空気圧は?耐久性は?大きさは?戦闘機用タイヤのスペック

空気圧は?耐久性は?大きさは?戦闘機用タイヤのスペック

何十トンという重量の機体がアフターバーナーで豪快に加速していくエネルギーを地面に伝える戦闘機用のタイヤ。

一般の自動車用のタイヤと比較して、はたしてどれくらいのスペックが求められるのか。

F-15J用を中心に、調達情報などより探ってみました。


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戦闘機用タイヤの空気圧

F-15J/DJ用のタイヤで見てみると、メインタイヤで空気圧が標準2340kPa。
ノーズタイヤは1790kPaと指定されています。

F-2用ではメインタイヤが約2200kPa、ノーズが2070kPaです。

筆者がお仕事で乗るワンボックス車(ハ○エース)の空気圧が400kPa前後ですので、単純にワンボックス車の5倍近い空気圧が掛かっていることになりますね。

10トンなどの大型トラック用タイヤでも1000kPa程度だというので、戦闘機用のタイヤの空気圧は10トントラックの更に数倍という非常に高い圧力になります。

サイズ・重量は
どれくらい?

F-15J/DJ用のメインタイヤで見ると34.5(外径)×9.75(幅)-18(リム)。

インチ表記なのでメートル法に直すと、外径34.5インチなので約87.6cm、タイヤ幅が9.75インチ=24.8cm、リム系が18インチ=45.7cmとなります。

また同じくメインタイヤの重さは1本で36.6kg。

その他の機種について、一覧として表にならべると以下の通りです。

機種外径
(in)

(in)
リム径
(in)
重量(kg)
F-15(M)34.59.751836.6
F-15(N)226.61011.6
F-2(M)27.758.7514.520.9
F-2(N)185.787.5
F-4(M)3011.514.534.02
F-4(N)185.57.93

やはり大型の機体を支えるF-15用のタイヤは頭1つ飛びぬけて大きなサイズであるといえます。

耐久性は?

激しい衝撃や加速を繰り返し受ける部分だけに、果たしてどれだけの耐久性が求められるものなのか。

F-15J用のメインタイヤではMTBF・平均故障間隔は250時間が目標と定められています。これは平均して運用時間・250時間に1回のペースでトラブルが発生する信頼性ということ。
もっとも250時間絶対に使えるのかと言われればそうでもなく、あくまでも「平均値」「信頼度」という考え方です。

この信頼性において1時間の地上走行を行う場合、1個のタイヤが事故を起こすことなくフライトを終える信頼度は99.6%。
それがメイン2個、ノーズ1個で計3個。これらがそれぞれ独立しているので0.996の3乗で0.988=98.8%。

なので

F-15戦闘機のタイヤは1時間の地上走行を行った場合に98.8%の確立で全てのタイヤがトラブル無く終える

と考えることが出来ます。

この値が高いか低いかは、戦闘機というシステムを運用するのにどれだけのリスクを許容できるかという考え方次第となるでしょう。

なお信頼性の他、平均的な磨耗・消耗の寿命として50回のフライトに耐えられることが求められています。

戦闘機用タイヤの
耐久性試験

これだけの信頼性が求められる戦闘機用のタイヤ。
果たして、どのような試験を行っているのか。

F-2用タイヤの調達情報に細かく試験方法が記載されていたので、そちらを解説していきます

なおテストは自動車などの試験と一緒で回転するドラムを地面に見立てて行うようです。

F-2用メインタイヤ 試験要領

①タキシング及び離陸試験その1

21500lbsの荷重を掛けたタイヤを30mphの速度で10000ft走行させた後に、全荷重を残したまま停止させる。
停止後2分以内に離陸試験を開始。35.5秒で259mphまで加速させる。この際、最初の7秒は荷重を維持、次の13秒で20000lbs、更に13秒で17600lbsへ減少。
その後0.5秒掛けて20000lbsへ一度戻し1秒保持。そこから1秒間で荷重をゼロにする。

 

この試験を24回実施する。

②タキシング及び離陸試験その2

21500lbsの荷重を掛けたタイヤを30mphの速度で10000ft走行させた後に、全荷重を残したまま停止させる。
停止後2分以内に21.4秒で230mphまで加速させる。この際、最初の8秒は荷重を維持、次の17秒で20000lbs、更に14秒で18200lbsへ減少。
その後0.5秒掛けて20000lbsへ一度戻し1秒保持。そこから1秒間で荷重をゼロにする。
なお離陸滑走距離は7250ftを想定する。

この試験を23回実施する。

③着陸及びタキシング試験

200mphの速度で回転するドラムに着陸させて49秒間・7188ft掛けて停止させる。
この際、着陸の負荷は0lbsから1秒間で10000lbsまで瞬間的に増大させ、また更に48秒間掛けて12000lbsまで徐々に増加させる。
続けて停止後2分以内に13500lbs・速度30mphで10000ftの走行を行う。

この試験を47回実施する。

④タキシング試験

荷重21500lbs、速度30mphで30000ftの走行試験を行う。

この試験を2回実施する。

⑤タキシング及び離陸中止試験

荷重21500lbs、速度30mphで距離10000ftの走行試験を行う。

全荷重を掛けたまま停止、2分以内に離陸試験を開始する。

28秒間で204mphまで加速後、3秒間速度を維持。
その後37秒間で0mphまで急減速させる。

荷重は試験開始後7秒間は21500lbsを保持。続けて13秒間で20000lbsへ減少。
更に10秒で18200lbsへ減少後、1秒で21500lbsへ増加。
14秒で20500lbsへ減少され、更に23秒掛けて20000lbsへ減少。

この試験を1回実施する。

評価

以上①~⑤の試験を規定回数行った後、規定空気圧へ充填。
1分間で6.9kPa以上の圧力低下が起きない=空気漏れが無いこと。

 

こうやって見ると、特に着陸については瞬時に時速300km超、僅か1秒で4.5トンの荷重が加わるというとてつもなく過酷な環境に耐える必要があることが分かりますね。

なお最後に蛇足ながら、これだけの過酷な試験をパスすることが求められるタイヤは一体幾らくらいの値段がするのかというと、試験内容を紹介したF-2のメインギアで約14万円の値段となります。

ノーズギアも含めた3本セットで32万6200円+消費税。

戦闘機はとにかく運用にお金が掛かるのです。

※参考資料

  • 防衛省仕様書 航空機用タイヤ DSP W2001F
  • 航空自衛隊仕様書 F-2用タイヤ