平成29年の航空観閲式は残念ながら悪天候のため中止となりましたが、週半ばにアメリカ空軍からB-2A戦略爆撃機が観閲式に参加するとの一報が流れました。

式典自体が中止になってしまいましたので今となっては本当に来る予定だったのか知る術がありませんが、B-2A爆撃機が仮に参加していた場合、日本にとってそれは望ましい事態だったのか否か、筆者なりの考えをまとめてみます。

B-1BとB-2Aの決定的な意味の違い

平成29年度の三沢航空祭に米軍からB-1B爆撃機が参加して盛り上がったのは記憶に新しいところです。

現在、米軍は北朝鮮に対する圧力の一環としてB-1B爆撃機を積極的に飛行させています。

B-1Bはいわゆるステルス機ではありませんが、レーダー反射面積は非常に小さく設計されており、一説にF-16戦闘機よりもレーダー反射面積は小さいと言われます。
(2010年4月15日 時事通信社記事より)

北朝鮮へ先制空爆を行うのにB-1Bは十分な能力を有しているでしょう。
またB-1Bはグアムに常駐しているため、朝鮮半島への展開速度という点でも有利です。

しかし自国兵士の戦死が大きな政治的ダメージともなる昨今。
より確実を期すならレーダー探知が非常に難しいと言われるB-2Aの使用も選択肢に入れてもおかしくはありませんが、B-1BとB-2Aでは決定的に違う点があります。

「核」

です。

B-1Bは元々核搭載可能な戦略爆撃機として開発されていましたが、START Ⅱ・第二次戦略兵器削減条約で核運搬プラットフォームからB-1Bを除外することが合意されたため、現存する機体には核兵器搭載能力がありません。
あくまでも通常兵器専用の爆撃機なのです。

対してB-2AはB61またはB83核兵器を搭載可能です。

B-2Aは「核兵器を搭載・運用出来る爆撃機」という点で、B-1Bと決定的に異なるのです。

何故今までB-2Aを控えてたか

米軍は今までB-1Bによる北朝鮮国境付近への圧力は加えていても、B-2Aを持ち出すことは、ここ数年ありませんでした。
(2013年に黄海を訓練で飛行したのが最も直近の事例と思われます)

これは米国側の思惑として過度な緊張の激化を避けたい狙いがあったと思います。

米国の核兵器運用手段は「3本柱」と言われます。

本国ミサイルサイロの大陸間弾道ミサイル(ICBM)
潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)を積んで海に潜む戦略ミサイル原子力潜水艦
そして航空機搭載型の核爆弾を積んだ戦略爆撃機です。

ICBMは速射性に優れます。
ミサイルサイロが発射状態にあれば、合衆国大統領の命令を受けて速やかに核兵器を目標へ投射することが出来ます。
SLBMは生存性が利点です。
シュノーケルを要しない原子力潜水艦が一度作戦行動に入れば、発見は非常に困難で
「国土を破壊されても海に潜んだ原潜から確実に報復攻撃を行う」
相互確証破壊、核抑止を成立させるために大きな役割を果たします。

しかしICBMはアメリカ本土の地下施設として存在しますし、SLBMは存在が露呈しないことこそがメリットです。
(寄港地に現れることでアピールは出来ますが)

すなわちこれらは受動的な核抑止と考えられ、核戦力のプレゼンス・政治的メッセージとしての効果は特に北朝鮮のような非対象の相手に対しては乏しいのです。

対して爆撃機は自らが移動して姿を現すことができます。
核兵器搭載可能な爆撃機を対象空域で飛行・訓練させることは、能動的なアピール、核の3本柱の一つを相手にちらつかせるということなのです。

逆を言えば下手に動かせば緊張を煽りかねないということ。

恐らく米国は
「朝鮮半島情勢で、核を手札としては考えていない。一線を越えるつもりはない」
というのを中国などへアピールするため、B-2Aの使用を控えていたのではないか、というのが筆者の考えです。

観閲式にB-2Aが参加するということは

当然、米軍にとって貴重な兵器であるB-2Aを参加させることで、日米同盟が強固であることをアピールする狙いが大きいと思います。
米国大統領の訪日直前の時期ということを考えれば、米軍側の思惑としても同盟関係のアピールは理に適う行動でしょう。

しかし日本に飛来するためだけに高価なB-2Aが飛ぶとも考えにくいので、恐らくは何かしらのデモンストレーション・示威行動を伴ったフライトだったと推測されます。
そうなると、フライトの途中に日本国内の飛行を組み入れることで「非核三原則のある日本の領空内を飛行する=B-2Aは緊張地域周辺を飛行するが核は積んでいない」ことを強調するという思惑があったのかもしれません。

けれども相手側、特に北朝鮮がそれを素直に解釈するかというと、疑問です。

北朝鮮がB-1Bによる航空攻撃を強く警戒しているのは各種報道などからも明らかなところであり、そこへ更に核搭載可能なB-2Aがアメリカ側の手札に加わるとなると余計に強固な姿勢を取りかねません。

 

B-2Aが日本の空を飛ぶということは北朝鮮情勢において「核兵器」という言葉が、より重くのしかかってくると言うこと。
それが日本の安全保障において有益か否か、この国が米国の「核の傘」に入っているという現実を、改めてよく考える必要があるのかもしれません

 

参考文献
米国の核戦略運用政策の変遷と現状(著:松山健二)

痛飛行機弐