9月3日の読売新聞にて、日本政府がレーザーによるミサイルの迎撃を目的とした新システムの開発を開始するという報道を出しました。

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レーザー兵器というとSFの世界にも思えますが、実際のところ米軍などを中心にレーザーの軍事兵器としての研究は進んでおり、一部は実用化段階に入っています。

しかし、筆者はこの日本のレーザー兵器によるミサイル迎撃というのにはいささか疑問を感じています。

そもそもレーザーで弾道ミサイルは落とせるのか

結論から言うと、可能です。

しかし「距離による減衰が大きい」ということ、また「狙うのであればブースト(上昇)フェイズ」という条件が付くかと思います。

先の報道では艦載型による迎撃も描かれていますが、大気が濃く減衰の大きい地表面付近からの長距離レーザー照射はあまり現実的ではないでしょう。なので航空機搭載型に限って話をしていきます。

「狙うのであればブーストフェイズ」というのは、どういう意味か。

ミッドコースの迎撃を担うRIM-161スタンダードミサイル3での迎撃は、迎撃弾を目標に直撃させることにより160MJのエネルギーを与えて破壊します。

AFPの報道で米軍が近い将来300kW級レーザーを運用可能との話がありましたが、300kWの出力を全く減衰無しで対象に与えることが出来たとしてもSM-3と同じエネルギーを与えるには約9分を要する計算です。
そして実際には減衰を大きく考えなければならないので、少なくとも10分以上「照射を継続」する必要があります。

弾道ミサイルの膨大な運動エネルギーを相殺するには、それだけ大きなエネルギーが必要であり、レーザーという限られたエネルギー投射では難しいのです。
そもそも弾道ミサイルの弾頭は超高温に晒される再突入を想定して設計されています。レーザーによる熱エネルギーで簡単に無効化はされないでしょう。
(破損により耐熱性能が低下して再突入に失敗するという可能性はありますが)

では、ブーストフェイズなら何故破壊出来るのかと言うと「非常に不安定な状態」であるからです。

燃焼を終えるまでの弾道ミサイルは巨大なロケットと同様、大量の可燃物を積んで更に高温の燃焼ガスを吐き続けています。
この状態で僅かな異常でもあれば正常な飛行が出来なくなるのは、数多くのロケット打ち上げの失敗が物語るところでしょう。

スペースシャトル・チャレンジャー号が打ち上げ後に爆発した事故は、機体接合部のOリング(ガスケット)が寒さで機能不全になったという、たった1つの部品の不具合により発生しました。それくらいデリケートなのです。

よって、高出力のレーザー照射により上昇中の弾道ミサイルの何処か1箇所でも貫通または溶解出来れば破壊に至る公算は十分にあります。
弾頭の運動エネルギーを相殺するのではなく、小さな破壊により自らのエネルギーで崩壊させるということです。

実際、米軍ではAL-1という計画が過去に存在しました。
747型機に大出力のレーザーユニットを載せてブーストフェイズの迎撃を行うという計画です。

技術的には可能。では実際には?

航空機搭載型にする場合、現状では高出力のレーザー装置は本体そのものが非常に大きく、また電源確保の観点からも大型ジェネレーターを要しますので、必然的に輸送機ベースの機体が母機となります。

当然、輸送機は自ら戦闘能力を持たないため、作戦行動においては航空優勢の確保=戦闘機・電子戦機によるエスコートが不可欠です。

またミサイル防衛として考えた場合、常時迎撃が可能な体制を確保せざるを得ないでしょう。

加えてブーストフェイズを狙うということは敵に接近して任務を行うことになるので、日本本土より離れたところで長時間の任務を遂行する必要があります。

個人的には発射母機やレーザー技術の開発よりも、このバックアップ体制と常時稼動体制の維持というのが非常にネックになるのではと思います。

日本海の幅は約1000km。レーザーを北朝鮮沿岸500km地点から照射出来ると甘く仮定しても、小松基地などからエスコートの戦闘機が500km先の作戦空域に展開して護衛任務を行い、その状態を常時維持する・・・

恐らく、空自の運用体制では無理でしょう。
そもそも電子戦機(敵防空網を無効化する電子妨害機)が日本にはありません。

無人機に頼るという選択肢もありますが

  • 無人機の運用には通信衛星、中継装置などの膨大な通信システムを整備する必要がある。
  • 敵防空網を無効化出来ないなら、どのみち撃墜されるリスクがある

運用は困難かと思います。

痛飛行機弐