歴戦の老兵・F-4 ファントムⅡ
航空自衛隊に所属している戦闘機で最も古い機種・F-4EJ改ファントムⅡ。
その歴史はかなり長く、初号機(301号機)が輸入されたのは1971年7月のこと。
ちょうどマクドナルド日本第1号店が開店したのがこの頃だそうです。
本家アメリカでは1958年に初飛行、1960年に最初の部隊運用が開始されているというので、半世紀以上の歴史を持つことになります。
ちなみに一般的に「ファントム」の愛称で呼ばれますが、正確には「ファントムⅡ」なのです。
これはFH-1という機体が初代「ファントム」の愛称を持っているためです。
ただ「ファントム」と呼ばれることのほうが多いので、この記事でもファントムと書いていきます。
ファントム導入史
話を導入史に戻しまして、ファントムは元を辿ればA型・B型として海軍・海兵隊機として導入されていたのですが、当時のアメリカ政府の思惑(機体を安く調達したいなど)もあり、空軍用戦闘機としてもC型として導入。
(空軍からすると当初はソ連機に乗るより屈辱だったとか何とか…)
元々海軍機だった名残は、空軍機としてはかなり太いアレスティングフック(緊急着陸時に拘束ワイヤを掴むためのフック)に見て取れます。
参考までに、こちらは海軍機スーパーホーネットのアレスティングフック。
また主翼の折り畳み機構もそのまま残されています。
他にも主脚が太いままだったり、本来なら空軍型には過剰装備となる艦載機としての機能がそのまま残されていますが、これは機体の仕様を変更すると導入に際してテスト項目が増えたり、生産ラインが細分化してしまいコスト上昇に繋がることを懸念したことが要因と言われています。
その後、空軍仕様としてアップデートが重ねられ日本に導入されたのはE型をベース機として空中給油能力や対地攻撃能力を外したEJ型。
(対地攻撃能力などは政治的な事情を考慮したと言われます)
そこから更に、近代化改修されたF-4EJ改(主にアビオニクス・レーダーなどの改修)が現在も活躍中です。
(岐阜の飛行開発実験団にF-4EJも数機だけ残っています)
また、偵察機型のRF-4Eが導入されているほか、F-4EJのうち近代化改修を行わなかった機体を偵察機仕様に改造したRF-4EJも現役で活躍中です。
ちなみにファントムの機種に付いてる出っ張り、この部分にはM61A1バルカン砲が搭載されています。
なんだか後から無理矢理くっつけたような感じがしますが、実はまさにその通りで開発当初には無かった固定機銃をE型に改良する際に増設したものなのです。
ミサイル万能論の時代に生まれたファントムですが、実戦経験の中で「やはり機銃は必要だ」という結論にいたり増設されることになったものの、機内には積み込むスペースが無かったため、このような形になったそうです。
ファントムのここが魅力
ファントムで最も「違う」と感じるのは、間違いなく「音」です。
現代のジェット戦闘機のエンジンは「ターボファン」と言われる、ジェット排気に加えファンブレードの回転・圧縮により生じる推力を併用したタイプが主流となっています。
それに対しファントムに積まれているJ-79エンジンは「ターボジェット」。
これはジェット排気のみを推進力として利用するタイプのエンジンです。
ジェット排気のみということは、燃焼室を通らない空気が混じるターボファンに比べ高温・高圧・高速のガスが噴出するということです。
このエンジンノズルから噴出されるガスの特性が、そのまま音の違いとなって現れるのです。
エンジン出力はイーグルよりも低いのですが、そのエンジン音は独特の轟音とでも言うべきか、空気を切り裂く雷のような音です。
こればっかりは口では上手く説明できないので、是非とも御自分の耳で聞いてみてください。
他には超音速飛行時のエアインテークで発生する衝撃波を抑制する為の細かな穴が開いたスプリッターベーンなど、現代の戦闘機では見られない独特の装備が多いのもファントムの魅力です。
F-4EJ改は魔改造?
