先日、防衛費をGDPの2%まで上げる目標を掲げた提言を自民党が行うといった内容が、一部報道などで出てきました。

従来、日本の防衛費はいわゆるGDP1%枠、額にしておよそ5兆円が1つの目安とされてきました。
即ち今回の提言にあった「2%」とは10兆円規模の非常に莫大な予算となります。

実際問題、世界情勢の変化に伴い従来の日米安保・冷戦型構造では限界に来ているというのも事実です。

しかし防衛費を増やせば、今後の日本を「守る」ことが出来るのか?

筆者なりの考えをまとめてみました。

軍事力とは「手段」である

軍事力は、それ自体が「目的」ではなくて政治目的を達成する為の「手段」である。

ふと忘れがちになってしまいがちですが、ここは非常に重要なところです。

例えば中国が現在、凄まじい速度で海軍力を整備してシーパワーの獲得に力を入れているのは、中国の経済成長を実現する為の1つの「手段」を欲していると見ることが出来ます。

経済成長を支える為には、自国だけでなく世界に大きな経済圏を獲得する必要があります。そして自国と世界を結ぶのは「海」であり、海において自らの意思・主張を貫く為に、海を制する力を欲する、その為の海軍力整備なのです。

対して我が国が、現在の2倍規模の予算を投じる軍事力を持つとして、その「目的」は何か?有権者は十分に考える必要があると思います。

国の力は軍事力だけにあらず
経済と軍事は国の両翼

「安全保障」というと、外交や軍事だけの事が何かと語られがちですが、果たしてそうでしょうか?

確かに国を守るのに軍事力は必要不可欠ですが、ではそもそも国防の為の予算は何処から出てくるのかというと「国家予算」、即ち日本国民が納める「税金」です。

安定した税収の確保には国の経済活動が順調であり、国民も十分に潤うことが不可欠なのは言うまでもありません。

即ち「経済活動が順調だから国家予算が安定して防衛費が賄える」のです。

一方で、安定した経済活動の為には「自由」が保障されていることが欠かせません。

最も分りやすいのはシーレーンにおけるエネルギーの海上輸送でしょう。

石油やガスを載せたタンカーが年間を通じて海を自由に行き来できるからこそ、エネルギー自給率の乏しい我が国の経済活動は安定します。

これが悪意ある第3国の脅威に晒されてしまえば供給が止まりかねません。
そうなれば電力の安定供給は不可能になり工場は操業が不安定に、物流を支えるトラックも燃料が無くて動けないという事態が起きれば、経済活動は致命的な麻痺状態に陥ります。

そんな事態を起こさない拒否・抵抗機能を国として持つために「軍事力」、このケースにおいては「海軍力」があるのです。

軍事力を支える防衛費を賄うには経済活動の安定化が不可欠である、そして自由な経済活動が保障されるには軍事力が必要である。

経済と軍事は切っても切り離せない、国の力の両翼であり、防衛費を上げるのであればそれに見合うだけの経済政策も必要である、というのが筆者なりの考え方です。

国を支えるのは「人」
日本はこれから人が減る

「人は城、人は石垣、人は堀」という戦国武将の言葉もありますが、どれだけ時代が移り変わっても国を構成し、支えるのは「人」です。

先に語った経済も軍事も、人が動かないことには成り立ちません。

しかし残念ながら、日本はこれから人口が減る時代を迎え、更に経験したことが無いほどの超少子高齢化社会に突入します。

自衛隊の予算だけ増やしたところで、それを動かせる人がいなければ宝の持ち腐れになりますし、先にも述べたように経済が廃れればそもそも予算の元となる税収が確保出来ないのですから、経済活動を疎かにして自衛隊ばかりに人を割くことは出来ません。

そうなると「予算増=規模増」という考え方は根本的に捨てる必要があります。

少ない人数で如何に効率的に運用するか、高い効果を得るか。

無人装備の運用による人的損失リスクの低減や、各種の自動化によるオペレーションの省力化。
民間委託出来る業務は積極的に投げて「自衛官」にしか出来ない業務への集中。

もし今以上の国防予算を付けるのであれば、こういったところに力を割く必要があると考えます。

また民間企業と同様に、「人」が貴重になっていく中での策も欠かせないでしょう。

「働きたい」「働き続けたい」と思えるような待遇の改善は勿論ですが、予備役制度や再任官制度の活用により人的資源が流動的に活用出来る姿が不可欠かと思います。
年功序列でいたずらにポストを用意するのではなく、早期の退官・再就職を促して、組織の代謝を良くする。
予備役登録により、必要な時にはスキルのある人材を呼び戻せるようにする。

「人的資源の有効活用」

これからの少子高齢化、人口減少社会において自衛隊にも求められることであり、これを無くして防衛費を上げることは無駄にしかならないでしょう。

まとめ

最後に簡潔にまとめますと、筆者は防衛費上昇には諸手を挙げて賛成することは出来ず

  • 国家戦略、ビジョン、防衛費増額の「目的」は何か
  • 安定した税収確保の為の経済政策は同時にあるか
  • 人口減少社会における「人的資源の有効活用」は考えられてるか

これらを十分に頭に入れた上で、それが本当に必要かを自分なりに考えてみたいと思います。

※参考文献

  • 戦略の地政学(著:秋元千明)
  • 軍事学入門(かや書房)