スクランブルの撮影・投稿はNGか

1月9日に対馬沖を抜けて中国軍の爆撃機多数が日本海に飛来した案件。

中国機の東シナ海及び日本海における飛行について
詳細はこちらの統合幕僚監部の報道発表にて

新田原・小松・百里など、全国各地からスクランブルの機体が続々と上がり、基地周辺の方々にとっては何事かと思われた方もいるようです。
(本来、休日で訓練飛行が無い日ということもあったと思います)

その中で、上がっていく機体の写真を撮影してSNSに上げることに対し「国防情報を公開するのはどうなのか?」みたいな声もあったようです。

結論から申し上げると「スクランブルの写真を公開したところで、機密云々ということはありません」。あくまでも、個人の考え方の問題です。

ちなみに筆者は先に言っておきますが、「肯定派」です。
スクランブル機を撮影することも、その写真を上げることが出来るのも、日本が民主主義・文民統制の平和が続いていることの証だと思っています。
これが軍事国家や戦時中であれば、写真撮っただけで、憲兵か特高警察に捕まることでしょう。

しかし自分なりの意見を持って否定的な考えを取られる方を、批判するつもりも毛頭ございません。
先ほども書きました通り、良いも悪いも個人の考え方ですからね。
「日本人として…」「自衛隊の方も迷惑…」など、他人の褌借りるような形で自身の考えを否定されると、ちょっと違和感を感じることはありますが。

前置きが長くなりましたが、今回はその辺を少し解説していきたいと思います。

スクランブルの状況は、実際は筒抜け?

スクランブル機は緊急発進なので通常の発進とは諸々違う手順で飛び立つのですが、飛行場から飛び立つ以上は、当然「飛行機」としての最低限の手順を踏む必要があります。
即ち「クリアランス」、飛行場から飛び立つ事の承認です。これだけは、どんなに特別扱いでも省くわけにはいきません。
(進入機がいて着陸間近であればゴーアラウンドさせるなど、最優先での離陸許可は与えられますが)

このスクランブル機に対する離陸のクリアランス。
実は一般のTWR無線(滑走路・飛行場を管轄する無線)で交信が行われています。
また離陸後しばらくはDEP(出発空域管制)との交信があります。
TWR・DEP無線の周波数は、全国の飛行場分が一般向けに公開されており、その情報は誰でも閲覧する事が可能です。

つまりスクランブル機が発進する際の無線交信は

「誰でも聞ける」

ということになります。

日本の無線法において、無線を傍受すること自体には何ら問題がありません。
これがダメならエアバンドも禁止になってしまいます。
電波自体が公共財産であり、それを使って交信を行う以上、誰がそれを聞いてもOKなのです。

ただし一個だけ例外がありまして「暗号通信」だけはNGです。
デジタル無線の暗号化を解除して傍受することに関しては、通常無線とは違った法律が存在します。
しかし、航空無線は今のところ通常無線ですので、傍受だけならOKです。

先ほど書いたとおり、スクランブル機の発進に関しては通常の訓練フライトとは諸々違った手順になっており、それはTWR無線を聞いてると、素人でも十分に分かります。

つまり無線で飛行場からの離陸に関するやり取りをやっている時点で、大声で「今からスクランブル飛ぶぞー!」と言っているのと同じことなのです。
当然、それはスクランブル対象機に聞かれても文句は言えない訳で、特に高性能なアンテナ類を積んだELINT機の類がいる場合には、間違いなく聞こえているでしょう。

なので「○○基地からスクランブル機上がった!」とtwitterなどに投稿したところで、その情報は既に相手は把握している情報なのです。

飛行機が公共の空と電波を使う以上、この点については日本に限らず何処の国であっても避けようがないのです。

見られちゃまずいものは見せない?

自分が色々と勉強させていただいている、空飛ぶたぬき先生も仰っていたお話ですが、見られちゃまずいものは、そもそも人前に出さないのです。

人前に出すということは、誰かに見られる、撮影されるというリスクを負うことになりますからね。

基地の外から見えるものに関しては、それは「見られても問題ないもの」と考えるのが妥当です。

自衛隊ではなくて米軍の話にはなりますが、横田基地の友好祭でF-22ラプターが地上展示された際(2009とか2010のお話ですが)、普通の展示機とは異なり機体後ろ側にエンジン試験用の防護壁を置いて、後ろからの撮影が物理的に不可能になっていたり、屈強な米軍兵がM4ライフル(マガジン付き)抱えてガードに立っていたりしました。

「見せたくないもの」に対する措置とは、こういうことなのです。
(F-22の場合、コールド状態で鮮明な排気ノズルなどを撮影されるのはNG→駐機中の後姿は隠す、ということだと思います)

隊員の方はOKともNGとも言えない

自衛官と言えども、基本は公務員です。

公務員というのは民間とは行動原理が根本的に異なり、許可された事しか行動・発言出来ないというのが原則です。

これの判りやすい話で、自衛官が何故、雨の日に傘を差さずに合羽なのかという話があります。

答えは、雨の日は「雨衣又は外とうを着用することが出来る」と自衛官服装規定に書いてあるからです。
「雨の日に傘を使うな」とは書いてません。「雨の日は合羽を使ってよい」と書いてあるのです。
自衛官の方は、この規定に従い、雨の日は認められた合羽を使うのです。

話を本題に戻して、自衛隊の方に「スクランブル機の撮影・投稿はいいんですか?」と聞いても、恐らく濁した答えしか返ってこないと思います。
これは先ほどの合羽の理屈と同じで「自衛官として、そういった質問に対して返答することが認められていないから」です。

制服を着用している以上、その発言は組織の発言と受け止められかねません。

故に、現場の隊員さん達は、自分の職務権限の範囲でしか、我々の質問には答えてくれないのです。

しかし、絶対これだけは守る!

長々と書いてきましたが、最後に重要なことを付け加えておきます。

まず一点。
無線を傍受することは自由ですが、その通信内容を公開することは通信の秘密を破った事になり、厳重に罰せられます。

もう一点。
撮影を自由だと思っているのは、あくまでも基地の「外」です。
基地の門を一歩くぐれば、そこは普段我々は立ち入る事の出来ない場所。
当然、隊員の方による指示が最優先であり、そこに自由云々の理屈を持ち込むのは御法度と考えています。

また更に付け加えておくと、米軍関係の施設に関しては、よりシビアな条件になる場合があります。
米軍施設の付近で「撮影禁止」と書いてあれば、それは素直に従いましょう。

 

最後になりましたが、ルールを守れば撮影するのも自由、公開するのも自由。

ただ自由な言動には責任もあることはお忘れなく。

長々と失礼致しました。