戦車砲の膨らんでる部分は何のため?乗員を守る「排煙器」
音速の数倍の速度で砲弾を撃ちだす戦車砲。
敵戦車の装甲を撃破するその砲は、陸戦兵器の中でも際立った存在感を誇ります。
さて戦車砲をじっくり見てみると、砲身の途中に少しだけ膨らんだ部分があります。
この膨らんだ部分は一体何のために付いているのか、戦車の乗員を守る重要な装置「エバキュエーター」を解説していきます。
戦車砲は車内から弾を込める
戦車砲に限らず、現代の火砲は基本的に「後装式」が採用されています。
即ち砲身の「後ろ側」から砲弾を装填する方式です。
写真のような野砲・榴弾砲の場合、砲身の「後ろ」は野外に露出していますが、戦車や自走砲の場合にはこの砲身の後ろ、弾を込める部分というのは基本的に「車内」になります。
砲弾を装填する部分には「閉鎖機」という砲身を密閉して発射時の超高圧に耐えるための機構が取り付けられており、砲弾を発射するたびにこの部分を開閉して次弾の準備をすることになりますが、この閉鎖機を開けた際、砲身内には火薬の燃焼したガスが充満しています。
火薬の燃焼ガスというのは、花火の煙を吸い込んだら咳き込むことから想像できる通り、基本的に人間にとって良いものではありません。
戦車の中というのは非常に狭いうえに、現代の戦車はNBC兵器、すなわち放射能汚染や生物・化学兵器が用いられた環境下でも行動することを想定しているため気密性が非常に高くなっています。
そんなところに有毒なガスが流れ込むのは戦車内の乗員にとって非常に都合が悪いわけです。
戦車内の乗員を保護するには「燃焼ガスが車内ではなく、砲身の先から排出されるようにする」必要がありますが、実は戦車砲に付いているあの「膨らんでいる部分」こそ、この役目を担っているのです。
膨らみの正式名称は「排煙器(エバキュエーター)」
あの膨らみの正式名称は排煙器・エバキュエーターと言います。
排煙器は砲身に空いた「穴」を通じて砲身と繋がっており、砲弾を発射した際の火薬の燃焼ガスは一時的に排煙器内に蓄積されます。
そして砲弾が砲身から飛び出ると、今度は砲身内の圧力が下がり排煙器内に貯められた高圧の燃焼ガスは逆に砲身側へ向かって排出されるという、非常にシンプルな仕組みです。
(コメント欄ご指摘により訂正 2020.6.9)
もっとも仕組みはシンプルですが、戦車砲の射撃時の砲身内圧力は500MPa、大気圧の5000倍を超える凄まじい負荷がかかります。
これに耐えうる構造とするのには、相応の技術が必要です。
現代の戦車はハイテク化が進み、火器管制装置や監視機器の能力、データリンク能力などは大きな進化を遂げています。
一方で「戦車の砲身の膨らみ」という、非常にシンプルな構造が戦車乗員を守るために必要だったりもするのです。
> 砲弾が砲身から飛び出ると、砲身内は非常に強い「負圧(大気圧よりも低い状態)」となり、排煙器内に貯められた燃焼ガスはそれに引きずられるように砲身側へ向かって排出される…
この解説は正しいのでしょうか。
砲弾が飛び出た後の砲身内は排煙器内よりは圧力が下がると思いますが、大気圧より低かったら砲口から外気が流入するのでは。
また、砲弾の後方が大気圧より低かったら砲弾は飛び出さないですし。
排煙器の構造は知らないのですが、排煙器に一時的に溜めた圧力で燃焼ガスを排出するのではないでしょうか。
ご指摘ありがとうございます。
確かに「負圧」という説明は間違いです。
推敲する時間が無く急いで書いたもので申し訳ありません。
訂正します。
素朴な疑問でしたが、ご対応ありがとうございます。
コンスタントに記事を載せるのは並大抵の労力ではないと思いますが、独自の視点の記事でいつも興味深く読ませて頂いており、引き続き楽しみにしております。
74式なども大きな重りのようなふくらみがありますが、
あれも同じく排煙機であってウエイトではないのですね?
返信が遅くなり申し訳ありません。
74式の膨らみも排煙機です。
あそこから抜くのではなく一時的に貯めるというサプレッサーに近い構造なんですね