先日のジェットエンジンの排気温度の記事でも書きましたが、筆者は馬鹿なことを大真面目に検証してみると言うのが大好きです。

昔から授業で新しい事を習っては、ノートであーでもない、こーでもないと色々な試算をしてみる、変わった子供でした。
(テストの点数はお察し下さい)

で、このブログでも、そういった「馬鹿真面目な検証」の記事をちょくちょく書いていきたいなと思ったところ、早速1つネタが思いつきました。

と、いうわけで今回のお題は
「鋼鉄の装甲を貫く威力を、分かりやすい基準に置き換える」

そもそも装甲貫通はどのように起きるか

装甲を貫くには色々と方法がありますが、今回はAPFSDS弾及びHEAT弾による、ユゴニオ弾性限界を用いた塑性流動による装甲貫通方法で説明していきます。

まずユゴニオ弾性限界について解説しましょう。

一見、非常に固い金属でも、分子間の力により固体としての形状を保っているというのは理科の授業などでも習われたかと思います。

逆を言うと、この分子間の力を引き裂く非常に強い力を加えると、金属でも瞬間的に液体のような状態になります。

この液体のように振舞う境界線を「ユゴニオ弾性限界」と呼び、現在の対戦車戦闘においては、非常に重要な要素となっています。

tama

陸上自衛隊の広報センターに展示されている戦車砲弾。

まず手前のAPFSDS弾。

APFSDSは装弾筒付翼安定徹甲弾と呼ばれ、大きな金属の「矢」です。
これが超高速で射出されて対象に突き刺さる事で、ユゴニオ弾性限界を超えた圧力を、装甲の一点に引き起こし、装甲を侵食していきます。

続けて奥のHEAT弾。

これは目標に着弾した際に内部の爆薬に点火して、その爆風をモンローノイマン効果と言われる作用により一点に集中させることで、ユゴニオ弾性限界を超える圧力を生じる弾種です。

両者は貫通作用が違うと解説されることもあるようですが、装甲の侵食という点に付いては全くといっていいほど同じです。
貫くのに必要な圧力を弾体の運動エネルギーで与えるのがAPFSDS、爆風により与えるのがHEAT弾。この違いだけです。

鋼鉄を貫く圧力とは

前置きが済んだところで、では実際に貫通するには、どれくらいの圧力が必要なのか。
一般的な鉄鋼(SS400など)で貫通作用を引き起こすには、最低でも1ギガパスカル程度の圧力が必要と言われます。

1GPa、すなわち1m四方の面積に1GNの力が掛かったときの圧力です。

と、いわれてもピンと来ないと思うので、今回はこれを身近なものの面積に置き換えて、その際の力を計算していきたいと思います。

作用する面積が小さければ小さいほど、より小さな力で同じだけの圧力を出せるのは言うまでもありません。

ただし弾体が短いと、貫通する前に途中で止まってしまいますので、どれだけ細くても長さは同じだけ必要という点は注意が必要です。
(装甲の厚さはあまり表に出てきませんが、APFSDSの実物を見る限り50cm以上はありそうです)

検証①:ペン先

ボールペンだと作用面が球体になってしまうので、シャープペンの芯先として仮定しましょう。

0.5mmのシャープペンの先端は単純計算で0.19625×10のマイナス6乗平米。

つまり1GPaを発生させるには0.19625×10^3Nの力が必要になります。

196.25Nとして、約20kgfですので

シャープペンシルの芯の上に20kgの錘を乗せた時の圧力

と考える事が出来ます。

針のような細さで20kgが掛かる、どれだけ凄い圧力かご想像頂けますでしょうか。

で、ここで気付いた方もいらっしゃるかと思いますが

そんな細いものに凄まじい力を掛けたら折れるのでは?、と。

これを防ぐために、実際のAPFSDS弾は非常に高い強度を有するタングステンの合金を使用しています。

検証②:ハイヒール

これはよく「象に踏まれるのと、ハイヒールで踏まれるの、どちらが痛いの?」とネタになる検証でもあります。
(ハイヒールの方が10倍の圧力が掛かると)

ヒールの面を2平方センチメートルとして、先ほどと同じ方法で計算すると

約20000Nで2040kgf

つまり体重2トンの人が片足ハイヒールで踏みつけたときの圧力に相当します。

痛いなんてレベルじゃすまないですね・・・

体重2トンなんて人間がいるわけないので、動物で何か近いものがないか探してみたところ「シロサイ」が2トンくらいとのこと。

と、いうわけで今回の結論としまして。

鋼鉄の装甲を貫く際に必要な圧力は、シロサイにハイヒールを履かせて、一本足で立ったときの踏み潰す力に等しい

(最初この記事を出した際、桁を1つ書き間違え&面積も「四方」がごっちゃになっておりました。申し訳ありません)

なお現在の戦車用装甲では、単純な鋼鉄ではなくセラミックなどを組み合わせた複合装甲となっているため、実際にはこの数倍の圧力が必要と言われています。

そのため、実際の戦車はAPFSDS弾を音速の5倍近い速度で撃ちだします。

戦車の砲撃音が凄まじい轟音になるのは、この初速を達成するために砲内の圧力を急激に上昇させるためです。