産経新聞で、消防庁が消火用飛行艇としてUS-2の改造型導入を検討するとの報道がありました。

消防庁、消防飛行艇導入を検討 海自の「US2」改造機を想定(外部)

消防で消火用の飛行艇を導入するという検討は今回が初というわけではなく、消火飛行艇のベストセラー機であるカナダのCL-415がデモンストレーションの為に飛来したこともあったかと思います。
(その後、国産機の方が云々で新明和が消防飛行艇のテストしたことも・・・)

筆者は、この報道を見て2つの仮説を思いつきました。

まず1つが「生産ラインの維持」、もう1つが「防衛装備品輸出に関する法整備」という観点からの仮説になります。

素人考えですが、御参考までに。

前提条件

この問題を考える上で重要な点として、US-2という機体の特殊性は認識する必要があります。

まず一点、US-2は現状「自衛隊専用機」であるということ。

自衛隊機は自衛隊法に基づく航空法の適用除外として、民間機で必要な耐空証明を取得せずに自衛隊独自の検査基準に基づく検査を行います。
そのため自衛隊専用で使う機体は民間機基準の耐空証明取得を前提としていません。

自衛隊機として空を飛べる=民間機としても空を飛べるとは限らないのです(法的な意味合いで)

サーキットを走るレーシングカーは「車」として使えても、ナンバープレート取得して公道は走れませんよね?そのようなイメージです。

仮に耐空証明を取得出来たとしても、設計の見直しなど相当な手間が掛かるのは間違いありません。

もう一点、ライセンスの特殊性。

飛行機(ここでは固定翼に限定)の操縦ライセンスは「陸上機or水上機」「単発or多発」「レシプロorタービン」という風に分かれます。

US-2は「水上機・多発・タービン」です。

更に仮に先の耐空証明の問題をクリアして民間機として使用可能になったとしたら、機体の規模からして「操縦に2人を要する航空機」となり型式限定のライセンスも必要かと思われます。

なのでUS-2を民間機として操縦するには、タービン(ターボプロップ機含む)で双発以上の水上機を用いて操縦ライセンスを取得した上で、更にUS-2自体の型式限定ライセンスを取得するという、途方も無い手間が掛かります。

この二点を考慮すると

US-2を消火飛行艇として運用するなら、海上自衛隊に「自衛隊機」として運用してもらうのが一番手っ取り早い

というのは明白で、これを大前提の条件として以降の話を進めていきます。

①海自の機数確保と生産ライン維持

まず一つ目として、海自に運用を全委託する前提で「海上自衛隊で使える機体を消火用飛行艇という名目で、消防の予算で買う」という可能性です。

海自の飛行艇は長年、新明和工業が製造していますが、継続して生産・開発を続けるには生産ライン及び人的資源の維持が不可欠です。しかし発注・製造が長年途絶えれば企業にとっては「使わない資産」となってしまいます。

恐らく今後US-2の初期導入分が機体寿命を迎えるため、その更新分の発注が入るとは思うのですが、何せ防衛大綱の改訂も噂される昨今。
US-1・US-1Aと同じようなペースでの更新が予算計上されるかは分かりません。

そこで「消防用」という名目で消防庁から予算を貰い発注するという可能性。

導入されるのは改造機とのことなので、US-2本来の洋上救難ミッションには使用出来ないかもしれませんが、海自側で書類上「同型機」とすれば技量維持飛行などに使うには差し支えないはず。

海自としては、貴重な機体が手に入って、現有機の飛行時間負担も減らせる。
消防は人員育成などを心配せずに、消火用飛行艇を運用出来る。
製造元の新明和は生産ラインを維持できる。

三者三様の思惑が合致するなら「消防の予算で海自機を買う」という選択はあっても良いのかもしれません。

もっとも日本の縦割り行政故に、運用に際して様々な問題が起きる事が容易く想像出来るのは悲しい話ではあります・・・

②耐空証明・型式証明取得を進める「大義名分」

こちらは海上自衛隊に運用を委託しないと考えた場合です。

先の前提条件で書いた通り、US-2を仮に「民間機」として使用するには最低でも耐空証明を取得する必要があります。

しかし一般的に販売されている民間機は耐空証明だけでなく型式証明も取得しています。

型式証明は自動車の型式認証と一緒で
「予め製造方法などの検査・承認を受けて、その通りに作ったものなら個別の検査を省略する」
というもの。

しかし型式証明の取得には、かなりの手間と予算が必要となり、これらを製造元だけに負担させるというのは酷な話です。

また軍用機から民間機への転用に関する耐空証明関連の法律や規則に関する整備(国土交通省管轄)が日本では未だに乏しいのが現状です。

なお米国やカナダでは軍用機の民間型や払い下げ機の改修機などが活躍していますが、これはそれぞれの国において軍の要求に従い製造された航空機や、その払い下げ機を民間機として使用する場合の型式証明に関する法整備が存在するためとのこと。

米国のケース
米国軍の要求に沿って製造、かつ運用承認され、その後、特殊目的のために改修された型の航空機であることを申請者が示したとき、特殊目的運用のためのリストリクテッドカテゴリーの型式証明が申請者に与えられる

カナダのケース
防衛局の要求に沿って製造、かつ運用・承認され、その後、特殊目的のために改修された型の航空機であることを申請者が示したとき、特殊目的運用のためのリストリクテッドカテゴリーの型式証明を大臣が発行する

http://www.meti.go.jp/committee/materials2/downloadfiles/g100325b05j06.pdfより

またライセンスに関しても水上多発タービン機というカテゴリーの取得は海外などで可能でも、US-2という機体の型式限定ライセンスをどうするのかという問題があります。
自衛隊のパイロットも、あくまでも防衛大臣が承認したライセンスしか持っていないので、「自衛隊機US-2の操縦教官」は出来ても「民間仕様US-2の操縦教官」は法的に出来ないのです。

よって予算面・技術面でクリアになっても法律や規則が足を引っ張る可能性もあります。

一方お隣中国では大型飛行艇のAG-600が初飛行を果たしており、US-2の持つ大型飛行艇という優位性は揺らぎつつあります。

US-2は政府としても輸出を積極的に狙っているようですが、海外に売り込む上で型式証明の有無は大きな問題です。
型式証明が無い=事実上、軍用機用途でしか需要が見込めないということなので。

実際、欧州の軍用輸送機A400Mは軍用機でありながら型式証明を取得しています。

しかし上手くいくか分からない輸出の為に、予算や手間を掛けてUS-2の証明取得が進むとも思えず。

またUS-2を売り出すとすれば当然、航空従事者ライセンス取得などのサポートも含めた販売になるので、自衛隊のライセンスとの互換性云々などを含めた人材確保のための法整備という点も必要となるでしょう。

ならばUS-2の形式証明取得や法整備を進める目的・大義名分を国内に作ってしまえばいい。

その上で「消火用飛行艇」というのを、ある意味で「錦の御旗」にするというのは、多少過激かもしれませんが考えられなくはないかなと。

「自衛隊機から民間機への転用に関する前例を作る」

という長期的な視野で見れば荒唐無稽な話ではないと思います。

 

以上、US-2の消防飛行艇導入に関して2つの仮説を考えてみました。

そもそも最初に書いた通り、以前にも消火用飛行艇の話は現れては消えという経緯がありますので、本当に導入するのかいなというところではありますが。

続報を待ちたいところです。