芸能人・タレントが戦闘機に乗れるのは何故?部外者の自衛隊機搭乗基準
先日、三沢基地で河野防衛大臣が第3飛行隊のF-2に搭乗して話題になりましたが、度々「話題の○○さんが、戦闘機に体験搭乗!」というニュースを耳にします。
本来、自衛隊機に乗れるのは限られた人間のみですが、あのような芸能人による体験搭乗、果たしてどういった根拠で行われているのか。
自衛隊の制度の面から解説していきます。
自衛隊機に乗れる人
自衛隊機はどのような場面で使ってよいか、また誰を乗せて良いかというのは厳密に定められており、防衛省の「航空機の使用及び搭乗に関する訓令」という文書でその詳細を確認することが出来ます。
(以下、引用は断り無い限り、同訓令からの引用)
例えば、領空侵犯措置の為、訓練や整備の為、災害派遣の為など様々なシチュエーションが書かれています。
では、今回のような「芸能人が乗る場合」はどのように定められているのか。
実は、そういった根拠が単独で定められている場合ではなく
第3条
航空機使用者は、次の各号のいずれかに該当する場合には、それぞれ所属の航空機(一時使用中のも第3条の及び航空機の整備等のために保管中のもの並びに護衛艦等に搭載中のものを含む。)を使用することができる。ただし、一時使用中のもの及び航空機の整備等のために保管中のものにあつては、当該一時使用及び保管の趣旨に反してはならない。
・・・
(8)第7条第1項各号に掲げる者を同乗させるために航空機を使用する必要がある場合
・・・
という一文があるだけです。
この第7条というのは
第7条 航空機使用者は、次の各号のいずれかに該当する者を使用航空機に同乗させることができる。
という決まりであり、即ち「許可を受けた人を同乗させる為に、自衛隊の航空機を使っても構わない」ということになります。
では、この「許可を受けた人」というのは、どのように決められるのか。
実はこれにも芸能人が乗れる根拠は定められておらず
(13)幕僚長又は次条第2項の規定に基づき、同条第1項の権限の一部を委任された者が、その所属航空機への搭乗を承認した部外者
とだけ定められています。
つまり「幕僚長、またはその代理人が個別に許可した人」は自衛隊機に同乗することが出来る、ということです。
ここまでで一度整理すると
自衛隊機は定められた同乗者を乗せる為に、飛ばすことが出来る
芸能人が同乗出来る根拠は個別で定められていないが、幕僚長が特例で許可を出すことが可能
同乗を許可される人
では、どのような場合に特例での同乗の許可が出るのか。
幕僚長の判断に一任、という訳ではなく、これにも同様に基準が存在します。
第8条
幕僚長は、前条第1項第13号の部外者の搭乗については、当該部外者の搭乗が次の各号のいずれかに該当すると認める場合に限り、これを承認することができる。
(1) 自衛隊の業務(広報業務を除く。)を遂行するに当たり特に部外者の協力を得るために、必要がある場合
(2) 自衛隊の広報業務(隊員募集のための広報業務を含む。)を遂行するに当たつて、特に有効である場合
(3) 国会議員又は関係官公庁職員が、職務上自衛隊に関し調査又は視察を行う場合において、特に必要があるとき
(4) 自衛隊法第100条の2及び自衛隊法施行令第126条の2の規定により教育訓練の実施の委託を受けた場合において、特に必要があるとき
(5) 自衛隊法第101条の規定を実施するために、特に必要がある場合
(6) 前各号に掲げる場合のほか、自衛隊の業務を遂行するために、特に必要がある場合
(7) その他幕僚長が特に必要であると認める場合2 幕僚長は、前項の権限の一部をその指定する者に委任することができる。
この中で該当するのは(2)の広報業務における場合と解釈できます。
つまり、広報・PR活動において部外者を自衛隊機に乗せることが有効である、という根拠に基づき許可が出されるということです。
なお、航空自衛隊を例に取ると、この(2)に該当する事例として
エ 報道関係者(雑誌、週刊誌を含む。)が自衛隊に関し取材する場合で、その取材が広報上特に有効と認められ、かつ、特に搭乗を必要とする場合
オ 作家、評論家、写真家、画家その他知名人が自衛隊の部隊等を見学する場合で、その見学が広報上特に有効と認められ、かつ、特に搭乗を必要とする場合
(航空機の搭乗に関する達)
という更に細かな基準が定められています。
芸能人の自衛隊機搭乗は、これが根拠と言えるでしょう。
即ち「同乗させることで、自衛隊の広報・PRの役に立つ」ことが搭乗の許可が出るかどうかの判断基準となります。
一般の体験搭乗も同じ根拠
先ほどの航空自衛隊における幕僚長の承認基準ですが、その他に以下のようなものが挙げられています。
ア 自衛隊の記念日行事又は広報行事の一環として体験飛行を行う場合
ク 隊員の募集又は就職援護に特に有効と認められる者に体験搭乗させる場合
(航空機の搭乗に関する達)
意外かもしれませんが、記念行事などにおける体験搭乗の実施や地本主催の若者向け体験搭乗なども「部外者の搭乗を幕僚長が承認する」という、芸能人の体験搭乗と同様の根拠で扱われているのです。
ただし具体的にどんな人を、どんな機種に同乗させることが出来るのか、これについては個々の判断となる他、体験搭乗に割くことの出来るフライトの枠というのも決まっているそうです。
一般人が戦闘機に乗るというのは、やはりとてつもなくハードルが高い道ですね。
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