仕事を終えた「除籍艦」
横須賀・呉などの軍港クルーズに乗っていると、本来艦の側面に書いてあるはずの艦番号が無く、ひっそりとたたずんでいる艦を見かけます。
軍港めぐりのガイドさんも案内してくれますが、これらの艦は「除籍艦」または「用途廃止艦」といい、現役を退いた艦です。
ちなみに「除籍」と「用途廃止」の違いなのですが
除籍→海上自衛隊の艦船としての籍を廃止すること
用途廃止→国有財産として行政財産から普通財産へ変更すること
護衛艦は「国有財産」で、海上自衛隊の任務に用いる「行政財産」という扱いになります。
これを「もう自衛隊の仕事には使いません」という手続きをするのが「用途廃止」です。
ただ海上自衛隊の船舶においては除籍された日に用途廃止の手続きを行うこととなっていますので、法的な意味合いが違うだけで「引退」という中身は一緒です。
ここでは一般的によく使われる「除籍」を用います。
除籍艦
写真は平成28年の春頃に、横須賀の軍港めぐりから撮影したものです。
少し沖合いに出されて、ブイで繋留されていました。
艦に付いている旗なども全て取り外され、人の気配もまったくありません。
この艦、元の艦名は何だったのか。
砲などが付いていないので、補助艦艇の類であることは一目瞭然ですが、特に同型艦がある場合には形だけでの識別は難しいです。
調べるポイントは船首付近にあります。
非常にうっすらとではありますが、艦番号5103の塗装が残っています。
除籍の際に艦番号が抹消されるので、除籍艦からは番号も消されるのですが、完全には消えずに一部、または全部が残っていることが多いです。
全部読み取れる場合には、これを検索すれば元の艦名を割り出すことが出来ます。
ちなみに、こちらの艦は海洋観測艦「すま」でした。
1982年に竣工して、2015年まで現役だった艦です。
30年以上のお勤めを終えて、ひっそりと最後の時を待っている姿は、なんとも心に来るものがあります。
こちらは2015年2月頃に撮影。
「12…」までは読み取れますが、下一桁は掠れてて読み取れません。
この場合、読み取れた部分に該当する艦で、装備の特徴などから、ある程度絞り込むことが出来ます。
120番台の艦番号が与えられた艦は「やまぐも型」と「はつゆき型」ですが、艦首部分にアスロックランチャーが付いていますので「はつゆき型」だと特定可能です。
しかし「はつゆき型」も同型艦が沢山ありますので、個別の艦を特定しようと思うと、もう一押し必要になります。
ここで役に立つのが「除籍日」と「最終定係港」です。
除籍された日が、ここ1~2年の艦、さらには撮影地が最終定係港になっている艦と絞り込んでいくと、大体1隻に絞り込むことが出来ます。
(除籍された時点で「艦」として動くことは出来ないので、ほとんど最終定係港に、そのまま置かれることになります)
この方法で調べたところ、この艦は元・DD-125「さわゆき」だと分かりました。
1984年から2013年まで就役していた艦です。
横須賀or呉で、かつ見れる機会は限られますが、潜水艦の除籍艦が港で繋留されている事もあります。
潜水艦は、そもそも艦名を出さないので、こちらは特定する事はなかなか困難です。
除籍艦の、その後
除籍された艦は、次のどちらかの道に進むことになります
・解体
・標的艦
解体は文字通り、そのまま船体をバラしてしまうことです。
ほとんどの艦は、解体されて、資源として再利用されます。
もう1つは標的艦(正確には「艦標的」)
実物大の「射撃目標」として、水中に沈んだ場合に害のある物質などを全て取り払う改修工事を行った後、自衛隊の訓練・試験のために使用されます。
最近では元DDH-143「しらね」が標的艦として、新型空対艦ミサイルXASM-3の試射試験に使われる予定です。
標的艦は長年使ってきた艦を「破壊」する訳ですが、実際の艦に対して射撃を行うことで初めて得られるデータやノウハウというのは計り知れません。
軍艦にとって標的艦となることは、自らの身で今後の国防に必要なデータを提供する、最後の「仕事」なのです。
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