の航空に関する企業、研究開発、生産組織、要員教育および資源などのほか、国家の施策、国民の総体的理解と支援を含めた広い概念
(かや書房・軍事学入門 P.195より引用)

つまり空軍とは国家にとってはエアパワーの軍事部門なのです。

日本のエアパワーが乏しいとは

旅客機が頻繁に往来し、公共交通機関として用いられている日本で「エアパワーが乏しい」とはどういうことか?と思われるかもしれません。

日本では確かに公共交通機関として飛行機が日常的に使われています。
また農薬散布、空中測量、空輸などの業務においても固定翼・回転翼が活躍しています・・・が。

言ってしまえばそれだけです。

いわゆるゼネラル・アビエーションの商業飛行も先のような限定的な用途のみ。
自家用用途で飛行機を用いるという文化も日本にはなかなか馴染まず「飛行機=公共交通・業務用」であり、またパイロットや航空従事者も限られた人間の特殊な仕事という認識が未だ根強いと言わざるを得ません。

また近年エアレースが日本でも開催されて、室屋選手が年間優勝を成し遂げるなど少しずつ注目度が上がっているものの、エアショーや空中遊覧など「飛行機を用いた娯楽」というのもなかなか定着していないのではないでしょうか。

また、最近「ドクターヘリのパイロットが足りない」と言われているのはご存知の方も多いかと思います。

ドクターヘリのパイロットは豊富なフライト経験を求められます。
しかし、それを目指すにも、まずヘリコプターで事業用ライセンスを自費で取るとこから始めないとならない。
仮に事業用ライセンスを取れてもパイロットの募集自体が少ないので就職先がなかなか見つからない。
就職先が無い=飛行時間を積めないので、ドクターヘリのパイロットをやれるだけの経験を積めない。
それで「ドクターヘリのパイロットが足りない!」と言っているのが、この国の現状です。

先に書いたとおり、国家のエアパワーとは「飛行機に関わる、あらゆること」の総合力となります。飛行機を使う仕事がそもそも少ない、パイロットや航空従事者の数が少ないということは、そのまま国家のエアパワーに反映されるわけです。

じゃあエアショーなどの娯楽は関係あるのか?と言われるかもしれませんが、筆者は「大あり」だと思います。

エアショーにお客さんが多く来れば1つの「興行」として大きな経済的効果を生みますし、注目されるイベントならスポンサーや協賛も多く付く。
そして生まれたお金が、また航空業界を盛り上げるという、プラスのループを生み出します。

生々しい話ですが「飛行機で、どれだけ人・モノ・金が動かせるか」というのも、広義のエアパワーだと思うのです。

そういう意味で日本という国のエアパワーは非常に「乏しい」と言わざるを得ません。

エアパワーが乏しいと
何故、国産機が作れない

筆者はエアパワーを、より専門的・高度な知識・技能を必要とする分野を上層部とするピラミッド状だと考えます。

(各画像はイメージで運航会社・機体オーナー等は関係ありません)

ピラミッドの高さは運用する技術の最高峰のレベル、そしてピラミッドの面積こそが「エアパワー」です。
なお、分かりやすくするために各機体を載せていますが、このピラミッドを構成する要素はパイロットや航空従事者に限らず、それに関する全ての事柄(経済効果など)と考えて下さい。

高い頂点を求めれば求めるほど、当然面積の大きなピラミッドが必要であり、何より「下層」がしっかりと土台として機能しないことには頂点は不安定になります。

しかし先ほども書いたとおり、日本のエアパワーピラミッドは下層があまりに貧弱です。その割に、最先端の航空技術を運用しています。

まさに「高さの割に土台が脆いピラミッド」が、日本のエアパワーの現状であると考えます。

そして最先端技術の塊である戦闘機の開発はピラミッドの頂点・最上部に大きな負荷を掛ける行為です。

当然、土台が貧弱なピラミッドの頭に重いものを載せたらあっという間に崩れていきます。

日本が単独で戦闘機の開発に乗り出すというのは、まさに「貧弱なピラミッドの頭に重荷を載せる」行為だと筆者は考えるのです。

プロジェクトが頓挫・失敗だけで済むなら、まだ御の字。
エアパワーピラミッドが崩れるということは他の航空関連事業にも影響を生みかねないでしょう。

そこまでのリスクを犯してまで単独開発を進めるメリットはあるのか?
技術的に可能、予算があれば可能ではなく、このような観点からも戦闘機開発という巨大事業は見ていく必要があると思います。