COGAG?COGLAG?意味が分かると読み解きやすい、護衛艦の複合推進。

COGAG?COGLAG?意味が分かると読み解きやすい、護衛艦の複合推進。

護衛艦の主機(海自ではもときと読む)には、現在ガスタービン機関が採用されています。

しかし各護衛艦のスペックを見るとCOGAG、COGLAGと何やらモ○ルスーツかポ○モンかという謎の単語。

しかしこのCOGAGやCOGLAG、一度読み方を覚えてしまうと非常に簡単です。

今回は護衛艦の複合推進についても併せて解説していきます。


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複合推進とは

読み解き方の前に、複合推進とは何か?の概要だけ解説した方が理解が進むと思うので、先にこちらを説明しましょう。

艦艇の複合推進とは単独の機関だけではなく、異なる種類または複数の機関を組み合わせたもので、大きく分けると

出力が足りなくなったら追加の機関が起動するタイプ
必要な出力によって使う機関を切り替えるタイプ

この2種類が存在します。

とりあえずここまで分かれば読み解き方の基礎は理解出来ると思うので、細かな解説は後に回し複合推進の読み解き方に入りましょう。

COGAGの読み解き方

COGAGという用語は、それ自体が一つの単語ではなくある規則性に基づいて書かれています。

具体的には

COGAG
COGAG

といった具合です。

この分解方法を覚えているだけで、複合推進の読み解き方は非常にスムーズになります。

では要素ごとに見ていきましょう。

最初の赤文字の“CO”Combinedの頭文字2文字を取ったもの。

Combined=組み合わせという意味なので、この2文字で複合推進機関であることを示しています。

続けて青文字のGの部分。これは組み合わされているエンジン・機関の種類を示しています。

Gの場合にはGas turbine:ガスタービン機関のこと。この部分には他にも

D:Diesel
→ディーゼル機関
S:Steam
→蒸気タービン機関
DL:Diesel Electlic
→ディーゼルエレクトリック機関
GL:Gas turbine Electlic
→ガスタービンエレクトリック機関

と言った具合です。

海上自衛隊では”しらね型”の退役で無くなった蒸気タービン機関だが、原子力空母などでは未だに健在。

ディーゼルまたはガスタービンエレクトリック機関とは、内燃機関で直接動力を得るのではなく、内燃機関は”発電機”として使い発電した電力で電動機(モーター)を回すもの。分かりやすいところでは潜水艦がこれに該当します(潜水艦の場合、発電機と電動機の間に充電池がありますが)
Electlicなのに略語が頭文字のEじゃなくて2文字目のLというのが少しややこしいです。

最後に緑文字のA

このAはANDを意味しています。つまりGAGはガスタービン&ガスタービンということです。

この部分には他にO:ORが入ります。

ANDとORで何が違うのかというと、最初に解説した

出力が足りなくなったら追加の機関が起動するタイプ
必要な出力によって使う機関を切り替えるタイプ

この部分の違いです。

A:ANDは追加の機関を起動するタイプ、O:ORは機関を切り替えるタイプ

なのでGAG=ガスタービン&ガスタービンは
ガスタービンで出力が足りなくなった場合に追加でガスタービンが起動するタイプ
ということです。

これがGOG=ガスタービンorガスタービンになると
出力によって異なるガスタービンを使い分けるタイプ
となります。

また、護衛艦では「あぶくま型」でCODOG=ディーゼルエンジンとガスタービンを切り替えるタイプも存在します。

ちなみに先に書かれているのが最初に回っている機関(巡航機)、後に書かれた方が追加される、または切り替わる機関(ブースト機)です。
(巡航機、ブースト機という)

要素ごとに分解出来ると、意外と簡単ではないでしょうか?

何故、複合推進が必要?

読み解き方が分かったところで、何故このような複合推進が必要なのかという解説に入りましょう。

民間商船では主にディーゼルエンジンが用いられているのに対し、軍艦の主機は蒸気タービン機関が主流だった時代を経て、高出力を得られるガスタービン機関がその主力となりましたが、ガスタービンには大きなデメリットがあります。

高速・高出力を得られる反面、低出力時の効率が非常に悪く、ゆっくり進んでいる時でも、燃料を大きく消費してしまうのです。

一般に船の機関出力は速度の3乗比と言われます。つまり10ノットと20ノットで速度が倍になれば機関出力は8倍。

数千トンの排水量の巨体を30ノット超で動かすには相当大きな機関が必要になるものの、軍艦と言えども常に高速航行をするわけでなく、低速時に燃料を大量に消費してしまうのは航続距離や作戦行動期間の観点で大きな足枷になります。

そこで、なら低速時にはそれに合わせた小さめの機関を使えば良いのでは?という発想になったのが軍艦の複合推進機関です。

このうち高速時に機関を切り替えるタイプとしてCODOG(あぶくま型護衛艦など)やCOGOG(はつゆき型護衛艦など)、高負荷時に追加の機関を回すタイプとしてCOGAG(あさぎり型~あきづき型までのDDなど)が採用されました。

手前からDD110″たかなみ”はCOGAG、DD120″しらぬい”はCOGLAG。一方、その後ろに停泊している423の”ときわ”は補給艦なので主機はディーゼルのみで複合推進を採用していない。

そして、更に効率化を求めて「ガスタービンで発電機を回して、低速時は電動機で巡航すれば良いのでは?」となったのがCOGLAG。
これは燃費改善と併せて低速時の静粛性という点でも効果があります(軍艦にとって音の大きさは対潜戦に関わる)

なお更に「推進用と艦内電力用の発電を一緒にする」という統合電気推進という方式があり、これは海上自衛隊では海洋観測艦や砕氷艦「しらせ」に採用されています。

 

海外では英海軍の45型駆逐艦などでも統合電気推進の採用例があり、将来的には海上自衛隊でもFFMやDDなどにも統合電気推進艦が出てくるのかもしれませんね。

※参考文献

  • 海上自衛隊全艦艇史(海人社)
  • 世界の艦船各号(海人社)
  • とことん分かる!艦艇入門講座(イカロス出版・著:井上孝司)