次期防衛大綱において護衛艦「いずも」の空母改修が正式に決まるなど、今後の安全保障において海上自衛隊が担う役割はより大きなものになると予想されます。

陸海空の3軍において「海」は陸や空には無い独特の強みを有しています。

今後、大きく変わる海上自衛隊を考える上で『海軍』という組織が持つ独特の役割と、現代の事情において重宝されがちな訳について改めて考えてみたいと思います。

海軍の強み①
外交機能

古来より、海軍は軍隊であると同時に『外交官』としての役割を強く担って来ました。
そして『軍艦』には公海上は勿論、外国領海航行時や入港時においても他国からの干渉を受けないという、一般の商船とは比べ物にならないほどの権限が与えられています。
まさに『国家の象徴』として、国の威信をその旗に掲げているわけです。

海外から軍艦が親善訪問で寄航する際には国家間の友好の象徴として祝賀行事が開かれたり、逆に寄航を取りやめることで無言のメッセージを発することが出来たり、船が港に入るか否かだけでも外交的なメッセージはかなり強いものです。

これは即ち有事においての戦力としての意味だけでは無く、平時における安全保障のプレゼンス国家としてのメッセージ発信において、海軍が強い意味を持つということです。

また海軍自身も自らが外交機能を担うものとして、そういった文化が育まれています。

海軍の強み②
ROEの徹底

海軍のもう1つの強みとして挙げられるのが、ROE:Rules of Engagement、日本語で言うところの『交戦規定』が徹底しやすいという点にあります。

陸軍の場合、1兵士であっても銃を与えられます。
指揮統制上、必ず士官・幹部の指揮下に入り身勝手な行動は出来ませんが、何か不測の事態や突発的な状況に陥ったときに、1人の兵士であっても与えられた銃を使って『武器の使用』が出来てしまうということです。

対して海軍艦艇の場合、基本的に乗組員個人では艦艇の如何なる武器も使用することは出来ません。艦艇でも機銃や小火器を用いることはありますが、乗員に常に与えられているわけではありません。
駆逐艦であれば中佐、更に大型の艦になれば大佐以上の士官を艦長とした厳密な指揮統制で『1つの戦闘組織』として行動することになります。

昨今の軍事行動は、従来の『戦争』よりも更に複雑な様相を呈しています。

Millitary Operation Other Than War、MOOTW:戦争では無い軍事作戦とでも言うべき領域が、軍隊の活動の中心を占めつつあるのです。例えば米海軍が定期的に実施している『航行の自由作戦』は、このMOOTWの1つであると言えるでしょう。

このような作戦は極めて強い政治的意図に基づいて実施されますが、この際にROE:交戦規定の徹底は非常に重要な要素です。

このような軍事行動の機会が増えた昨今、ROEの徹底を行いやすい海軍は重宝されがちなのです。

海軍の強み③
継続性と行動の迅速性

軍隊の行動においては『継続的』な作戦行動が求められるケースが多々あります。

とある地域において最も継続的に作戦行動が可能なのは他ならぬ、軍人自らがその足で土地を支配することの出来る『陸軍』であることは言うまでもありません。
補給さえ続けられるのであれば陸軍は数ヶ月~年単位でも作戦を継続できます。
空軍なら音速の世界で圧倒的な火力を地形の障害を超えて長距離展開可能ですが、空中給油機を用いても、その場所に『留まり続ける』ということは出来ないのです。

しかし陸軍にも1つ欠点があります。

展開するのにある程度時間が必要であること、そして一度展開してしまうと容易には撤収出来ないという点です。

先のMOOTWやROEの話とも重複するところがありますが、現代の軍事作戦は複雑な政治的要素が多く絡み、速やかに展開することが求められることもあれば、逆に迅速な撤収が重要になることもあります。

また陸軍は土地を『支配』する存在ですので、陸軍の展開はかなりのリスクを覚悟しなければなりません。

では海軍はどうか?

海軍の艦艇は補給無しでも一定期間の作戦行動を持続できるだけの物資が貯蔵可能であり、同じ海域に留まり続けることも容易です。
補給艦を随伴させたり、航空機による輸送を受ければ作戦行動の期間を更に延ばすことも出来ます。

そして陸軍と異なり、艦そのものが移動手段というのも大きな特徴です。

速力数十ノットと航空機から見れば鈍足かもしれませんが、交代制で24時間航海を続けられる軍艦は1日で最長1000キロ近くを移動できます。
更に仮に撤収の必要があれば、速やかに離脱することも出来ます。

一定期間の継続作戦能力と機動性を兼ね備えた軍艦は、複雑な政治的要素が絡む軍事行動には持って来いの存在と言えます。

 

陸海空、それぞれの軍にはどれもお互いに無い独特の強みがあります。

しかし、その中でも海軍という組織は現代の複雑な事情において何かと重宝される存在なのです。

※参考文献

  • 各年度防衛白書(防衛省)
  • 軍事学入門(かや書房)