陸自の装備品には色々と面白い愛称が付いていたりするのですが、その中でもなかなか飛びぬけて面白い名前が付いている装備で「87式自走高射機関砲」というのがあります。

略称は「87AW」、広報用として「スカイシューター」の名前が付いているのですが、陸自での広報名称が一般に定着したパターンというのは、まぁ無いに等しく、87AWも案の定、別の名前が定着しています。

その名も「ガンタンク」。
そう、あの某有名ロボットアニメに出てくるキャタピラに上半身だけ乗せた、あのガンタンクです。

87aw

なお、ガンダム好きの知り合い曰く
「ガンタンクというより、ガンタンクⅡに近い」
とのこと。

どれくらい似てるかは

ガンタンクⅡで画像検索
(イラストは著作権の都合で貼れないので御容赦ください)

87式自走高射機関砲とは

装備としては「自走対空砲」に位置付けられており、海外にもドイツの「ゲパルト」など同様の車体が存在します。

35mm90口径のエリコン社製機関砲2門を車体の左右に装備しており、2門同時射撃の場合、最大で1分間に1000発以上を半径5kmの範囲へ射撃可能です。

車体には火器管制装置の他に照準用の追跡レーダー及び周囲警戒用の対空索敵レーダーが装備されており、これを動かすための大型電源装置も備えていることで1台で索敵・照準・射撃まで完結することが出来ます。

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この装備の任務は機甲部隊に随伴して、対空脅威を排除する事です。

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それなら地対空ミサイル(短SAMなど)もあるのではと思われるかもしれませんが、地対空ミサイルと自走高射機関砲は互いにカバーしあう関係なのです。

地対空ミサイルの弱点

短距離地対空ミサイルには主に光波ホーミングの赤外線誘導+画像認識が用いられることが多いですが、このタイプの大きな欠点として射撃前にシーカー冷却を必要とする、ということがあります。

赤外線誘導は、ミサイル先端のセンサー=シーカーが、熱を放っている場所に目掛けて飛んでいくのですが当然シーカーと対象の温度差が大きければ大きいほど、より検知する精度は上がるのでシーカーを冷却ガスで冷やす手順が必ず必要になります。
故に射撃準備から実際に射撃可能な状態に移行するまで、僅かながらロスが生じてしまうのです。

また画像認識は対象の形状をミサイルに把握させなければいけないので、やはりこれも時間が必要です。

つまりミサイルを用いる場合、どうしても敵発見→射撃までに必要な時間のロスがあるのです。更に地対空ミサイルは亜音速なので目標が3km先にいるとして、着弾には約10秒は掛かります。

敵との遭遇状況によっては、この時間が命取りになりかねないのです。

特に攻撃ヘリは飛翔速度の速い大口径の機関砲を装備しているので巧みに動かれながら機関砲による攻撃を受ければ、ミサイルの発射準備が完了するまでに被害を受ける可能性があります。

対して自走高射機関砲はミサイルと違い高い命中精度は望めず、かつ射程もミサイルより短いと言われていますが、自らがレーダーで索敵・照準を行う事が可能で、かつ機関砲なので相手に砲を向ければ、即、射撃体勢に移行することが出来るのが利点です。
また、いざとなれば目視照準で大まかな狙いだけ合わせて、弾幕を張るように超音速の砲弾をばら撒く事で、僅かな時間で敵機の動きを牽制する事も出来ます。
現代のヘリが、それなりの装甲を備えているとはいえ、35mm砲弾で被弾すれば墜落のリスクは十分にあり、これを撃ち込まれれば何かしらの回避機動は取らざるを得ません。

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敵航空勢力の攻撃機会を奪うという点で、即応性と射撃速度、また良い意味で「アナログ」な機関砲は非常に優れた武装であり、ミサイルの欠点を補うためには欠かせない装備といえます。
アナログであることは信頼性の高さにも繋がり、特に敵の電子妨害下においても、「とりあえず撃てる」というのは非常に大きなメリットです。

また本来の任務ではないですが、その大口径の機関砲による火力と、射角の広さ(87AWの場合、ほぼ直角の80度まで上下駆動可能+360度全周駆動可能)を活かして、対地目標への掃射なども可能です。

ただし、1台で全ての対空攻撃を行うだけの装備を詰め込まなくてはならない必要性から、1台の価格は15億円と、120mm砲搭載の主力戦車よりも高い価格になっているため、機甲部隊の重要性が高い北海道以外には配備されずに調達を終了しています。

後継機については、将来装輪戦闘車両に「対空機関砲搭載型」があるので、これが該当すると思われますが、自衛隊の限られた人員と予算で、果たして自走高射機関砲という有益だけれどニッチな装備を今後も継続して使用するのか、続報の待たれるとことではあります。

痛飛行機弐