先日、報道で北海道にてメディカルジェット(医療用ジェット機)の実用化に向けて予算が付くとの記事がありました。(2017年2月11日 新聞記事など)

しかしコメントの中には「何故ジェット機?」「ヘリの方が便利なんじゃない?」などという意見もちらほらと。

今回は、そんな「メディカルジェット」と「ドクターヘリ」の違いについて、解説したいと思います。

ドクターヘリの利点と欠点

ドラマの影響などもあり、何かと認知度の高くなったドクターヘリ。

ja6914
写真はドラマのモデルにもなったJA6914号機

ある程度の広さがあれば着陸可能で、一刻を争う患者を速やかに拠点病院へ搬送。数多くの命を救う貴重な救急搬送手段ですが、ヘリコプターならではの欠点が2つあります。

・行動半径が短い
速度が遅い

この2つです。

写真のMDエクスプローラーMD902型を例に取ると

  • 航続距離 430km
  • 巡航速度 250km/h前後

航続距離はあくまでもまっすぐ飛び続けて、到達可能な距離なので、実際には往復+離着陸+予備燃料を考える必要があります。

一般的な双発ドクターヘリの場合、カバー出来る範囲は最長でも100kmほどと言われており、北海道だと札幌⇒富良野あたりが限界です。

それに対して札幌→稚内は約260km、札幌→根室は340km。
とてもじゃないが距離が足りません。

dsc_7558

大型のチヌークやスーパーピューマなどを使えば300km以上の行動半径を取れますが、どうしても予算の問題があります。
高価な機体は減価償却コストも高く、また整備費・運用人員も膨大です。
自治体で維持するのは非常に困難となります。

またヘリコプターの構造上、時速250km/h前後という限界はどれだけ大型の機材を用いても変わらず、往復500kmを飛ぶのに2時間以上必要です。
医療搬送において「時間」は短いほど良いので、速度は重要な要素になります。

降りられる場所の制約が少ない分、スピードと足の長さでは、どうしても劣るのがヘリコプターの宿命です。故に、長距離をカバーするには向きません。

またヘリコプターの飛行方式は基本的にVFR=有視界飛行なのでパイロットの目視のみが頼りですが、ヘリの飛行には何かと障害物が多く、接触すればそれは「死」です。
ドクターヘリのパイロットは非番の日には車で担当エリアを走り回り、障害物の有無やチェックポイントを調べて回ると言います。
それくらいヘリが飛ぶのは大変なことなのです。

故に視界が制限される夜間・悪天候ではフライト自体が難しいこともあります。
どれだけ瀕死の患者がいても、パイロットが危険と判断すれば、ヘリの出動は断念せざるを得ないのです。
(ヘリも計器飛行は不可能では無いのですが、何かと制限やデメリットが大きいのが現状です。加えて駆けつける先に誘導装置が無ければ何の意味もありません)

自衛隊は夜間にも飛行する訓練を行っているので、離島急患搬送の為にヘリを飛ばすこともありますが、その際はパイロットのみならずクルーが総出で窓から外を見張り、地形の変化や樹木・送電線などの障害物を必死に探すそうです。

メディカルジェットとは

現場の近くまで直接空から駆けつけるドクターヘリに対して、メディカルジェット・医療用ジェットの目的は「拠点間搬送」です。

t400

写真はホーカー400ベースのT-400型練習機

メディカルジェットは急患を直接ピックアップする為の機材ではありません。
流れとしては
急患・急病人発生
→現地の救急医療にて長距離移動に耐えれるだけの措置を行う
→救急車・医療装置搭載車両などで空港へ移動
メディカルジェットで大都市圏の空港へ移動
→現地で再度救急車などに乗り換えて、目的の病院へ

なので、現場へ直接駆けつけるのは現地の救急組織であり、そこからバトンを大都市圏へ繋ぐのがメディカルジェットの仕事です。

「地方の医療格差」なんて言葉もありますが、専門的な症例・高度な医療機器を必要とする治療などは、どうしても都市部に集中します。
これは医師の数などを考えれば、やむを得ないのかもしれません。
しかし、出来るだけの治療を行った後に、迅速かつ安全に都市部へ患者を搬送出来る手段があれば、その治療を更に多くの人が受けることが出来ます。

これがメディカルジェットの仕事なのです。

ジェット機の大きな利点は片道500kmの往復なら楽にこなせる航続距離に加えて、なんといっても「速さ」です。
セスナ・サイテーションなど一般的なビジネスジェット機の巡航速度は800km/h前後。ヘリコプターの3~4倍の速度で飛行できます。
札幌新千歳~根室中標津空港まで直線距離が300km前後。
これをターボプロップでもダイヤ上の運行時間が45分前後なので、ジェットで条件が良ければ更に若干短縮出来るでしょう。
これがヘリだと、全速力で飛び続けても倍近い時間を要します。

更に固定翼機のメリットとして計器飛行方式が可能です。
国内の空港であれば、大抵はILS計器着陸装置が導入されているので、夜間は勿論、多少の視界不良であれば、安全に空港間の飛行を行う事ができます。

特に北海道は、各地に空港があるので、空港~空港の移動であれば、圧倒的にメディカルジェットに分があります。

滑走路は必要になりますが、ヘリコプターよりも時と場所を選ばず、かつ「速い」。
固定翼機には、ヘリコプターでは成しえない大きなメリットがあるのです。

空中消火の記事でも書きましたが、何事も「適材適所」なのです。

ちなみに航空自衛隊ではC-130H輸送機に機動衛生ユニットを搭載して、長距離の搬送患者が発生した場合に急患搬送を行う事があります。

しかし、自衛隊に頼らずに自前で運用出来るのであれば、それが一番良いと思います。自衛隊は「最後の砦」であって、最後の砦が大忙しになってしまうというのは本末転倒ですからね。

痛飛行機弐