自衛隊の無人機は演習場以外は自由に飛べない?自衛隊法における無人機事情。

自衛隊の無人機は演習場以外は自由に飛べない?自衛隊法における無人機事情。

先日、壱岐で実証実験が行われた無人機・ガーディアン。

チェイス機が随伴したり一部機能の制限があったりしたものの、国内での本格的な無人機運用に向けた第一歩となったかと思います。

さて、我が国の自衛隊においてもグローバルホーク偵察機の取得などが進んでいますが、現行法制において自衛隊の無人機はどのように扱われるのか?

解説していきます。

(なお米軍の無人機については米軍機として米軍規則に基づき運用されるため、日本の航空法等の制限を受けません)


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航空法の適用

自衛隊が使用する無人航空機について、自衛隊法第百七条において

航空法中第十一条、第二十八条第一項及び第二項、第三十四条第二項、第三十八条第一項、第五十七条から第五十九条まで、第六十五条、第六十六条、第八十六条、第八十九条、第九十条、第百三十二条、第百三十二条の二並びに第百三十四条第一項及び第二項の規定は、自衛隊の使用する航空機及びその航空機に乗り組んで運航に従事する者並びに自衛隊が設置する飛行場及び航空保安施設については、適用しない。

と航空法の適用除外が定められています。

航空法の百三十二条は、無人航空機の飛行禁止空域や飛行方法について定めたものです。

よって自衛隊が所有する無人航空機は基本的に、航空法・国土交通省の管轄外となります。

航空法はOKだが・・・
防衛省の訓令での扱い

では航空法の適用を受けないのであれば、好き勝手に飛ばしていいのかというと、そういう訳にもいかず。

自衛隊法第百七条の五項には以下のような内容が書かれています。

防衛大臣は、第一項及び前項の規定にかかわらず、自衛隊が使用する航空機の安全性及び運航に関する基準、その航空機に乗り組んで運航に従事する者の技能に関する基準並びに自衛隊が設置する飛行場及び航空保安施設の設置及び管理に関する基準を定め、その他航空機に因る災害を防止し、公共の安全を確保するため必要な措置を講じなければならない。

これは無人機に限らずですが、航空法の適用は免除する代わりに、防衛大臣の責任下においてその代わりとなるルールを運用しなさいということです。

例えば自衛隊機の操縦に国交省管轄のライセンスは必要ありませんが、代わりに自衛隊内部での教育課程を終えてウィングマークを取得した人間でなければ、操縦士としての任務にあたることは許されません。

当然、無人航空機についても航空法の適用を受けない代わりに、防衛大臣の責任においてその細則が定められて「訓令」という形で全部隊に指示されています。

訓令における無人航空機

現在、防衛省・自衛隊においては平成27年12月の「無人航空機の飛行に関する訓令」が最新版の訓令となっています。

その内容を一部抜粋してみましょう。

まず飛行出来るエリアについてですが、飛行禁止空域が以下のように定められています。

無 人 航 空 機 の 飛 行 を 、次 に 掲 げ る 空 域 ( 自 衛 隊 の 施 設 内 等 を 除 く 。 ) に お い て 行 わ せ て は な ら な い 。

(1) 無 人 航 空 機 の 飛 行 に よ り 航 空 機 の 航 行 の 安 全 に 影 響 を
及 ぼ す お そ れ が あ る も の と し て 航 空 法 施 行 規 則 ( 昭 和 2
7 年 運 輸 省 令 第 5 6 号 ) 第 2 3 6 条 で 定 め る 空 域
(2) 前 号 に 掲 げ る 空 域 以 外 の 空 域 で あ っ て 、 航 空 法 施 行 規
則 第 2 3 6 条 の 2 で 定 め る 人 又 は 家 屋 の 密 集 し て い る 地
域 の 上 空

まず、最初に太字で強調している「自衛隊の施設内等」については、自衛隊の施設内または海上(自衛隊所属の船舶以外の、船・人がいない時)とされています。
つまり、駐屯地・演習場など自衛隊の管理下にある場所、あるいは演習海域などが該当します。

