純粋な『戦闘機(要撃機)』は今や無い?軍用機のカテゴライズのややこしさ

純粋な『戦闘機(要撃機)』は今や無い?軍用機のカテゴライズのややこしさ

様々な任務に従事する多種多様の軍用機。

敵航空機を撃ち落とすもの、空から地上の敵を攻撃し友軍を支援するもの、中には対艦ミサイルを積んで敵船に攻撃を仕掛けるもの

これらの任務に応じて「戦闘機」「攻撃機」などという呼び名がありますが、昨今ではこの分類もなかなか困難になっています。

今回は、現代の軍用機の「分類」が如何にややこしいか、例を挙げながら解説していきます。


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航空自衛隊の
『戦闘機』は

現代の戦闘機で分類を分けるのが如何に複雑か、航空自衛隊の戦闘機を例に見てみましょう。

航空自衛隊が運用するF-15Jは空対空戦闘・要撃に『ほぼ』特化した機体で、機体そのものに対地攻撃用のレーダーや火器管制装置は搭載されていません。
しかし実はMk82無誘導爆弾を主翼のハードポイントに左右各3発、計6発搭載することが可能であり、目視誘導による攻撃に限定されるものの対地攻撃も可能な機体となります。

対してF-2はその開発当初から対艦ミサイルの搭載が求められており、当初は『支援戦闘機』として扱われていましたが、AIM-9(サイドワインダー)のみならずセミアクティブレーダーホーミングのAIM-7(スパロー)や、一部改修済の機体においてはAAM-4(99式空対空誘導弾)を装備可能など、空対空戦闘能力も高い水準で備えています。

引退の近いF-4EJ、通称ファントムは、なかなか複雑な経緯を辿っています。

元々F-4は対地攻撃任務にも対応可能な機体でしたが、航空自衛隊が導入するにあたり政治的な配慮から対地攻撃機能は意図的に除外されました。
これによりF-4EJは純粋な『要撃戦闘機』として長年活躍していたのですが、F-4EJ改への近代化改修にあたり、対地攻撃能力が『復活』、更に当時F-2の配備が遅れにより対艦ミサイルを運用可能な機体が足りなくなると見込まれていたことから空対艦ミサイルも装備可能な改修が施されました。

  • F-15
    →空対空戦闘が主だが対地用の爆弾も積める
  • F-2
    →対艦ミサイル含めて多種多様な兵装を運用可能
  • F-4EJ改
    →元々対空戦闘専門だったが、改修で対艦・対地攻撃能力獲得

そして、より複雑なのが航空自衛隊でも配備の進むF-35です。

統合打撃戦闘機・JSF
F-35

F-35は戦闘機を示す任務記号『F』が付いていますが、その計画は

F-16、F/A-18、AV-8、A-10の後継機を一まとめにする

というもので、開発当初から『統合打撃戦闘機』、ありとあらゆる任務を遂行できる仕様になっています。

(対地攻撃専門機として名高いA-10。但し自衛用で空対空ミサイルの搭載にも対応している)

搭載可能な兵装もAIM-120などの対空ミサイルはもちろん、誘導爆弾、空対地ミサイル、空対艦ミサイル、さらには将来的に戦術核兵器の搭載にも対応するとされており、まさに「マルチロール機」です。

過去には存在した
対空戦闘専門機

過去には、敵戦闘機を撃ち落とす、あるいは敵の爆撃機を撃ち落とすといった『空対空戦闘』に特化した機体も存在しました。

例えば航空自衛隊でも配備したF-86D『セイバードッグ』

この機体に積まれている武装は24連の空対空ロケットのみであり、対地攻撃用の爆弾やミサイルはおろか、機銃掃射するための機関砲すら積まれていません。レーダーを用いて敵航空機に接近し、近接信管付きのロケットで攻撃することだけに特化した対空戦闘専用の機体です。

他には敵爆撃機に対して核兵器を使って攻撃するF-106デルタダートがあったりと、戦闘機の発展史においては対空戦闘特化の機体が数多く生まれてきましたが、第3・第4世代へと進化していく中で戦闘機はマルチロールが標準的なものへと変わっていきました。

戦闘機と攻撃機の区分は

結論から言ってしまうと
「運用している軍・国家がなんと呼んでいるか」
これに尽きます。

機体そのものが対地攻撃能力を有していても、それを使わない運用をしているのであれば「戦闘機(要撃機)」ですし、対地攻撃がメインで対空攻撃はあくまで自衛用というのであれば「攻撃機」と言えます。

それくらい現代の機体を統一の基準でカテゴライズするというのは難しいのです。