(追記)
平成29年6月18日報道より、乗員7名は艦内で発見され、いずれも死亡とのこと。
ご冥福をお祈りいたします。

事故概要

日本時間6/17未明、伊豆半島石廊崎南東の沖合いにて米海軍駆逐艦とフィリピン船籍の貨物船が衝突。
駆逐艦は右舷に大きな損傷を負うも、タグボートの支援を受けて横須賀へ。

また貨物船は左舷先端部に損傷あり。
その後、東京港へ自力航行。

駆逐艦の乗員7名が行方不明(海中転落か)
→艦内にて遺体で発見(6/18追記)

当日の石廊崎観測所の天候は晴れ。

米海軍駆逐艦詳細

アーレイバーク級駆逐艦12番艦(フライトⅠ)DDG-62「フィッツジェラルド」

満載排水量:約8300トン

第5空母打撃群所属、2017年現在の母港は横須賀。

対弾道ミサイル迎撃用の改修が施されており、北朝鮮のミサイル発射予告などでの警戒出動事例あり。

2015年筆者撮影

2015年筆者撮影

貨物船側詳細

船名:ACX CRYSTAL(エーシーエックスクリスタル)

船籍:フィリピン
運航者:NYK Container Line(日本企業・日本郵船100%子会社)
総トン数:29000トン(但し、これは容積を示す)
船主:大日インベスト株式会社(日本企業)

フィリピン船籍ということで、何かと騒がれているようですが、運航しているのは他ならぬ日本企業で、船そのものも日本企業が船主です。

事故までの流れと原因の考察

貨物船ACX CRYSTAL(便名158N)は名古屋港を6月16日17:29(JST)に出港。
目的地は東京。

以下、断り無き限り、時刻は日本標準時。
またデータはAIS Marine Trafficのデータを引用。

方位85度、ほぼ真東に針路を取り、15kt~20ktで航行していたと思われる。

日が変わり6/17 01:20頃、同船は取り舵で針路を約15度左へ転針。
方位70度で約10分間航行。

6/17 01:30 頃、 ACX CRYSTALの航行ログに急激な右への針路変更が記録されている。

AIS1

以降、同船は減速して周辺海域を引き返す航路を取っているため、恐らくはこのタイミングで衝突したのではないかと推定される。
(現在、米海軍の広報資料は02:30に事故発生となっているが、あくまでも確認の取れた時刻と考えればズレがあると考えて不思議は無い)

海上の交通ルールでは
・他の船を追い越す場合(追越船)
追い越す船に回避義務がある。
追い越される船は速力・針路を保持する

・航路が交差する場合(横切船)
相手を右にみる船は、針路が交差しないように、自ら回避義務がある。
相手の船は針路・速力を保持する。

というルールがあります。

なので、仮に追越状況での事故だった場合

oikoshimiss貨物船が安全に抜き去る義務があり、駆逐艦は針路保持の義務を負います。
この場合、貨物船側の責任が大きいかもしれません。

また交差での事故だった場合

simple駆逐艦側が貨物船の針路を横切ることになるので、このケースだと駆逐艦の非が大きくなります。
但し、貨物船は針路を左に転針していますので、駆逐艦の接近を確認しながら左に舵を取ったなら、針路保持を怠ったことになりますし、衝突の可能性がある距離で駆逐艦を見落としたなら、貨物船側も見張り不足の責任を問われる可能性があります。

ただ報道に寄れば、お互いに同じ方向へ進んでいて衝突したとの情報もあります。
相手との位置関係が微妙な場合、追越なのか交差なのかの判断に迷う事があるそうです。
(側舷灯が見えない場合は「追越」の位置関係になる)

そうなると、お互いがお互いに危険な方向へ舵を取ってしまう可能性は十分に考えられます。

即ち

駆逐艦側は、貨物船を自艦の右に見たため、貨物船の針路を横切ることになると判断。
自艦は右に針路を変え、また減速することで、優先権のある貨物船の後ろを通ってやり過ごそうとした。

yokogirikutiku

対して貨物船は、自らの速力が相手より速く、追い越しになると判断。
針路を保つと、駆逐艦に接近する恐れがあるため、駆逐艦の後ろで針路を横切り、左から追い越す判断。
(追い越される駆逐艦は、十分な距離を取るまで針路・速力を保持すると推測)

oikosikamotsu

しかし実際は、お互いがお互いに「逆」の動きを想像してしまった、結果

crashお互いの距離が一気に狭まり、回避不能になったのではないか、という両艦の判断・操船ミスが事故を招いた、というのも十分にありえると思います。

但し海上衝突予防のルールにおいては、両者に見張り義務があると考えられており、どちらかが100%悪いということは滅多にありません。
(相手の船が適切な回避を取っていない場合、針路保持船は短声5回の汽笛吹鳴により警告を行い、それでも衝突の恐れがあるなら自らも回避行動を取る)

日本側の対応

報道などで確認できた限りですが、館山の第73航空隊と思われる救難飛行隊が出動。
(恐らく、重傷者の搬送などか)

また海上保安庁のヘリコプターも出動しているとのこと。

またDD155「はまぎり」と、DD111「おおなみ」が午前中にかなりのスピード(25kt以上)で伊豆半島沖合いに向かっているのがAISで確認されているので、恐らくは不明者捜索の増援では無いかと思われます。

また、海上保安庁の巡視船「いず」の他、海保最大の巡視船「しきしま型」の「あきつしま」も、動いているようです。

何はともあれ、不明者の早期発見と、事故原因の解明を願うばかりです。

蛇足ながら、諸々

各所SNSなど見てるうちに、どうしようもない意見の数々を見かけたので。

イージス艦なら高性能なのに、何故回避できないのか
→イージスシステムは「対空戦闘」のためのシステムです。対水上戦闘能力にイージスシステムは寄与しません。

他の船舶を避けるとなると、これは航海用レーダーを用いることになりますが、海上自衛隊の護衛艦を例に取ると、「こんごう型」「あたご型」に用いられているレーダーは「むらさめ型」「たかなみ型」などの汎用護衛艦に付いているものと全く一緒です。
(OPS-20水上レーダー)

フィリピン船籍だからetc…
→最初にも書きましたが、船籍はフィリピンでも運航しているのは日本企業です。船主も日本企業です。

また詳細は今後の調査待ちとなりますが、現状ではどちらに回避義務があったか定かではありません。
そもそも、互いに動いている以上、両者に監視義務はあるはずなので。