10月17日、浜松の救難ヘリコプターが洋上で消息不明。
(搭乗員の生還を祈るばかりです)
10月18日、百里基地のF-4EJ改が地上走行中にギアの破損と思われる不具合により、炎上。

それ以外にも今年に入って自衛隊機の事故が相次いでおり、改めて「安全」が問われる事態になっています。

個々の事故には当然原因がありますが、これ程までに続くとなると、もっと根本的な部分、組織体制や環境などに着目せざるを得ないと思います。

筆者も「安全」を守る仕事をしていました。
その経験を踏まえて考えを纏めたいと思います

年々増していく負担と増えない人

ここ数年、防衛費の拡充が続いていますが、防衛費が増加しているのに対して、自衛隊の定員はどのように変化しているかご存知でしょうか?

(防衛省予算概要より作成。陸上自衛隊は即応予備自を除く)

答えは「ほとんど増えていない」です。
上記のグラフは定員数ですが、ここ5年の平均在籍人員数を航空自衛隊で見てみても

平成24年度予算資料→43195人

平成29年度予算資料→43350人

僅かに150人の違いなので、もはや誤差の範囲と言えます。

つまり自衛隊は「予算は増えてるけど人は増えてない」という状況なのです。

予算が増えるということは単純に考えても「仕事が増える」ということ。

それにも関わらず人が増えないのであれば、個人あたりの負担は増大するのが当然でしょう。

増える負担、見えない出口

南西方面のスクランブル発進激増、ミサイル防衛、海外派遣など自衛隊の負担は年々増しています。

領空侵犯対応では平成24年度に567回だったものが、平成28年度には1168回に。

戦闘機を1時間飛ばすと、その整備には機種にもよりますが10マンアワー以上の整備労力が必要とされます。
(マンアワー=人時計算のこと。1人が1時間で出来る作業量)

スクランブル発進1回が1時間として、対応機数2機。飛行時間1時間の整備労力を仮定で10マンアワーとした場合、平成24年度と平成28年度で

12000マンアワー

増加していることになります。
(実際のマンアワーについては機種毎に異なる。また正確な値は不明)

1ヶ月あたりで1000マンアワー、整備士が100人いたとしても1ヶ月で1人あたり10時間仕事が増えるわけです。

整備の手間が増えても常時アラート待機可能な機体は用意しなくてはいけませんし、パイロットには年間で定められた規定飛行時間もあります。
限られた時間の中で増えた手間を処理しなくてはいけません。

当然、整備の頻度が増えれば補給処なども仕事が増えますので、航空自衛隊全体での負荷増大は相当なものでしょう。

またミサイル防衛ではこれまで「迎撃の兆候が見られた際に発令」であった破壊措置命令が原則常時発令状態となっています。
日本全土をカバーするには「こんごう型」2隻を日本海に常時配備するしかありません。
今までスポット対応だったものが「常時」になれば、当然それだけ洋上にいる期間も長くなります。

陸上自衛隊は2011年から南スーダンのPKOに従事していましたが、その過酷さは日報問題などでも語られた通り。
また与那国島への配備に続き宮古島へもミサイル部隊などの配属が決まっており、南西シフトによって陸自にも大きな動きが今後も予想されます。

陸海空問わず、とにかく負担が増えているのが現状です。

しかし現状、この状況には出口が見えません。

中国は海軍力重視のシーパワー国家への転換、太平洋への進出を国策としている以上、南シナ海での積極的な活動を止めることはないでしょう。

北朝鮮もミサイルと核開発を止めることは、まず無いと思われます。
破壊措置の常時発令は今後も継続すると考えられます。

負担ばかりが増えるのに、その状況に終りが見えないというのは、士気を大きく削る環境であることは言うまでもありません。

自衛隊がすべきことは

先ほども書いたとおり、国際情勢は緊張の一途を辿っており、今後も良い方向に傾くことは無いでしょう。

よく「自衛隊の増員を」という声を聞きますが、筆者はこれに否定的です。

何故か?

まず日本の人口は今後、減少に転じます。
少子化対策などを行って出生率が回復しても、確実に今後何十年は「労働人口が減り続ける」という状態は避けられないのです。

国立社会保障・人口問題研究所 日本の将来推計人口(平成29年推計)より引用しますと

将来の生産年齢人口は、出生中位推計の結果によれば、平成41(2029)年、平成52(2040)年、平成68(2056)年にはそれぞれ7,000万人、6,000万人、5,000万人を割り、平成77(2065)年には4,529万人となる

最早10年ごとに1000万人単位で「働ける世代」が減り続けることは確実なのです。

自衛隊に限らず公務員は「守る」仕事であり「生み出す」仕事ではありません。
これはその業務を否定するわけではなく「守る」と「生み出す」はバランスの取れた両翼でなくてはならないということです。
仮に安全保障を重視しても国内経済が不調なら税収を確保出来なくなります。
安定した経済活動には安全保障が必要ですが、安全保障を滞りなく行うには国家の税収を支える経済活動が不可欠です。

今後、労働人口が減る中で日本という国を維持するには「守り」を担う自衛隊ばかりに人数を割いてるわけにはいかないのです。

それでなくても自衛隊は特殊な業務ですから「経験者を中途で雇う」ということも、一部の業務を除いて出来ません。全て自前の育成ですから、新人を急激に増やしたところで教育環境の整備が困難でしょう。

