16MCV(機動戦闘車)は戦車?装甲車?

16MCV(機動戦闘車)は戦車?装甲車?

陸上自衛隊の最新装備である16式機動戦闘車(16MCV)

8輪の装輪車両に74式戦車と同じ105mm戦車砲を積んだ車両ですが、戦車砲積んでるから「戦車」なのか、それともキャタピラじゃなくて車輪だから「装甲車」なのか。

そもそも戦車とは?という話も交えながら解説していきます。



意外と難しい
「戦車」の定義

現代の軍用車両で「戦車」といった場合、ほとんどの場合「主力戦車」のことを指します。

主力戦車とはざっくりと説明すると「走・攻・守」のバランスが取れている戦車のこと。

巡航性能や最高速度、路外機動力などの「走」
敵戦車の装甲に対しても有効打を与えるだけの火力、「攻」
敵戦車の主砲にも耐えうる正面装甲、「守」

このバランスが取れている戦車を「主力戦車」と称しており、現在開発・運用されている戦車は基本的に主力戦車です。

ただ戦車=主力戦車となったのは第二次世界大戦後のことであり、戦車という言葉自体には、その他の意味も当然含まれます。

まず戦車という言葉を、辞書で調べてみることにしましょう。

【戦車】
武装・装甲した車両にキャタピラーを備えた攻撃用兵器。
第一次世界大戦に初めて出現。
タンク
(広辞苑第7版より)

キャタピラの足回りで武装と装甲を施した車両=戦車と、その定義はだいぶざっくりとしています。

では英語での定義はどうなのか

【Tank】
An armoured military Vehicle moving on a tracked carriage and mounted with one or more guns and occas
(THE NEW SHORTER OXFORD ENGLISH DICTIONARYより)

訳:銃と砲台を1つ、または複数搭載して履帯(キャタピラ)で走行する軍用車両(訳・筆者)

やはりキャタピラの足回りで銃や砲を備えたものが戦車=Tankと定義されています。

即ち辞書における定義としては、キャタピラの車両で火器を搭載していれば「戦車」ということになりますが

この定義をそのまま文字通りに使うと、この車両も「戦車」という括りに入ることになります
(73式装甲車:主武装は12.7mm機関銃、7.62mm車載機関銃を併せて搭載)

実のところ『戦車』というのは世界初の実用戦車となったMk.1菱形戦車から最新型の第3.5世代主力戦車に至るまで「キャタピラ履いて、火器と装甲を備える」という形こそ維持しつつもかなり姿を変えてきたのです。

色々あった「戦車」

先述した通り今でこそ戦車というと「MBT:主力戦車」ですが、Mk.1の登場からここに至るまでには色々な「戦車」がありました。

例えばイギリスでは、走行能力に優れ追撃に用いる反面、軽量化の為に装甲を削って防御力を落とした「巡航戦車」と、歩兵の支援を目的とするので走行能力を求めない「歩兵戦車」という2つの戦車を用いました。

また有名なドイツのⅣ号ティーガーⅠ・Ⅱ戦車は8.8cm砲という大火力を備え更に堅牢な装甲によって防御力に優れる反面、走行性能は低く、これは「重戦車」に分類されます。

搭載砲も現代の戦車の元祖とも言えるルノーFT-17では37mm砲からティーガーの8.8cm砲まで様々、重量も九十七式中戦車(チハ)の15トンからソ連のT-34のような30トン前後、50トンを超える重戦車までとこれも様々。

こういった「走・攻・守」のパラメーターがそれぞれに割り振られていたものが、エンジンや装甲材料の技術進歩によってバランスが取れているものへと変わっていき、結果的に現代の「主力戦車」へと繋がることになります。

機動戦闘車は?

まずキャタピラを装備していないので、辞書の文言をそのまま適用するのであれば「戦車」という定義には当てはまりません。

では、キャタピラでなければ全て戦車と呼べないのか?というと、このような定義も存在します。

The term “battle tank” means a self-propelled armoured fighting vehicle, capable of heavy firepower, primarily of a high muzzle velocity direct fire main gun necessary to engage armoured and other targets, with high cross-country mobility, with a high level of self-protection, and which is not designed and equipped primarily to transport combat troops. Such armoured vehicles serve as the principal weapon system of ground-force tank and other armoured formations.

