数十トンの鋼の巨体を縦横無尽に操る事の出来る戦車。

90式戦車では、その巨体を動かすエンジンとしてV型10気筒・1500馬力(≒1100kW)という化物のようなエンジンが搭載されています。
日本の戦車は三菱重工製ですが、同じ三菱の系列・三菱ふそう車の10tトラック用エンジンが460馬力(≒338kW)ですので、その3倍以上の出力です。
(三菱ふそうHPより6R20型のスペック値を引用)

さて、これだけの巨体と高出力のエンジンが積まれた戦車。
運転(自衛隊だと『操縦』)する上で、その操作はオートマなのかマニュアルなのか。

各戦車別に解説していきます。

74式はセミオートマ

第2.5世代主力戦車に分類される74式戦車は、セミオートマチックとも言うべき変速機構を備えています。

通常の自動車と同様に右から順にアクセル・ブレーキ・クラッチとペダルが並んでおり、また手元には前進6段・後進2段のギアレバーも備えられている操縦手席。
しかしクラッチペダルを踏むのは基本的に停止状態から発進ギアに入れる時のみで、走行中の変速にクラッチ操作は必要無いそうです。

「変速は手動だが、クラッチ操作は必要ない。但し発進時のみクラッチが必要」という、特殊なセミオートマです。

隊員さんに聞いたところによれば、昔の戦車(詳細、後述)に比べればこれでも遥かに楽になったとのこと。

90式でオートマに

90式戦車では74式では出来なかったオートマチック機構が組み込まれました。

油気圧式の自動変速機は前進4段・後進2段となっており、いわゆる4AT車にバックギアが更に1個増えたような感じです。

これにより戦後の国産戦車において、初めて「クラッチペダルの無い戦車」となりました。

10式は更に高度なオートマ

最新鋭の主力戦車である10式は、90式よりも更に進化して油圧機械式無段変速機構・Hydro-Mechanical Transmission HMTが組み込まれています。

近いものではホンダのオートバイの一部に似たような機構が組み込まれていたかと思います。

この最新鋭の機構により10式戦車は常に最適な変速比を得る事が出来るようになりました。
一説には90式より300馬力近くエンジンの出力が下がったものの、効率の向上によって軸出力は90式に迫るとも言われています。

完全マニュアル操作
玄人仕様の61式

先ほど、74式戦車のところでチラっと触れた「昔の戦車」こと61式戦車。

戦後初の国産戦車ですが、その変速機構は成熟とは程遠く、操縦手の技術に頼るところが多かったようです。

まず変速機構は完全に「マニュアル」となっており、全ての変速操作においてクラッチ操作を必要とします。
ギアの段数は前進5段・後進2段、更に各段にハイとローがあり、実質前進10段・後進4段という凄まじいギア数。

そして61式にはシンクロメッシュ(回転数同調機構)の類は全く付いておらず、ノンシンクロ100%機械式。

これが意味するところは「変速時の回転数は操縦手が全て手動操作で合わせる」ということです。
V型12気筒29600ccの500馬力超のエンジンを、アクセルワークで回転数を調節して細かくギアを変速しながら走行する。まさに職人業の世界です。

この点、信頼性が云々などと言いますが、結局のところ
「当時の日本の技術はそこが限界だった」
という話に尽きると思います。

ちなみに先の74式について話してくれた隊員さんは
「74に最初に乗った若いのは「これ難しい!」って口揃えて言うけど、61式に最初に乗せられた俺等からすれば、こんな楽なもんはないですよ!」
と苦労話を教えてくれました( ̄▽ ̄;)
今や61式で教育を受けた機甲隊員は30代後半~40代がメインなので、一種のジェネレーションギャップを感じるそうです。

※参考文献

  • 陸上自衛隊機甲科全史(著:菊池征男)
  • 戦車の戦う技術(著:木本寛明)
  • 防衛技術ジャーナル2012年3月号 10式戦車特集

※スペシャルサンクス

  • 駒門駐屯地の機甲科隊員さん