先日も北九州を襲った記録的な豪雨で、各地の自衛隊が災害派遣に駆けつけているようですが、災害派遣で自衛隊が動くと
「レスキューはオレンジとか目立つ色を着ているのに、自衛隊は何故、迷彩服なのか?」
「二次災害の時に見つけにくいのでは?」
「災害派遣専用の制服作らないの?」
などという声がチラホラ聞こえます。

自衛隊が何故、災害派遣でも迷彩服を着用するか、今回は一番災害派遣で見かける機会の多い陸上自衛隊を主に、短いながら解説していきます。

被服に関する予算・管理の問題

自衛隊で一般的に使われる迷彩服は「作業服」または「戦闘服」と呼ばれますが、今回は全隊員に支給される「作業服」の方で解説していきます。
(戦闘装着キットに使うのが「戦闘服」、その他は「作業服」)

皆さんは自衛隊の作業服って、年間で何着程度調達されているかご存知でしょうか?

平成28年度の競争契約(基準額以上)に記載されている分だけで、平成28年度における作業服2型の調達量は

約15万4千着

です。(実際は、更にプラスアルファがあります)

何せ陸上自衛隊の定数で15万人いるので、当然扱う衣服の量も膨大な数になります。

で、この数を揃えるために、どれくらいの予算が必要かと言うと

約20億4700万円(税抜)

大体、1着が税抜で13,000円くらい掛かります。
災害派遣用の制服を新たに作るとしても、それなりの強度が必要ですから、上下で同じくらいの金額は間違いなく掛かるでしょう。

なので仮に災害専用の衣服を1人1着調達する為にも初期費用で20億円、しかも当然毎年新入隊員が入隊しますし、衣服も消耗品ですから当然定期的に交換が必要になります。
つまりドンブリ勘定でも、毎年10億円以上の予算が必要なのです。

futuu

また自衛官が着用している被服というのは「官給品」すなわち「貸与品」です。
隊員個人に与えられているのではなく、「自衛官としての任務に必要な道具を、国から借りている」のです。
自衛官の方は、通称「官品(カンピン)」と呼びます。

陸上自衛隊の曹を例にとると個人には作業服が2セット貸与されますが、管理は個人に委ねられます。
この他にも、夏服・冬服・防寒着etc…が貸与されているので、これらを全て個人で管理しなければならないのです。部隊によりますが、常に使える状態にしておかないと駄目なんて話も聞いたことが。
当然「紛失」なんて起こした日には始末書は確定です。
(薬莢を紛失して捜索するニュースがよくありますが、官給品紛失も物によっては大騒ぎになります)

そこに普段使わない災害派遣用作業服を追加すると…営内生活者の、ただでさえ狭いロッカーは大変なことになりますし、手間も増えます。

ちなみに筆者の同僚(陸出身)は「災害用の服なんて追加するなら、作業服追加して!2着じゃ足りない!」と申しておりました。

他にも管理品が1種類増えれば、その分、在庫スペースや発注の事務にも負担が掛かります。つまり災害用の制服を追加する事は、他ならぬ現場の自衛官に負担を掛けることになってしまうのです。

それでなくても、災害というイレギュラーな事態に際しては「使い慣れた安心できるもの」を使いたいというのが、自然な考えだと思います。

識別上の問題

災害現場では多種多様な組織の人間が入り混じって活動を行います。
警察・消防・役所・民間業者etc…
これらと混じって作業を行う中で、自衛隊の迷彩服というのは「自衛隊」という非常に分かりやすいシンボルマークになります。

同様に警察や消防も、それぞれが所属を分かりやすくするため、互いに違う色の制服を使っていることが一般的です。

東京都の例を見ると

rescue

東京消防庁 特別救助隊(レスキュー)

keisityo

警視庁機動救助隊

dmat

災害派遣医療チーム DMAT

rikuji

陸上自衛隊

お互いに被らない配色を採用していることが、お分かりいただけるかと思います。

dmatriku

resc

こちらの2枚は陸自のヘリを使ってDMATとレスキュー隊が展開する様子ですが、着陸地点を指示するカラースモークで視界が濁っているのに、はっきりと衣服のカラーの違いが見て取れるかと思います。

災害現場というのは、非常に緊迫・混乱した状況が予測されます。

その中で「見た目が分かりやすい」というのは、非常に大きなメリットなのです。

自衛隊に救助へ適した制服を用意するということは、こういった他の組織との調整も必要になります。
そもそも災害現場で目立つ色(原色系・警戒色)は各都道府県の他組織で採用されていると思うので、全国で共通の制服を使う自衛隊にとって「何処の県でも他の組織と被らない、救助活動に適した色」が存在するのか分かりません。

最後に

自衛隊の本分は、あくまでも「国防」で、装備や隊員の訓練は全てその為に用意されているものです。
災害派遣は、その国防のための能力を活かして活動するのが本来の姿であり、災害派遣専用の制服を作るというのは、本来の趣旨から外れることだと思うのです。

災害派遣は「どうしようもない時の奥の手」として運用されるべきであり、それが常態化してしまうことは、自衛隊本来の任務に支障が出るだけでなく、「行政として、災害にどうやって備えていくか」という議論を停滞させかねず、結果的に国として悪い方向に進みかねないのではないか、というのが筆者の持論です。

痛飛行機弐