敵基地攻撃?イージス艦増備?一筋縄で行かないイージスアショアの代替案

敵基地攻撃?イージス艦増備?一筋縄で行かないイージスアショアの代替案

配備プロセスが停止となることが正式に決定されたミサイル防衛システムのイージスアショア。

その代替として様々な案が報道されていますが、それには当然様々なデメリットが生じます。

報道されているイージスアショアの代替案のデメリット・問題点について解説していきます。



敵基地攻撃で初弾は防げない

代替案として盛んに報道されているのが「敵基地攻撃能力」

即ち、ミサイルを迎え撃つのではなく、此方からミサイルの発射施設を攻撃するという計画。

しかし、敵基地攻撃能力を有したとしても「初弾発射」を防ぐことは不可能なことには、あまり触れられていません。

何故、初弾発射を防げないか?

弾道ミサイルというと、北朝鮮のテポドンが過去頻繁に報道されていたせいか、ロケットの打ち上げ施設のような場所から発射されるイメージを連想しがちですが、実際の弾道ミサイルは移動可能で発射台も兼ねることが出来る大型車両、輸送起立発射機=TELで運用されています。

TELは大型車両とはいえ自ら走行する能力を有しているため

普段はシェルターやトンネル内に待機
→射撃命令を受けて発射可能ポイントへ移動
→発射準備完了後、ミサイル発射

という運用が可能です。

つまり相手のミサイル発射位置は常に変化しており、更に直前にならないと位置が特定出来ない。
それを見つけるためには膨大な監視・偵察能力の構築が必要となります。
また仮に運良く出てきたばかりのTELを発見できたとして、相手は既に攻撃準備に移行しており、相手が発射するまでに此方の攻撃手段が到達出来るとは限りません。

実戦が語る「ミサイル狩り」の難しさ

弾道ミサイルに対してMD=ミサイル防衛ではなく、此方から積極的に撃破に向かうという発想は実戦に投入された事例が存在します。

湾岸戦争当時、イラクは保有する短距離弾道ミサイル「スカッド(正確にはアル・フセイン)」を使用していましたが、これに対して米軍をはじめとした多国籍軍はF-15EやF-16などの対地攻撃能力に優れる戦闘機を多数投入。また索敵・航空攻撃誘導の為にイギリス軍特殊部隊SASを投入して、スカッドTELの破壊を試みました。
いわゆる「スカッド狩り」と呼ばれる任務ですが、この任務の為に多国籍軍全体で約1500ソーティーの戦闘機・攻撃機が投入されたものの、スカッドのTEL完全破壊や攻撃阻止には至らず、湾岸戦争終結直前までイラクによるスカッド攻撃は継続されました。

スカッドのTELは20分あれば退避可能と言われており、対して戦闘機が緊急発進してから目標到達までに要した時間が40~50分。

戦闘機は弾道ミサイルのTELに対してあまりに「遅すぎた」のです。

スカッド狩りを始めて以降、発射数は減少しているので作戦の効果があったのは間違いありませんが「移動・隠蔽可能な地上目標の索敵・即時撃破」が如何に困難かを物語っています。

 

此方からの攻撃手段があっても、初弾を防げる可能性は低いのです。

この点から「ミサイル防衛を敵基地攻撃能力に依存する」というのが如何にリスクの高い選択かご理解いただけると思います。

イージス艦を増やしても・・・

もう1つ、代替案として「イージス艦の増備」というのも挙げられています。

確かにイージス艦はその名の通り、イージスアショアに与えられる予定だった任務を代行することが可能ですが、海上自衛隊の「こんごう型」「あたご型」を例に取ると、乗員の定員が『300名』となっています。

これは汎用護衛艦(DD)と比較しても100人以上多い人数です。

またDDの艦長が二等海佐(中佐)であるのに対して、イージス艦(DDG)の艦長は一等海佐(大佐)という違いもあります。

イージス艦は艦そのものも大柄ですが、それを操る乗組員も大所帯なのです。

海上自衛隊では乗員不足が恒常化しており、クルー制(艦毎に固定メンバーではなく、同じメンバーで違う同型艦に乗り組む)の導入なども進めているほどです。

イージスアショアは「陸上勤務が可能」という大きなメリットを活かして、水上勤務が不可能な隊員でも配置出来るのが強みでしたが、その代替案が「イージス艦」になってしまうとそのメリットも消失します。

「船を作っても人がいない」では意味が無いのです。

また船は定期的にドック入りが必要になります。
車でいうところの12か月点検のように毎年受ける年次点検の他、4年に一度の周期で造船工場に入っての大掛かりなドック整備もあり、更にドック明けからしばらくは「低練度艦(訓練中)」となる為、全艦艇のうち実際に最前線の任務に従事出来る数は限られています。

海に浮かぶ船ならではの問題・デメリットはイージス艦と言えど、避けて通れないのです。

※参考資料

  • 湾岸戦争とイスラエルのミサイル防衛(防衛研究所)
  • 海上自衛隊全艦艇史(海人社)