実際、海上自衛隊では潜水艦の定数増加計画に伴い16隻体制から22隻体制へと移行中ですが、呉の潜水艦教育部隊はかなりのハードワークになっていると聞きます。
潜水艦の乗員は1隻あたり、そうりゅう型で65名、おやしお型で70名。6隻分を増やすには約400名が必要な計算(幹部・曹などの区別はここでは省きます)
潜水艦乗員が非常に特殊とはいえ、400人の増員でも現場にはとてつもない負荷が掛かっている事を考えると、自衛隊全体で大幅に増員しても教育体制が追いつかないのは目に見えているでしょう。

ならば「これからは人が減る」という前提に基づき、「限られた人員を効率的に運用する」、マネジメントや省力化で対応するしかありません。

何が一番重要で、何を後回しにするか。
自動化・効率化出来るところにマンパワーを割くより、人間でないと出来ないところに人を割く。

孫子の言葉を借りるならば

「至る処守らんとすれば、至る処弱し」

戦いの9原則における「集中」と「節用」です。

重要なところを見極めて集中的に投入する、遊兵を作らず全人員の効率的な運用を行う。

戦いにおける不変の原則。これが今後、求められていくことだと思います。

ただし、これは自衛隊に限った話ではないのは言うまでもないでしょう。
昨今の大企業の不祥事もそうですが、日本という国はマネジメントという概念が本当に弱い。
マネージャーが「至る処を守れ」とだけ言って最前線の精神論に戦果を依存する。
責任が不明確で、合理的思考よりも場の調和を求める。
先の戦争における日本軍の組織的欠陥を繰り返しているのは明白です。

士気が低いとどうなるか

ここからは筆者の経験談になりますので、お付き合い頂ける方だけお付き合いください。

筆者が経験した士気の崩れた現場の体験談を語らせていただきます。

筆者は設備の運転・管理を生業としていましたが、会社の方針により既存事業の徹底的なコストカット、新規事業の開拓、それによる人手不足の慢性化という状況を経験しました。

それでなくても保守や管理という「安全を守る」仕事は評価されにくいです。
何故なら「何も起きない」のが当然と思われるから。
「今月一度も事故が起きなかったのは貴方たちのおかげです!」などと外部から褒められることはまずありません。
むしろ「何もやらない給料泥棒」と馬鹿にされ、そして一度事故が起きればやはり「まともに仕事していない給料泥棒」と罵られます。
そして安全への理解が乏しい経営陣は、この外部目線で現場を見てきます。
外からは見下され、身内からも冷遇される。
非常に悲しいことですが、これが「安全を守る」という仕事の現実です。

さて本題に戻りましょう。
人手の余裕が無くなると、個々の注意力が散漫になりヒヤリハットや小規模な事故が起こりやすくなります。
そこで「人手が足りていないから増やそう」と言ってくれれば救いようもありますが、「水と安全はタダ」だと思ってる経営陣は「個人の意識が欠けている」という方針で事故に対応することがほとんどです。

  • マニュアルや手順書を分厚くすれば良い
  • チェック項目を増やせば良い
  • 事故を起こすのは意識が低いので再教育を行う

こんな当たり前の対応を言ってくるのです。勿論、それに伴う手間の増加は無視です。

しかし、士気が崩れた現場は、これを

「経営陣は人手不足で余裕が無いところに更に追い討ちを掛けてくる」

と反抗的に捉えます。

そもそもコストカットと新規事業開拓=「利益こそが最優先」というのを全面的に押し出している経営陣が口先で「安全第一」などと言ったところで、その言葉は誰の心にも響きません。
「安全のための対策」とどれだけ会社が言っても「安全を守る」という共通意識・統一目標が無ければ、誰もそれを実行しようとしないのです。

結果、改定されたマニュアルは誰も真面目に読まない、新たに設けられたチェック項目は形式的に見るだけ、再教育はとりあえず聞くだけ。
それどころか今までやっていたチェック項目すら適当に行ってしまうのです。

余裕がある時ならちょっとズレているから調整しておこうとなるはずの気持ちが、時間が無いから面倒だ、ズレているけどまだ大丈夫だから今度でいいという気持ちになる。

このエラーが気になるから一度調査しておこうという気持ちが、調査する時間も無い、こんなのは偶発的なエラーだから様子見すればいいという気持ちになる。

報告すれば自分が怒られて余計な仕事が増えるだけだから見なかったことにする、対応してもしなくても給料が変わらないんなら真面目にやるだけ損だ。
士気が崩壊した現場は、このようなモラルハザードの泥沼に陥ります。

当然、また事故が起こります。そして同じことが繰り返されます。
そして、最後に行き着くところは人の命を奪うという最悪の事故です。

筆者は内部で言えるだけのことは言って、それでも尚、変化しないのを見て、既にこの職場は人の命を奪うまで泥沼から抜け出せないだろうと悟り、自分が死ぬか誰かを殺すか、そんな事態になる前に職場を去りました。
風の噂ではやはり人手不足の無限の泥沼にはまっており改善の目処は立っていないとのこと。

当たり前が当たり前じゃなくなる、それは一言で表現するなら「恐怖」だったと今になって思います。

痛飛行機弐