Battle tanks are tracked armoured fighting vehicles which weigh at least 16.5 metric tonnes unladen weight and which are armed with a 360-degree traverse gun of at least 75 millimetres calibre. In addition, any wheeled armoured fighting vehicles entering into service which meet all the other criteria stated above shall also be deemed battle tanks.

(TREATY ON CONVENTIONAL ARMED FORCES IN EUROPE)

主力戦車とは、装甲車両及びその他の目標を撃破する為の高威力の直接照準火器を搭載、併せて高い路外機動力、及び自己防御力を有する車両のうち、人員輸送を目的としていない物のことである。
陸軍の機甲部隊において主要な武器システムとなる。

主力戦車は最低でも16.5トンの重量、75mm以上の360度旋回砲塔を持つ。
また装輪式の車両でこれらの条件を満たすものも、主力戦車である。

(日本語訳及び要約:筆者)

これはヨーロッパ通常戦力条約(通称:CFE条約)という、冷戦時代に各国の兵器保有量を定める取り決めの中で示された定義です。

この中では戦車と同等の性能を持っている装輪式の車両も「戦車」であると定義されています。

機動戦闘車の場合、重量26トン・主砲の口径105mm・360度旋回砲塔搭載と攻撃能力に関する条件は満たします。
但し同じ105mm砲を搭載する74式戦車と比較しても10トン以上軽いことから装甲はかなり薄くなっていると考えられ、また車輪とキャタピラでは路外機動力にも当然差があります。
(ただし条文の中では『高い防御力』と『路外機動力』について明記もされていません)

しかし同じ条約では重装甲戦闘車両について、重量6トン以上、75mm以上の火砲(旋回砲塔でなくても可)となっていることから、機動戦闘車は戦車のカテゴリーに入れるには貧弱すぎるし、重装甲戦闘車両と呼ぶにはヘビーすぎる、どちらとも付かない車両となります。

もっとも、この条約自体は日本では批准されておらず、また冷戦終結などを経て事実上形骸化しているというのが現状でもあります。

また防衛省・陸上自衛隊としては、機動戦闘車を戦車扱いしたくないという事情もあります。
先ほども書いた通り、機動戦闘車は防御力と路外機動力を考えると敵主力戦車と対峙したり、敵防衛線に切り込み突破口を開くような従来の戦車の戦い方は非常に困難です。
なので機動戦闘車を「戦車」と呼称してしまうと、防衛装備品の調達計画において従来の主力戦車(現在では10式)の調達を取りやめるという話になりかねない。こんな「戦車と呼べない、呼びたくない事情」もあるのです。
(2020.1.3追記)

まとめ

以上をまとめてみると

  • 辞書の上ではキャタピラを履いてるのが『戦車』なので、装輪式の機動戦闘車は戦車じゃない。
  • 装輪式車両でも主力戦車と同等の性能を満たすものは『戦車』とする定義もある(CFE条約)
    但し機動戦闘車は主力戦車と比較して防御力と路外機動力が低いので、CFE条約を持ち出す場合、戦車とするか重装甲戦闘車両とするか微妙なところ。
    (CFE条約自体が冷戦時代の産物で、既に形骸化しているという面もある)
  • 防衛省は戦車定数の関係から、従来の主力戦車を削られない為に機動戦闘車を戦車と呼ぶのは避けたい事情がある。
  • もっとも過去には戦車と一口にいっても主力戦車に限らず色々あったので、戦車=主力戦車だけとも言えない

なので狭義の意味で「戦車(主力戦車)」とするのは間違いだけれど、過去の戦車や『装輪式の戦車=装輪戦車』を含む広義の意味で「戦車(重装甲と大型の火砲を積んだ車両)」と呼んでも間違ってはない、というところでしょうか。

筆者自身は主力戦車とは全く違う装備品だと認識した上で『装輪戦車』というのが一番妥当な呼び方・カテゴライズだと思っています。
立ち位置としては過去の戦車駆逐車(駆逐戦車)に近い存在でしょうか。
(独軍のヤークトパンツァーというよりは、米軍のGun Motor Carriage)

正直なところ兵器のカテゴリーというのは国や時代によってもマチマチで、今や『駆逐艦』と呼ばれている軍艦が過去の『巡洋艦』とサイズも能力も変わらなくなっていたりします。

はっきりと明確にカテゴリーを分ける、ということ自体、難しいのです。