巷ではよく空自のF-4EJ改をファントムの魔改造だと言う声がありますが、実際のところはどうなのか。
改修内容としては
- セントラルコンピュータ換装による兵器システム統合
- F-16A/B用レーダーに相当するAN/APG-66Jレーダーへの変更
(スパロー運用と対艦攻撃用の改修が追加されている) - AIM-7Fスパロー、AAM-3の運用能力獲得
- 対艦ミサイルASM-1、ASM-2の運用能力
- ECMポッドをJ/ALQ-6からAN/ALQ-131へ
- 警戒受信機変更
- HUD、HOTASなどの追加
能力としてはF-15やF-16の初期型に近いといったところでしょうか。
実のところ、世界中で電子装備の大幅入れ替えを行ったファントムが存在しており、F-4EJ改が特別な存在という訳ではありません。
例えばドイツ空軍のF-4F ICEやギリシャ空軍のF-4E PI2000などでは、電子装備やレーダーを大幅に換装してAIM-120アムラーム空対空ミサイルの運用能力獲得なども行っています。
またトルコ空軍機もレーダー換装で、F-16のBlock30/40に相当する火器管制能力をファントムに持たせています。
F-4EJ改に相当する改修は、実は色んな国で行っているということですね。
むしろARHのAIM-120の運用能力を有するという点で見れば、純粋な制空戦闘機としての能力はドイツ空軍機などの方が上です。
ただし日本のF-4EJ改の場合、対艦攻撃能力という他国ではあまり必要としない能力の追加も求められたため、一概にARHが撃てないF-4EJ改が下というわけでもないでしょう。
(優れた戦闘機とは、その国のドクトリンを満たす戦闘機というのが筆者の考えです)
つまり特別魔改造という訳ではないですが、他国のファントムと同等の改修を施している、というのが筆者の私見です。
逆を言えば、世界中でそれだけ改良されると言うことは、ファントムという機体が如何にベストセラー機であるかの証明でもありますね。
ちなみに日本でファントムの稼働率を維持できるのは整備員の技量も勿論あるかと思いますが、国内ライセンス生産していたので予備部品のストックが豊富という一面も大きいかと思います。
ファントムを見に行く
2017年現在、ファントムが日本で配備されているのは百里基地と岐阜基地だけです。
百里基地
2016年に新田原から301飛行隊が帰ってきたことで、百里基地はファントム・ネスト=ファントムの巣となっています。
カエルのマーク301飛行隊
尾白鷲の302飛行隊
迷彩塗装のレコンファントム501飛行隊
上がRF-4、下がRF-4EJ。
両者の違いは機首機関砲の有無や、センターに偵察ポッドが装着されているか否かなどで見分ける事が可能です。
301飛行隊・302飛行隊は現在でもアラート任務に就いており、年に数回ほどですが実際にスクランブル発進も行っています。
ちなみに501飛行隊所属機で、ブルーの迷彩塗装を施した機体も数機だけ存在します。
(通称・青ファントム、百里の青いやつ、など)
余談ではありますが、ファントムが登場する人気漫画「ファントム無頼」(百里基地が舞台です)の作中にて「すぐにイーグルの時代が来る」みたいな台詞があったのですが、21世紀になって百里が再度ファントムだけのファントム・ネストになろうと当時は誰が想像したであろうか・・・(原作は1984年完結です)
ちなみに百里基地以外では、岐阜基地の飛行開発実験団所属のファントムが唯一の現役機となっています。
こちらはEJ改の改修を受けていない「F-4EJ」のままという貴重な機体です。
老体に鞭打って頑張っているファントムですが、引退は着実に近付いています。
ファントムの入れ替えとして導入が始まっているF-35A。
2017年は臨時飛行隊の発足のみですが、今後、機数が増えて飛行隊として結成されると、それと入れ替わる形でファントム1個飛行隊が解散。
更にF-35Aが2個飛行隊体制になれば、ファントムは半世紀に亘る防空の務めを遂に終える予定です。
2020年頃にはレコンファントムも含めて日本の空からファントムは完全に姿を消すと思われます。
今しか見れない貴重なファントム。
是非とも百里基地に足を運んでみては如何でしょうか。
百里基地で、実際どんな風にファントムが見れるかは、こちらの撮影レポートなど、どうぞ
※参考資料
航空自衛隊HP
F-4ファントムⅡの科学(著:青木謙知)
戦闘機と空中戦の100年史(著:関賢太郎)
[…] F-4EJ導入時に結成された飛行隊です。 301飛行隊と302飛行隊は百里基地でF-4EJ改を運用中。 303~305飛行隊はF-15J/DJに機種を転換しています。 […]
[…] F-4・ファントムⅡ […]
[…] 同じく制空戦闘機として現役のファントムも同様にグレー塗装です。 […]