続けて書かれている内容に登場する航空法施行規則第236条は、航空法における無人航空機の扱いについて、その詳細を記したものです。

防衛省・自衛隊の訓令で「航空法施行規則第236条で定める空域」が飛行禁止ということは事実上

演習場・訓練エリアなどは飛行可能。
ただし、その他は航空法と全く同じ飛行制限区域が適用される

ということです。

また、飛行の方法については

無 人 航 空 機 を 使 用 す る 者 は 、自衛 隊 の 施 設 内 等 以 外 に お い て 無 人 航 空 機 の 飛 行 を 行 わ せ る 場 合 に は 、 次 に 掲 げ る 方 法 に よ り こ れ を 行 わ せ な け れ ば な ら な い 。

(1) 日 出 か ら 日 没 ま で の 間 に お い て 飛 行 さ せ る こ と 。
(2) 当 該 無 人 航 空 機 及 び そ の 周 囲 の 状 況 を 目 視 そ の 他 の 手
段 に よ り 常 時 監 視 し て 飛 行 さ せ る こ と 。
(3) 当 該 無 人 航 空 機 と 地 上 又 は 水 上 の 人 又 は 物 件 と の 間 に
航 空 法 施 行 規 則 第 2 3 6 条 の 4 で 定 め る 距 離 を 保 っ て 飛
行 さ せ る こ と 。
(4) 祭 礼 、 縁 日 、 展 示 会 そ の 他 の 多 数 の 者 の 集 合 す る 催 し
が 行 わ れ て い る 場 所 の 上 空 以 外 の 空 域 に お い て 飛 行 さ せ
る こ と 。
(5) 当 該 無 人 航 空 機 に よ り 爆 発 性 又 は 易 燃 性 を 有 す る 物 件
そ の 他 人 に 危 害 を 与 え 、 又 は 他 の 物 件 を 損 傷 す る お そ れ
が あ る 物 件 で 航 空 法 施 行 規 則 第 2 3 6 条 の 5 で 定 め る も
の を 輸 送 し な い こ と 。
(6) 地 上 又 は 水 上 の 人 又 は 物 件 に 危 害 を 与 え 、 又 は 損 傷 を
及 ぼ す お そ れ が な い 場 合 を 除 き 、 当 該 無 人 航 空 機 か ら 物
件 を 投 下 し な い こ と 。

実はこれ、自衛隊法で適用を除外されている航空法第132条の2(飛行の方法)に書いてある内容と

全く一緒

です
(一部表記の違いはありますが、意味するところは同じ)

自衛隊法で適用が除外されているけど、訓令に全く同じ内容が書いてあるということは、即ち自衛隊機の無人航空機運用は航空法に準ずるということになります。
ただし、こちらも自衛隊の施設内等は適用外です。

まとめ

長くなってしまいましたので簡潔にまとめますと

  • 自衛隊の無人航空機は航空法適用外とされている
  • しかし航空法とほぼ同じ内容が、防衛大臣管轄の訓令で定められている
  • 航空法との唯一の違いは自衛隊管轄の演習場や海上訓練空域などが除外されるというとこと
  • よって自衛隊の無人航空機は演習場や訓練空域でのみ自由に飛ばせる

無人機の運用については、そもそも航空法でも課題が山積みというところですので、防衛省だけではなく航空行政全般でより議論を深めていくしか無いと思われます。

但し、これらは平時の話に限られます。

訓令では自衛隊法の第六章における行動時、即ち防衛出動・治安出動などで自衛隊が任務に当たる際には、先の飛行禁止空域や飛行方法のルールを適用しない旨を明記しています(災害派遣も含まれる)

よって、総理大臣や防衛大臣などから正式に任務を与えられている状況下においては、無人航空機に関する制限は大幅に緩和されます。

もっとも、その特例が適用されることが無いのが、一番幸せなのは言うまでもないでしょう。

※参考資料

  • 無人航空機の飛行に関する訓令
  • 自衛隊法
  • 航空法
  • 航空法施行規則