先日、小笠原諸島の空港建設において滑走路を1000mにするという話が出てきた際に

「US-2を旅客用にして使用できないか」

という話がちらほらと見受けられました。

確かに現状、本州~小笠原間の緊急輸送やVIP輸送などでUS-2が使用されており、空港を作らずに飛行艇による輸送を行うというのは1つの案です。

しかし「空港を作らない」というメリットだけではなく、当然飛行艇ならではのデメリットも多数存在します。

今回はあえて「デメリット」の観点を中心にUS-2の旅客輸送について解説していきます。

飛行艇は「重い」

飛行艇の大きなデメリットの1つが、同規模の陸上機と比較して重量が非常に大きくなるという点です。

これは陸上機が着陸の際に主脚の減衰機構を用いて接地するのに対して、飛行艇は胴体で直接水面へと降りるため、その衝撃に耐えうる構造となるためです。

US-2飛行艇を旅客用に改造した場合、約40名の旅客を運ぶ事が可能とされていますが、その自重は20トンを超えると言われています。
(US-1Aの空虚重量が約25トンのため、US-2も20トンは確実に超えていると推定)

経済産業省 小型民間輸送機等開発調査 事業評価資料より引用
http://www.meti.go.jp/policy/tech_evaluation/c00/C0000000H24/121129_koukuuki/koukuu6-2.pdf

これに対し約50名を運べるDHC-8-Q300を例に取ると「最大離陸重量」でも20トンは超えません。空虚重量ならUS-2の半分ほどです。

双発機と4発機という違いはありますがUS-2用のAE2100エンジンでも1基は1トンありませんので、エンジン2発分の重量差を差し引いても、US-2という機体が如何に重いかがお分かりいただけるかと思います。

機体が重いということは、同じだけの距離・時間、空を飛ぶのに膨大なエネルギーを余計に消費します。
飛行機のエネルギーとは即ち「燃料」ですから、余計に燃料を消費する→1フライトに必要な燃料が多い→燃料代が余計に掛かる、ということです。

塩害による
メンテ費増大

金属で構成される機械にとって「海水」は非常に厄介な存在です。
海水による塩害の影響は凄まじいものがあり、エアコンの室外機などでも海の近くに設置する為の「重塩害仕様」があるほどです(それでも一般の環境に比べて早く壊れるといわれるほど)

洋上で着水・離水を行うUS-2も当然、この塩害の問題が避けて通れません。

飛行後の念入りな洗浄などは勿論ですが、陸上機と比較して交換周期やオーバーホール周期が短くなる部分も多いでしょう。

そうなると当然ですがメンテナンス費用が陸上機と比較して高くなります。

ライセンスの問題

US-2を運航する場合、機体だけでなく操縦士の方にも問題があります。

US-2はその構造上、民間転用されれば「水上多発タービン機」という扱いになります。
水上機でエンジンが2つ以上=多発、ターボプロップ=タービン、ということです。

操縦するには水上多発タービン機のライセンスを持つパイロットが必要になります。

しかし現状、日本においては水上多発タービンという機体はUS-2以外には飛んでいません。そもそも水上機自体が非常にニッチな存在です。

よってUS-2を民間転用しても、そもそも操縦できる人間が日本にはほとんどいないのです。仮に操縦士を安定確保しようと思えば、海上自衛隊でUS-2に搭乗してた操縦士が再就職で務める他ないでしょう。

人材の確保という点でもUS-2による旅客輸送は問題点を抱えています。

 

この他にも外洋への着水の難しさ、機体コストそのものの高さなどUS-2を旅客用に用いる上での問題点は非常に多岐に渡ります。

自然環境保護などを優先して空港を作らないというのも一手ではありますが、飛行艇を運用するにも課題は多い、というのを念頭に置く必要があると筆者は考えます。

※参考資料

  • 経済産業省 小型民間輸送機等開発調査 事業評価資料
  • 国土交通省 航空従事者の資格・種類について
  • ボンバルディア社HP
  • 海上自衛隊HP