同じ”トン”でも大違い。軍艦と民間船の”トン”の違い。
大きなものでは100mや200mを超える船。
そのサイズを表すのには”トン”が一般的に使用されます。
例えば世界最大の軍艦、アメリカ海軍のニミッツ級空母は横須賀に停泊しているロナルド・レーガンでは満載排水量約10万トン、といった具合です。
しかし、この○万トンという表記の方法、同じトンでも民間船と軍艦だと全く違う意味となります。
民間船のトンは容積
まず民間船の”トン”の方から解説していくと、この”トン”、実は1000kgを表すトンとはそもそも違う単位です。
民間船の船の大きさを示すトン数は”総トン数”と呼ばれますが、この総トン数とは船の重さではなく”容積”を表したもので、1トンはおよそ2.83立方メートルと定められています。
英語でこれを”Gross tonnage”ということから、判別が付きやすいようにGTやG/Tなどという書き方もします。
また重量のトンを表す時は”t”を使いますが、船のトンは大文字の”T”を必ず使うことになっています。
なので総トン数1万トンの船、と言われた場合には重さが1万トンではなく、28,300立方メートルの容積を持つ船、ということなのです。
ただし貨物船などでは容積よりも運ぶ重量の方が性能を示す上で重要な指標であるとして、載貨重量トン数という「積み込める荷物の重さ」で船のサイズを示す場合もあります。繰り返しになりますが、この場合のトンは「重さ」を表すトンです。
(こちらはDWTという表記をすることがあります)
軍艦のトンは重さ
対して軍艦の大きさを表すトンは”排水量”を指しています。
何を排水しているのか?と思うかもしれませんが、ここで昔の理科の授業で習ったであろう「アルキメデスの原理」を思い出してください。
「水の中にある物体は、その物体が押しのけた水の重さと同じだけの浮力を受ける」
排水量の”排水”とはこのアルキメデスの原理で「押しのけた水」に該当します。
つまり船を浮かべた際に押しのける水の量=船自体の重さで、これを「排水量」として表現しているわけです。
でも同じ軍艦でも出港直後と帰ってくる時じゃ重さ違うよね?と思われるかもしれません。
その為、
満載排水量:燃料・弾薬などを全て積み込んだ状態の排水量
基準排水量:燃料と水を抜いた状態の排水量(国などによって定義に違いあり)
といったように、どういった状態で重さを測るかという基準が定められています。
上の写真は、護衛艦「いずも」と大型LNGタンカー「CYGNUS PASSAGE」のすれ違い。
「いずも」は基準排水量で19500トン、「CYGNUS PASSAGE」は総トン数で約12万トンです。
何故、軍艦は重さ?
では、なぜ軍艦は重さを船の大きさを示す基準とするようになったのか。
簡単に説明してしまうと、昔は重い軍艦=戦闘力の高い軍艦であったから、ということになります。
海戦の主役が巨大な艦砲であった時代、より口径の大きな主砲はそれ自体が大きく重いものですし、巨大な砲の発射に耐えうる船体も当然頑丈に作らねばなりません。
また艦砲で撃ち合う時代の軍艦は、相手の砲弾を受けることも想定して強固な装甲が施されていました。当然、装甲も金属ですので装甲を増やせば船は重くなります。
つまり攻撃力と防御力に優れた船=重い(排水量が大きい)ということで、海軍軍縮条約などで各国の海軍力を排水量で取り決めていたわけです。
もっとも現代ではミサイル・航空機などの発達により、排水量が必ずしも戦闘能力を測る指標とは言えなくなっています。
ただミサイルを沢山積めば、そのランチャーなども含めて重量は増しますし、相手を早く見つけるための高性能なレーダーも大きく重く、更にそれを稼働される為には高出力の発電機や主機も必要になります。当然、高出力のエンジンも”重い”です。
なので現代においても排水量=軍艦の戦闘能力というのは、ある程度理にかなっているのかもしれません。
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