駆逐艦?フリゲート?コルベット?なんとも複雑な軍艦・護衛艦の呼び方

駆逐艦?フリゲート?コルベット?なんとも複雑な軍艦・護衛艦の呼び方

大海原を波をかき分け突き進む軍艦。その姿は何とも言えない魅力を持ちます。

さて軍艦はそのサイズによって巡洋艦・駆逐艦などの様々な艦種で区分されますが、この「艦種」というもの。

なかなかにややこしく一筋縄ではいきません。

今回は、軍艦の艦種のややこしさについて解説していきます。


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昔は定義が存在したが

現代艦の話を始める前に少し歴史を紐解いてみると、一昔前は軍艦の艦種について、一定の定義・決まり事が存在しました。

ワシントン海軍軍縮条約やロンドン海軍軍縮会議などで決められた内容で、例えば

重巡洋艦
→排水量1万トン以下、砲は6.1インチより大きく8インチ以下

軽巡洋艦
→排水量1万トン以下、砲は5.1インチより大きく6.1インチ以下

駆逐艦
→排水量600トン以上1850トン以下、砲は5.1インチ以下

などといった具合です。

もっともその後、加盟国の脱退や「抜け道探し」であやふやになっていくのですが。

では現代の艦に話を戻しましょう。

2隻並んだアメリカ海軍の軍艦。

手前の85番の艦はアーレイバーク級「マッキャンベル」。
排水量9648トン、5インチ62口径(127mm)の砲を備えており、米海軍では「ミサイル駆逐艦(DDG)」に分類されます。

そして奥の54番の艦、こちらはタイコンデロガ級「アンティータム」
主砲は先のマッキャンベルと同じ5インチ62口径を艦首・艦尾に装備しており、その排水量は9460トン。

しかしタイコンデロガ級の分類は「ミサイル巡洋艦(CAG)」

先ほど書いた通り、過去の分類では巡洋艦は駆逐艦よりも大型で大火力を有する艦でしたが、アーレイバーク級とタイコンデロガ級はむしろアーレイバーク級の方が排水量が大きいのに「駆逐艦」というややこしい分類になっています。

またタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦は「スプルーアンス級ミサイル駆逐艦」をベースとしたイージスシステム搭載艦として設計されています。

駆逐艦をベースとして設計したのに出来上がった艦は巡洋艦で、その巡洋艦より排水量の大きい駆逐艦も存在する。

もう何がなんだか分かりません。

フリゲート?コルベット?

さらにややこしい艦種として「フリゲート」と「コルベット」があります。

どちらも一般的には駆逐艦よりも一回り小ぶりな艦で、駆逐艦>フリゲート>コルベット、また母港からどれくらいの距離を作戦行動範囲とするかによってより遠くに行けるものから駆逐艦>フリゲート>コルベットと言われてはいますが、ではどこまでがフリゲートでどこからがコルベットなのかというのが非常にややこしい、というよりむしろ共通の定義が存在しません。

例えばこちらの艦はカナダ海軍ハリフォックス級フリゲートFFH-341「オタワ」

主砲は57mm、ミサイルはシースパロー用の16セルVLSと装備こそ少なめですが、ヘリコプター1機を搭載・運用する能力も持ち、基準排水量は約4800トン。

排水量で比較すると海上自衛隊の「あさぎり型」よりも大きいのです。

フリゲートはヘリの搭載能力あり、コルベットはヘリを搭載できない、または甲板だけ、という考え方もありますが、こちらの艦はインド海軍カモルタ級コルベット「キルタン」

排水量は満載でも3500トンほどと、確かに小さめの艦ではありますがヘリコプター格納庫を持ち、ヘリ1機の搭載に対応しています。

ヘリコプターを搭載出来る満載3500トンクラスの艦、というとこのフォーミダブル級も近いものがありますが、こちらは「フリゲート」です。

 

では巡洋艦、駆逐艦、フリゲート、コルベット、これらの定義って何なんだ?というと

「運用している海軍が何と呼んでるか」

実のところ、これに尽きます。

駆逐艦より大きなフリゲートでも、その国でフリゲートと呼ばれてればフリゲート。
極端な話、駆逐艦より大きなコルベットがあったとしても、その国がコルベットと定義しているならコルベットなのです。

海上自衛隊の艦は?

海上自衛隊では基本的に「護衛艦」と一括りに呼ばれていますが、海上自衛隊で定める公式の英訳として

  • DD(あさひ型など)・・・Destroyer(駆逐艦)
  • DE(あぶくま型)・・・Destroyer Escort(護衛駆逐艦)

(DDG・DDHなどは正式な英訳無し)

と定義されています。ちなみに護衛駆逐艦は駆逐艦よりも一回り小さな駆逐艦といったところです。
諸外国と比較するとDEのあぶくま型も「フリゲート」に分類されてもおかしくない艦ではあります。

また海上自衛隊の次世代を担う艦として建造が進むFFMはFrigate Multipurpose/Mineとされています。

Mine=機雷で掃海艦艇にはこの単語が使われますので『掃海能力を兼ねた多目的フリゲート』といったところでしょうか。

ちなみに海上自衛隊でフリゲートに分類される艦が正式に配備されるのはPF・くす型護衛艦(元アメリカ海軍タコマ級フリゲート)の最後の1隻である「かや(元サンペドロ)」が護衛艦籍を除籍された1972年以来、およそ半世紀ぶり。
半世紀の時を経て海上自衛隊に復活する「フリゲート」、30FFMは大きな転換点となる艦と言えるでしょう。

※参考資料

  • 世界の艦船各号
  • 海上自衛隊全艦艇史(海人社)
  • アメリカ海軍2020(海人社)