大空を飛び回る戦闘機や、体調の貨物・人員を運ぶ輸送機、大海原をパトロールする哨戒機、自衛隊の活動に航空機と、それを飛ばすパイロットの存在は欠かせません。

よく「自衛隊機は免許がいらない」と言われますが、これはあくまでも「国交省・航空局の発行するライセンスが不要」であって、自衛隊のパイロットは全員が防衛大臣の発行するライセンスを持って飛行しています。
(加えて言うと、現在の操縦士養成課程では事業用操縦士資格が組み込まれており、自衛隊パイロットは基本的には民間ライセンスも所持)

この自衛隊の操縦士ライセンス、どのような仕組みになっているか、解説していきます。

大まかに分けると4種類

自衛隊の操縦ライセンスは正式には「航空従事者技能証明」で民間でのライセンスと同じ名称が使われています(パイロットに限らず、航空機に乗り込む職種や整備士などについても同様)

民間では操縦ライセンスとして固定翼・回転翼・滑空機・飛行船の4種類が規定されていますが、自衛隊のライセンスでは

  • 操縦士・・・固定翼機の操縦
  • H操縦士・・・回転翼機の操縦
  • L操縦士・・・連絡機の操縦
  • G操縦士・・・滑空機の操縦

G操縦士、滑空機のライセンスについて「自衛隊にグライダーあったっけ?」と思われるかもしれませんが、防衛大学校に存在しています。
事実上、防衛大学でのグライダー飛行専用のライセンスです。

また自衛隊には「飛行船」は存在しないので、民間ライセンスにおける飛行船に該当するものも当然存在しませんが、自衛隊独自の区分として「L操縦士」というものが存在します。

これは陸上自衛隊の連絡機(現在はLR-2)「だけ」を操縦できるという、ちょっと変わったライセンスです。

何故、このようなライセンスが設けられているか、正確なことは分かりませんが陸自の連絡機パイロットは
海上自衛隊に出向してT-5練習機で初等教育を受けた後、陸上自衛隊でLR-2の訓練を受ける
という特殊な教育体系が取られています。陸上自衛隊に固定翼操縦士の初等教育を行う環境が存在しないためです。

空自や海自とは異なる教育となるため、別枠でライセンスが設けられているのではないか、というのが筆者の推測です。

なお民間のように自家用・事業用・定期輸送といった区分はありませんが、上級・高級といった飛行時間に応じたライセンスが操縦士・L操縦士・H操縦士にそれぞれ設定されている他、「新型機基本操縦士」という新規導入された機体用のライセンスもあるようです。

また計器飛行(夜間・悪天候時などに計器を用いて飛行する)に必要な計器飛行証明は、民間と同様に設定されています。

ライセンス上の
航空機の種類

民間ではタービン・ピストン、水上・陸上、多発・単発などの種類が細かく分かれていますが、自衛隊のライセンスでは陸上・水上、多発・単発の区分と共に

  • (1)ターボジエツト発動機をおもな動力とする固定翼航空機 J
  • (2)プロペラ推進を主とする固定翼航空機 P
  • (3)連絡用航空機 L
  • (4)回転翼航空機 H

という区分が使われています。

民間ではエンジンの種類によってタービン機とレシプロ機で分けられていますが、2020年現在自衛隊で採用されている機体にはレシプロエンジンを搭載した機体は1つもありません。初等練習機も含め固定翼に限らず回転翼も全て「タービン機」です。

その為、固定翼をタービン・レシプロで分けるのではなく、ジェット機とプロペラ機で分けているようです。

なお

高級操縦士、上級操縦士、操縦士及び新型機基本操縦士については、その者の技能に応じ、その者が操縦を行うことができる航空機を具体的に指定する。
引用:航空従事者技能証明及び計器飛行証明に関する訓令の運用方針について

とあることから、民間ライセンスにおける型式限定と同様、機種ごとにもライセンスが必要なようです。

自衛隊の操縦
ライセンスの小噺

空自のヘリパイはいきなりUH-60に乗る

一般に民間のヘリコプター操縦の訓練では、一番最初に乗る機体としてロビンソンR22などの小型・軽量なヘリコプターが好まれます。
扱いやすく、また運用コストが安い=訓練費用も安いというのが大きな理由です。

陸海空全ての自衛隊にヘリコプターが存在しますが、陸上自衛隊ではTH-480、海上自衛隊ではTH-135が練習ヘリとして存在するのに対し、航空自衛隊には「練習ヘリ」は存在しません。

では航空自衛隊のヘリコプターパイロットはどのように訓練を受けるかというと、T-7での初等教育→T-400での基本操縦教育を受けた後、いきなり救難機操縦課程として小牧基地でUH-60Jでの飛行訓練を受けます。

T-400で飛行訓練自体は行っているとはいえ、ヘリコプターの中ではかなりの大型・大出力の機体であるUH-60Jが「初めて操縦するヘリコプター」になる訓練生の方は大変そうですね。

他の機種からの転換しか出来ない機体

自衛隊機で特定の機種を操縦するためには、航空自衛隊を例にとると
T-4やT-400での基本操縦課程を修了した後に進む
「戦闘機操縦課程」「輸送機操縦課程」「救難機操縦課程」
の何れかを修了するか「機種転換操縦課程」を受けて他の機種のパイロットが新たな機体の操縦資格を得るかの2種類があります。

しかし、一部の機種は「機種転換操縦課程」しか用意されておらず、事実上他の機種での経験が無いと操縦できません。

戦闘機操縦課程はF-15とF-2、輸送機操縦課程はC-1、C-2とC-130、救難機操縦課程はUH-60JとU-125Aのみが設置されており、その他の機種はすべて機種転換課程です。
例えばB767をベースにしたKC-767やE-767は、他の機種で1000時間の飛行経験を積んだ後に機種転換訓練を受けることが出来ます。

※参考資料

  • 航空従事者技能証明及び計器飛行証明に関する訓令の運用方針について
  • 航空従事者技能証明及び計器飛行証明に関する訓令
  • 滑空機の飛行教育に関する達
  • 航空自衛隊の基本教育に関する達