ヘリの羽 枚数の不思議

AH-1

コブラは2枚

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ヒューイも2枚

apache

アパッチは4枚

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大型のチヌークは3枚×2

oscar

小さな機体のオスカーが
アパッチより多い5枚?

陸海空問わず活躍しているヘリコプターには色々な羽の枚数があります。
正確には「羽」の部分はローターブレード、通称「ブレード」と言うので、この記事でも「ブレード」と呼んでいきます。
今回は、「何故ブレードの枚数が違うのか?」を簡単に説明したいと思います。


結論だけ知りたいよ!という方は、此方からページ下部へ

一番良いブレードの枚数は?

結論から言うと、最適な枚数は「ありません」。

なんのこっちゃいと思うかもしれませんが、車のタイヤサイズと一緒で機体の重量・サイズや、その使い道によってベストな枚数が変わってくるのです。

なので、ベストな枚数というのは、その機体にあった枚数ということになります。

ただし、諸事情をすっ飛ばして純粋に機械的効率だけを考えるなら

「1枚」

が最も適した形状です。
大きなブレードの反対側に遠心力を相殺出来るカウンターの錘になるものを付ければ、それが一番理想的なのです。
枚数が増えるという事は、それだけ構造も複雑になりますし、重量も増えます。

けど、実際に1枚ブレードのヘリコプターは、せいぜいラジコンくらいなものです。
これが何故、ヘリで事実上不可能なのかは、後ほど説明します。

そもそもブレードの役割って?

brade

ブレードをアップで見ると、こんな不思議な形をしています。

この形、どこかで見たことないでしょうか?

そう、飛行機の「主翼」です。

dsc_6200

飛行機の翼は機体全体が前に進む事で、空気の流れで揚力を得ます。

ヘリコプターは機体自体が進む代わりに翼を「回転」させて揚力を得ている。
実は、この違いだけです。故に「回転翼機」なんですね。

どれだけの揚力が必要かというのは、そのヘリの運用重量によって変わってきます。当然、重いヘリほど大きな揚力がなければ飛ぶことは出来ません。

どれだけ大きい揚力が生み出せるかは主に

速度の二乗・翼の面積

この要素で決まってきます。
つまり大きいブレードを速く回せば、それだけ大きな揚力を得られるのです。

ブレードの合計面積を大きくするには

1枚を大きくする or 枚数を増やす

のどちらかで対応するしかありません。

ちなみにブレードを細長い形状から太い形状に変えると確かに面積は増すのですが、今度は抵抗が大きくなって、効率が落ちてしまいます。

飛行機の翼が長く細いのと、同じ理由です。

ブレードサイズに限界がある訳

先ほど書いたとおり、ブレードは大きければ、それだけ高い揚力を発生できるのですが、ヘリコプターの構造上避けて通れないのが「角速度」の問題です。

roter

雑な絵で申し訳ありませんが、簡単に書くとこういうことです。
ローターの根元側と先端側では速度が桁違いに変わってきます。

これをどんどん長くすると、先端が亜音速すら通り越して、遷音速域に到達します。
※遷音速
超音速直前の境目領域。条件により突発的に超音速状態を生じる

音速の壁なんて言葉があるとおり、音速を突破する直前の状態は非常に不安定になるので、これは避けなければなりません。

しかし先端側の速度を抑える為に、回転速度そのものを抑えると、今度は根元側が遅くなりすぎて揚力を生み出せない状態に陥ります。

つまり、根元側は揚力不足に陥らない速度、先端が音速に達しない速度、という条件を考えると、ローターの長さには自然と限界が生じます。

これが1枚の長いブレードを持つヘリコプターが存在しない大きな理由です。

そもそも1枚だと重心を取るためにカウンターを取らないとなりません。
そうすると
「わざわざ錘付けるなら、同じ大きさのブレードを反対につければいい」
という結論になってしまうので、この点でも1枚ブレードは非現実的です。

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CH-47Jの回転直径は18.3m。離着陸には十分なスペースが必要になる。

また運用的な問題として、あまり長いブレードのヘリコプターだと、その回転半径が大きすぎるので、離着陸や飛行に支障が出るという問題もあります。

滑走路を必要とせず、離着陸の柔軟性が高い事がヘリコプターのメリットなのに、長いブレードを付けてしまうと、自らのメリットを失ってしまうので、そのようなタイプのヘリコプターは、そもそも需要が無いわけです。
どんなに高性能でも需要が無ければ、ただの鉄屑になってしまいますから。

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特に艦載ヘリなどは、運用スペースに限りがありますから、ブレードの長さは非常にシビアな問題です。

