第4世代ジェット戦闘機の傑作とも言えるF-15・イーグル。

圧倒的な存在感を放つ巨体、大出力のエンジン、エネルギー機動戦理論に基づいた高い対空戦闘能力。

第5世代機の本格的な運用開始により、古い部分も出てきたものの、その完成度の高さは未だに衰えません。

F-15の逸話を語る上で有名なのが「片方の翼が吹っ飛んで基地まで帰ってきた」というネゲヴ空中衝突事故の逸話。
これを語る上でF-15という戦闘機の他に類を見ない堅牢な油圧システムは欠かせません。

今回はF-15戦闘機の高い生存性を支える油圧システムについて解説していきます。

3系統の油圧ポンプ

F-15・イーグルには飛行に必要な油圧を生み出すポンプが3系統備えられています。

主に機体左側を受け持つPC-1左AMADポンプ、右側を受け持つPC-2右AMADポンプ、そしてランディングギアやスピードブレーキなどを操作する為の汎用左右AMADポンプ。

この3つです。

ちなみに汎用油圧ポンプについては、更に左側・右側の2つに分けることが出来ます。

合計3系統4台の油圧ポンプをイーグルは持っているわけですが、この時点で他の戦闘機と比較して、かなり特別と言えます。

上の画像左は、F/A-18E・F、スーパーホーネットの油圧回路。
右はF-16のものです。
(F-16は機体左側A系統、実際にはこれとほぼ同じものがB系統として右にある)

どちらも左右に各1系統のポンプを備えていることはイーグルと変わりませんが、イーグルでは独立のポンプが与えられているブレーキや脚などの汎用油圧系統は左右ポンプから油圧を受けています。

即ちイーグルは同世代の第4世代戦闘機と比較しても、油圧系統が1系統多いのです。

たかがポンプ1つ、されどポンプ1つ。工作機械用の油圧ポンプでも重量100kgは軽く超えます。

1kgでも、いや1gでも軽くという徹底した重量削減が求められる飛行機の設計において100kg超えるような機械を1個乗っけるなんていうのは、そう簡単に出来るものではないのです。

複数の油圧系統

(イカロス出版 F-15完全マニュアルを参考に筆者作成)

イーグルの油圧系統は非常に複雑です。

基本的に左側のスタビレータはPC-1、右側はPC-2。
更にそれぞれのA系統は、反対側のスタビレータに接続されます。

この仕組み自体は他の同世代戦闘機と比較しても変わりませんが、やはりイーグルの特徴は汎用油圧ポンプを持つ点と言えるでしょう。

汎用油圧回路は平常時には操縦翼面以外の油圧を担いますが、仮にPC-1またはPC-2が駆動を停止して油圧をロストした場合には、非常バイパスとして機能するように油圧管が操縦翼面系統に接続されています。

また、それぞれの回路にはリザーバーレベル感知装置RLSと、それに連動する各所制御弁が備えられており、リザーバータンク(hydraulic oil reservoir)の液量が減少→油漏れを起こした場合には速やかに当該油圧系統の遮断が行われます。
(実際には液面低下検知→A系統遮断→更に液面低下→A系統開放、B系統遮断のようなシーケンスとのこと)

これにより、事故・被弾時の油圧系統への影響は最小限に留められ、戦闘行動の継続は叶わなくても、基地への帰投に際して必要なコントロールを引き続き確保するという仕組みです。

唯一の弱点
RLS無しの回路

一見、完璧で隙の無い設計のイーグルの油圧回路ですが、一箇所だけウィークポイントが存在します。

汎用油圧ポンプから非常用発電機に繋がり、更に左右スタビレイターのバックアップにも使われる回路、ここにだけはリザーバーレベルを感知するRLSが無いのです。

なので、ここから油が漏れ始めた場合、遮断することが出来ないので汎用油圧系統をロストすることになります。

ただし、これでも失うのは汎用油圧系統だけなので「舵」は引き続き効きます。

基地まで戻って最悪降着装置が動かせなくても、胴体着陸を覚悟すれば帰還できるのです。

F-15のような戦闘機は
もう生まれないかも

このような優れた設計を持つイーグルですが、最先端の戦闘機では、そもそも油圧回路そのものが過去のものになりつつあります。

F-35では電気式油圧アクチュエータ(集中式の油圧ポンプと供給配管を持たず、各アクチュエータが必要に応じて油圧を発生させる)を用いて各所を駆動させています。

各種機器の小型化・高性能化がこれを可能にしたと言えるでしょう。

油圧機器の最大の弱点はなんと言っても「漏れ」であり、油圧管の取り回しが長くて複雑になるほど、そのリスクは上昇します。
故に油圧管を必要としないシステムが定着すれば、そちらが優位になるのは間違いないです。

F-15・イーグルという戦闘機は1つの「完成形」と称されることもありますが、その高い生存性を支える油圧システムも、1つの時代の完成形だったのかもしれません。

※参考文献

  • F-15完全マニュアル(イカロス出版)
  • F-15Jの科学(著:青木謙知)
  • 戦闘機と空中戦の100年史(著:関賢太郎)
  • NATOPS FLIGHT MANUAL
    (A1-F18EA-NFM-000)
  • F-16 FLIGHT MANUAL
    (T.O 1F-16A-1)