航空自衛隊で、恐らくもっとも馴染みのある飛行機といえば、恐らくT-4ではないでしょうか。

F-15やF-2、F-4などはどうしても基地によって配備に偏りがありますが、T-4の配備されている基地を北から順に並べていると

千歳、三沢、松島、百里、浜松、小松、岐阜、芦屋、春日(福岡空港・板付地区)、築城、新田原、那覇

ほぼ日本全国に配備されています(恐らく、存在しないのは四国だけだが、そもそも四国には航空自衛隊の基地が1つ、それも分屯基地のみ)

そしてブルーインパルスとして全国を飛びまわっているため、飛行場以外の場所でも、最も姿を現す自衛隊機と言えると思います。

基地によって、役割が少し違ったりしますが、自衛隊ファンには馴染みの深いT-4を改めて解説していきます。

国産ジェット練習機として生まれた T-4

航空自衛隊では、長年戦闘機パイロット養成課程において、T-1とT-33を中等練習機(レシプロ初等課程を終え、ジェット機の操縦に習熟する課程に用いる練習機)として使用していましたが、T-1は1960年、T-33は航空自衛隊の創設間もない1954年から米軍の供与品(後にライセンス生産)として使用しており、老朽化が進行。
また後に導入されたT-2練習機は超音速飛行を強く意識した高等練習機で、中等課程には適さないため、航空自衛隊は先の2機を置き換える新たなジェット中等練習機を必要としていました。

この需要を受けて、川崎重工を中心とした国産機開発がスタート。
1981年にプロジェクト開始、1985年には初飛行、1988年より本格的に航空自衛隊への納入が開始され、およそ15年の間に量産機208機が製造されました。

自衛隊の戦闘機操縦士候補が一番最初に乗るT-4 塗装から通称「レッド・ドルフィン」

自衛隊の戦闘機操縦士候補が一番最初に乗るジェット機となるT-4
特徴的な赤白塗装から通称「レッド・ドルフィン」、芦屋基地の所属

軽い機体に高出力エンジン 高性能な練習機

練習機は、操作に不慣れなパイロットが操縦桿を握るため、総じて高い安定性と癖の少ない安定した操縦特性、また失速やスピンからリカバリー出来る十分な余剰性能が求められます。

T-4も中等練習、すなわちジェット機を初めて操縦する訓練生が乗る機体のため、これらの要素が十分に確保されており、これがブルーインパルスの曲技飛行にもT-4が使える大きな理由です。
(百里のパイロットさん曰く、T-4がポニーなら、ファントムは暴れ馬とのこと)

バーティカルクラームを披露するT-4 高度9000ftまで一気に駆け上がるのは高い余剰推力の成せる業

バーティカルクライムロールを披露するT-4
高度9000ftまでロールも行いながら一気に駆け上がるのは高い余剰推力の成せる業

T-4は空虚重量3650kgに対し、装備するF3-IHI-30エンジン2発合計の推力が3340kgfと非常に大きく、空虚重量の推力重量比は0.91。

同様に空虚重量を基に計算すると、F-15戦闘機のミリタリースラスト(アフターバーナー無しの最大出力)では0.87になるので、実はT-4は機体重量に対してF-15と同じくらい強力なエンジンを積んでいることになります。
(戦闘機は電子装備・固定武装などが大量に積まれるので、どうしても重くなります)

この高い性能に加え、低速~亜音速~遷音速まで、非常に安定した飛行特性を有しているため、T-4の導入により航空自衛隊では中等練習~戦闘機練習課程(前期)までを、これ1機でまかなえることになり、高等練習機を別に導入する必要がなくなりました。

自衛隊の戦闘機パイロットはT-7で操縦の基礎を学んだ後、T-4でジェット機の基礎から戦闘機操縦の導入課程までを全て行うのです。
(一部、米国でT-38Aの訓練を受ける学生もいます)

浜松第1航空団所属機。 芦屋の前期課程を卒業すると、通常塗装のT-4に移行。

浜松第1航空団所属機。
芦屋の前期課程を卒業すると、通常塗装のT-4に移行。

その為、戦闘機パイロットなら、必ずT-4の操縦は可能だそうです。

練習機用途以外にも幅広く活躍

練習機として生まれたT-4ですが、その他の用途として

各地の支援飛行班用の機体

入間、春日などの基地では「支援飛行班」として、T-4が使用されています。

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支援飛行班って何を支援してるの?と思われるかもしれませんが、支援飛行班の仕事は基本的に「操縦士資格を持っている自衛官の年間技量維持飛行」です。
即ち、人事異動などの関係で一線部隊から離れてる操縦士の技量を維持できるよう、定期的な飛行訓練を行っているのです。