またどんなに長くても、保持できるのは根元のみなので、工学的な問題として長くすればするほど強度を確保するのが難しいという問題もあります。

枚数を増やすことによる問題

では枚数を増やせば良いのかというと、こちらにも問題があります。

1枚が最も理想的というところでも少し触れましたが、ヘリコプターのブレードは1枚1枚の根元にとても複雑な構造を有しています。

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これはヘリコプターを制御する上で、ブレードの角度を変化させる必要があるためです。(ブレードのコレクティブピッチ角)
飛行機は機体の姿勢変化やスロットルの強弱で揚力を変化させますが、ヘリコプターは直接ブレード角度を変えないと制御できないのです。
当然、枚数が増えれば増えるほど、これらの根元部分はより複雑な構造になり、メンテの手間も掛かるし、重量も増すので、出来る限り少ない枚数の方が、メリットは大きいのです。

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加えて、重量が大きくなれば、それを回すエンジンも大出力を求められますが、高出力なエンジンは、それ自体が重量を必要とするので、余計に大きな揚力が必要になるというイタチごっこになります。

またヘリコプターの飛ぶ音といえば「バタバタバタバタ・・・」と重低音のイメージがあるかと思いますが、あれはブレードの後ろで乱れた気流を次に回転してきたブレードが切り裂く時に発生すると言われます。
強引に空気を切り裂くということは、それだけ空気の流れを乱すので、効率が悪いのです。
枚数が多いと必然的に間隔が狭まるので、こういった現象も生じやすくなります。

つまり、枚数が少ないほうが、色んな意味で効率的と言えます。

また枚数を増やしても1枚1枚の発生する揚力は同じなので、それに応じた回転速度を与えてやらなければいけません。
速く回転する=不安定な状態になりやすい、という欠点もあります。

しかし逆に1枚に掛かる負荷が大きいと、機敏な動きが苦手になるため、枚数を増やして分散させることで機動性は向上します。

ブレード枚数は、どう決まるか

ここまでの情報をまとめると、ブレードの枚数を決める上で考えなくてはいけないことは

  • 必要な揚力はヘリコプターの運用重量によって変わる
  • 1枚の揚力は、ブレードが長ければ長いほど、大きくなる
  • ブレードを長くしすぎると、先端の速度が音速に達してしまい不安定になる
  • 長すぎるブレードは運用の制限が大きく、ヘリのメリットが小さくなる
  • 枚数が多いと重量増や効率悪化を招き、メンテの手間も増える
  • ブレード枚数が多いとエンジンも高出力を求められる
  • ブレード1枚の負荷が小さいほうが機動性は高い

何やら相反する項目ばかりですね。

なので、この中から如何に目的に合った枚数を決めるか、というのがヘリコプターの設計では重要になります。

実際のヘリで考えてみましょう。

oskr

OH-6オスカーは全装備重量1300kgで、UH-1ヒューイと比較しても半分以下。
しかし5枚というブレード数を装備しています。
(初期型は4枚でしたが、自衛隊のD型などは5枚になってます)

これはOH-6の運用思想として小型・省スペースが求められたこと、また観測・偵察ヘリとして地形の起伏に沿った高い機動性を求められたためです。

省スペースにする⇒ローターの長さを犠牲に出来ない⇒枚数を増やす
機動性を求められる⇒ブレード1枚の負荷を抑える⇒枚数を増やす

という設計がなされたわけです。

dsc_0488

シンプルな2枚ローターの代表格と言えば、UH-1ヒューイ。
ブレード回転範囲の直径はOH-6より5m以上長い14.6m。
長いブレードで大きな揚力を確保出来るので、人員・物資の運搬性も優れ、シンプルな2枚ブレードの恩恵で整備性も高く、汎用ヘリの定番です。

汎用ヘリは何より運用数を確保するのが大事なので、シンプルな方が好ましいのです。

しかし今後、UH-X計画では4枚ブレードのベル412ベースの機体導入が決定されています。
ヘリコプターも高性能化が求められる中で、どうしても2枚ブレードでは性能に限界があるのです。

近い将来、ヘリコプターの2枚ブレードは少なくなるかもしれませんね。

最後に、現行配備されてるヘリでも最もローター枚数の多いものを。

mh53E

MH-53E シードラゴン。海上自衛隊でも採用している大型掃海ヘリです。

ブレード枚数は、なんと7枚。
しかも回転直径もヒューイの1.5倍近い24mあります。

巨大なブレードでも揚力が足りないので、それを幾つも組み合わせているという、まさに「重輸送ヘリコプター」なのです。

長くなりましたが、それぞれの機体のブレード枚数で
「この機体は、こんな考え方で作られているんだな」
などと思うと、また興味が増してくると思います。

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痛飛行機弐