航空自衛隊・三沢基地にF-35Aの臨時飛行隊が発足するなど、日本でも徐々に第5世代ジェット戦闘機、いわゆるステルス戦闘機の配備が進んでいます。

レーダーに写りにくい隠密性と、高性能な電子機器によるネットワーク戦闘を可能として、従来の空戦の常識を変えるゲームチェンジャーとすら言われる第5世代機ですが、実はその特性上、表には見えない「機内の冷却」という非常に厄介な問題を抱えています。

今回はステルス機が何故、冷却が問題になるのか、解説していきます。

戦闘機は熱源を
積んでるようなもの

目視による戦闘に依存していた時代と異なり、現代の戦闘機では高出力のレーダーが「眼」として不可欠です。

F-15Jに搭載されるAN/APG-63レーダーであれば空中線電力は5kW。

関東だとJ-WAVE・FMヨコハマなどのFM局の送信所から発信される電波が同じくらいの出力を出しています。

ラジオ局の送信所と同じ規模の出力を出すものを、機体に積み込んでいると考えると如何に凄まじい出力か想像していただけるのではないでしょうか。

更にレーダーやネットワークを通じて得られた情報を処理する演算装置、エンジンや機体を制御する為の演算装置etc…

現代の戦闘機は、とにかく「熱」を生じるものが多いのです。

発生する熱を溜め込むことは出来ず、何らかの方法で処理しないことにはいわゆる「熱暴走」に至り、機能停止に陥る恐れがあることは言うまでもありません。

発生する熱を如何にして効率よく処理するかは、戦闘機にとって死活問題なのです。

第4世代までは空冷に依存

これらの発生する熱を処理するため、戦闘機では主に外気の取り入れに依存してきました。

USAF F-16 FlightManualより引用

エンジンのタービンにより圧縮された空気や、機体の各所から取り入れた外気を用いて機内の冷却やコクピットの与圧・空調などをまとめて行うECS=Environmental Control Systems(環境制御システム)により機内電子機器の冷却を行う冷気=COOL AIRを抽出するという仕組みです。

F-15Jだと、機体のお腹側に熱交換器用の外気インテークが付いているのが確認できます。

第5世代機は従来の
常識が通用しない

では第5世代のステルス機でも同様のシステムでいいのではと考えてしまいますが、RCS=レーダー反射断面積を小さくする設計においては、この常識が通用しません。

ステルス機と呼ばれる機体を見ると、どれも表面は非常に滑らかですが、これはRCSを極力小さくするため。
エアインテークの突起物や開口部の段差などがレーダーを反射する原因となってしまい、機体のRCSを増大させてしまうのです。

しかしRCSを小さくするために開口部を少なくするということは、冷却用の空気を取り入れるのが難しくなるということ。

では発熱量を抑えればいいのかというと、そうもいかず。

第5世代機はステルス性のみならず、高性能な電子機器によるネットワーク戦闘システムや状況認識能力の強化が大きな武器です。
それを実現するには、むしろ従来機よりも更に多くの電子機器を積み込む必要があります。

発熱量は増えるのに、冷却用の空気は取り入れにくくなる。
ステルス性とネットワーク戦闘を主とする第5世代機ではこの矛盾する難問をクリアする必要が生じます。

燃料で冷却?

この問題を解決する為に、燃料を冷却材とした環境制御システムが考えられているようです。

平成27年度政策評価書「将来戦闘機用小型熱移送システムに関する研究」より引用

仕組みとしては家庭用エアコンなどと同じ冷凍サイクルを用いたものですが、エアコン(冷房運転時)が凝縮工程において空気を冷却材とするのに対して、燃料が冷却材として用いられているのが特徴的です。

ジェット燃料の主成分・ケロシンの比熱は1.67kj/kg ℃

密度0.8として5000L=4000kgのケロシンは温度を10℃変化させることで、66800kJの熱量を理論上は吸収出来ます。
10kWの機器が2時間弱で発する熱量に相当するほどです。

ただ「理屈の上では」の話というのが重要なところ。

皆さんの家庭用のエアコン室外機を見ると、大きな金属の細かい網目みたいなものがビッシリと並んでいると思いますが、あれが「熱交換器」。
すなわち熱を空気中に放出するための部分です。

なぜ、あれだけ細かい網目になっているかというと、少しでも熱交換の効率を上げるため。出来るだけ広い面積で冷媒と空気の熱がやり取り出来たほうが熱交換効率=エアコンの性能が上がるのです。

しかし機体のサイズに限界のある戦闘機においては、あまり大きな熱交換器を積むことは期待出来ません。

限りあるスペースで、どれだけ効率の良い熱交換が出来るかというのも非常に難しい問題となるでしょう。

 

ステルス性や高性能なネットワーク戦闘能力などが取り上げられることの多い最新の戦闘機ですが、実はそれを実現する為に見えないところでも様々な工夫がなされているのです。

※参考文献
知られざるステルスの技術(著:青木謙知)
F-15完全マニュアル(イカロス出版)
戦闘機と空中戦の100年史(著:関賢太郎)