戦闘機操縦資格を持ってるパイロットの場合、当然T-4も操縦できるので、支援飛行班の機体としてT-4は非常に適した機体であると言えます。

飛行隊の連絡機

各戦闘機飛行隊には、必ずT-4が数機配備されています。

302飛行隊所属のT-4

302飛行隊所属のT-4

これは連絡機として、パイロットが他の飛行場に移動する際の交通手段として用いたり、または戦闘機を使うほどでもない訓練飛行などの際に一種の多用途機として使用されるためのものです。

要撃戦闘機は非常に高価です。
F-15Jを例に取ると1機で100億円と言われていますが、機体寿命が1万時間とするなら、飛行時間1時間あたり「100万円」になります。
これに対しT-4は約20億~30億と言われてるので、同じ寿命と想定するなら、飛行時間あたり70~80万円の差が出てくるのです。
これに加えて燃費やら、消耗品の価格やらも加わってきますので、年間の飛行時間に換算すると軽く億単位に達するのではないでしょうか。
戦闘機はそれくらい運用にお金が掛かるので、戦闘機の必要ない飛行に、わざわざ持ち出すことは出来ないのです。

また北朝鮮など隣国の核実験などが行われた際に、集塵ポッドを取り付けて、各地のT-4がデータ収集飛行を行うこともあります。

謎のカーテン付き T-4

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T-4で時折、コクピットにカーテンのようなものを付けて飛んでいることがあります。
(後席パイロットさんの手前にある赤い束)

これは計器飛行訓練用の暗幕だそうで、視界が遮られた状態を意図的に再現するため、上空でキャノピーを覆うのだとのこと。

流石に使っているところは見れませんが、コクピット周りをよく見ると面白いかもしれません。

ブルーインパルス

T-4を語る上で欠かせないのが、やはりブルーインパルスでしょう。

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ブルーインパルスのT-4は「戦技研究仕様機」という特別な改造が施されたモデルです。
従来、生産時から特注モデルとして作られた機体が使用されてきましたが、最近になり当初導入分が機体寿命を迎えたため、既存のT-4を改修しているようです。

しかしスモーク発生装置や高度警報装置などは改修されていますが、機体構造の大半やエンジンは特別仕様ではなく、通常のT-4と同じものが用いられています。

逆に、特殊な性能向上改修をしなくても良いほど、T-4が曲技飛行にも耐えうるポテンシャルの高さを持っているということです。

ブルーインパルスには増槽もブルー塗装のものが用意されている(通常はグレー)

ブルーインパルスには増槽もブルー塗装のものが用意されている(通常はグレー)

改修内容や金額などは、こちらの記事を

ちなみにブルーインパルス仕様のT-4は、通常のT-4と比較して航続距離が若干短くなっています。

これは燃料タンクの一部をスモークオイルタンクに改修したためで、スモークオイルタンクの320Lに相当する分、燃料搭載量が減っているそうです。
(T-4の全燃料搭載量が不明なため、どれくらい距離が減るのかも分からず)

なんで「イルカ」なの?

ブルーインパルスでは、パイロットを「ドルフィンライダー」、メカニックを「ドルフィンキーパー」と呼ぶなど、T-4のことはしばしば「ドルフィン」=イルカの愛称で呼ばれます。

いつから、この愛称があるのかは定かではありませんが、少なくともブルー創設後の、かなり早い時期から「ドルフィン」の名前やツアーワッペンにイルカのマークなどが存在しており、ここ10年などという新しい話ではないようです。

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ちなみにイルカと呼ばれているのは、そのシルエット、特に先端の形状が丸みを帯びててイルカっぽく見えるから。

ただ公式な愛称として使っているのは、ブルーインパルスと芦屋のレッドドルフィンだけで、他のT-4については「ドルフィン」はあくまで非公式です。

どうなるT-4の後継機問題

高性能で使い勝手の良い練習機として自衛隊で広く運用されているT-4ですが、量産期導入開始から間もなく30年に達しようとしており、後継機の問題を検討しなければいけない時期にきています。

・・・が、一向にお話を聞きません。

実のところ、ジェット練習機の後継機問題はアメリカ空軍でも悩みの種となっており、ロッキードマーティンが技術援助しているT-50A、またはボーイングとサーブの提案するT-Xなどが候補となっているそうです。

今後F-35Aを導入していく自衛隊としては、米軍の動向を見てから決めたいのか、はたまたそこまで手が回らないのか。

何にせよ、練習機は将来の優秀なパイロットを育て上げるための、重要な装備品です。
今後、検討が進行していくことを望むばかりです。

 

参考文献
著:赤塚聡 ブルーインパルスの科学
著:赤塚聡 ドッグファイトの科学
https://ja.wikipedia.org/wiki/T-4_(%E7%B7%B4%E7%BF%92%E6%A9%9F)
http://www.mod.go.jp/asdf/equipment/renshuuki/T-4/

痛飛行機弐