戦車でも装甲車でもない「89式装甲戦闘車」
「戦車」と聞くと、どのようなイメージを持たれるでしょうか。
強力な火砲、重装甲、キャタピラetc…
このようなイメージが大きいかと思います。
対して、装甲車というと
タイヤ(装輪式)車両のイメージがほとんどでしょう。
しかし、軍用車両には、この中間にあたる車両が存在します。
それが「歩兵戦闘車」、自衛隊では「装甲戦闘車」と言われる車両です。
と、いっても自衛隊には2017年現在1種類しか存在せず
この89式装甲戦闘車が唯一です。
「装甲車」と「装甲戦闘車」は何が違うのか、解説していきます。
「装甲車」の役割
一般に「装甲車」と呼ばれるものは、正確には「装甲兵員輸送車」という位置づけになります。
(自衛隊だとさらに細かく、装甲車はキャタピラ式で、タイヤ式は「装輪装甲車」と)
装甲兵員「輸送車」の名前が示すとおり、このタイプの車両に求められるのは人員の「輸送」です。
96式装輪装甲車を例に取ると、12名の人員を同時に輸送可能ですが車両に搭載されている火器は40mm自動てき弾銃(グレネードランチャー)または12.7mmのM2重機関銃のどちらかが一丁のみ。
積極的に攻撃に用いるというよりは「自衛用火器」としての位置づけになっています。
また装輪車両の場合、戦車を主力とする機甲戦力と一緒に行動する上で大きな支障が生じます。
タイヤは舗装道路を走るのには非常に適した足回りですが、走破できる地形はキャタピラのそれと比べて非常に限定的と言わざるを得ないのです。
「装甲戦闘車」の役割
これに対して装甲戦闘車は「戦闘」の名前が付いている通り、輸送を主とする装甲兵員輸送車とは異なり、機甲部隊の車両として積極的に戦闘行動へ参加することを前提としています。
但し一度に運べる人員は96式装輪装甲車に比べて、かなり少ない7名。
当然、戦車と一緒に行動できなければならないので足回りにはキャタピラを装備。
また搭載している火砲は89式装甲戦闘車の場合、90口径35mm機関砲(エリコンKD35mm機関砲)と、装甲兵員輸送車の搭載火器と比較しても桁違いに強力なものになります。
ちなみに、35mm機関砲というと海上保安庁の大型巡視船などに搭載されているのと同じものです。
また79式対舟艇対戦車誘導弾を砲塔の左右に装備しており、35mm機関砲でも十分な打撃を与えられない目標に対しては、誘導弾による攻撃を行う事も可能です。
では、何故このような車両が必要になるかというと
「機甲部隊の要である戦車は、歩兵の随伴無しでは行動できない」
→随伴する歩兵を運ぶ車両が必要
というのが大きな理由です。
戦車は圧倒的な火力・防御力を誇りますが、視界や即応性が悪く、奇襲攻撃に対しての警戒が行いにくいという欠点があります。
そのため、戦車は基本的に歩兵とセットで運用するというのが現代の機甲戦ではスタンダードとなっています。
しかし戦闘時には歩兵が必要になりますが、安全が確保されているエリアでは歩兵が展開する必要はありません。なので進軍速度を上げるために歩兵も車両に載って移動することになります。
この時に、戦車と一緒に動ける「歩兵を載せて移動出来る車両」が必要なのですが、先ほど書いたとおり装輪式車両では地形の制約を強く受けてしまいます。
また機甲戦力に対しては敵部隊も相応の火力をぶつけてくると考えられるので、自衛用の火器だけでは、対処能力に不安があります。
そこで「戦車に追従できる走行性能」+「展開する歩兵に対し強力な火力支援が可能な搭載火器」という考えの下に存在するのが「装甲戦闘車」という車両なのです。
と、非常に価値のある車両なのですが、1つ難点がありまして・・・
お値段が高いのです・・・
96式装輪装甲車の調達価格は1億円ほどと言われているのに対し、89式のお値段は推定7億円ほど。5倍以上高い値段です。
ただでさえ予算の厳しいと言われる陸上自衛隊。
このような高価な車両を次々と購入すると言うことも叶わず、結局は北部方面隊第7師団にのみ実用部隊用としては配備されただけで調達は終了となりました。
将来装輪戦闘車両計画で、後継車が作られると言う話もありましたが、最近はあまり進展の噂も聞きません。
ただ戦車とも装甲車とも違う、独特のフォルムは一見の価値ありです。
なお本州では富士の滝ヶ原駐屯地で、その姿を見ることが出来ます。
毎年4月にはイベントも開催されていますので、気になる方は出掛けてみては。
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