スクランブル発進は【警察権】

スクランブル発進は【警察権】

日本領空に接近する機体に対して行われる「スクランブル発進」。
正確には「対領空侵犯措置」と言います。

千歳・三沢・百里・小松・築城・新田原・那覇

これらの航空基地には24時間365日、常に5分で戦闘機2機が、次いで30分で更に2機が出撃出来る体制が整えられています。

ところで、この対領空侵犯措置、自衛隊の活動ですが「警察権」に属するというのは御存知でしょうか?

昨今、南西方面が騒がしいご時勢、この辺を簡単に説明してみたいと思います。


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陸は入管、海は海保、空は?

日本は島国で陸続きではないので、陸路での不法侵入というのはありえませんが、例えば空港などで密入国者が発生すれば、その対処に当たるのは
「入国管理局・入国警備官」
いわゆる「入管」です。

入国警備官が不法入国者に対する摘発行動などを行う際は「特別司法警察職員」として扱われるので、その行動は「日本の警察機能」の役割を担います。

今度は、日本の周りを囲む海。
仮に不審船などが現れた場合、それに対処するのは
「海上保安庁」
海上保安庁は、いわば「海の警察」ですので、此方も「日本の警察」としての役割で対応を行っています。

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海の担当は海上保安庁

この通り、日本の領土・領海に踏み入った相手に対しては、基本的に日本という国の「警察」としての機能が対応するのが基本になります。

これは日本に限った話ではなく、アメリカでも陸は国境警備隊、海はコーストガード=沿岸警備隊で、軍隊が直接出てくるということはありません。

では空は?というと「航空自衛隊」なんですね。

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何故、空だけ自衛隊?

では何故、空だけが自衛隊の管轄になるかというと、単純に
「24時間365日、日本全国の空を監視して、必要なら高性能な戦闘機をいつでも飛ばせる組織」
が航空自衛隊しかないからです。

防衛白書から解説を引用すると

国際法上、国家はその領空に対して完全かつ排他的な主権を有している。
対領空侵犯措置は、公共の秩序を維持するための警察権の行使として行うものであり、陸上や海上とは異なり、この措置を実施できる能力を有するのは自衛隊のみであることから、自衛隊法第84条に基づき、第一義的に空自が対処する。
(防衛白書 平成26年度より)

日本に限らず戦闘機クラスの機体を扱える組織は必然的に「空軍」の管轄になるため、何処の国でも陸や海は国境警備隊やそれに順ずる組織が対応するが、領空侵犯措置のみは空軍が行っているというパターンがほとんどになります。

自衛隊の場合、先の引用にもある通り自衛隊法第84条にて
「領空侵犯に対する措置」
として、自衛隊の出動が防衛大臣の許可にて行える旨が記されています。

「警察権」の意味

「日本の警察」として出動している自衛隊機には、当然ながら防衛出動としての武器使用権限はありません。

海上警備行動や治安出動などにおいては、警察官の武器使用規定などを引用して細かに発砲可能な要件が規定されている為、警察や海上保安庁と同等の基準で武器を使ってよいというのがはっきりしているのですが

自衛隊法第84条には

防衛大臣は、外国の航空機が国際法規又は航空法(昭和二十七年法律第二百三十一号)その他の法令の規定に違反してわが国の領域の上空に侵入したときは、自衛隊の部隊に対し、これを着陸させ、又はわが国の領域の上空から退去させるため必要な措置を講じさせることができる。

としか明記されておらず、この「必要な措置」というのが非常に解釈の分かれるところになります。

自衛隊の歴史において、スクランブル機が実弾を撃ったのは一度のみです。
(他に海上警備行動での事例は存在します)
この時は領空侵犯機に対する信号警告射撃として、沖縄で機銃弾を発射しました 

「軍用機が領空を侵犯して警告に従わないのであれば、撃墜はやむなし」という意見もありますが、実際のところ「いつ撃っていいのか」は誰にも分かりません。
正当防衛や緊急避難に該当する場合には撃てるという見方もありますが、では相手が淡々と人口密集地に進んでいる場合は?など、疑問は付きません。

スクランブルに上がる戦闘機パイロットは常に複雑な判断を迫られているのです。