ミサイルの射程○○km、実は意外とアテにならない
各種のミサイルでよく見る「射程○○km」という数字。
大型のミサイルはより遠くへ、小型のミサイルは機動性が高い分あまり遠くには…
など色々な特性が現れますが、実はこのミサイルの「射程」。
実は条件が変われば、その数字も大きく変わるのです。
今回はミサイルの射程に及ぼす様々な影響を解説していきます。
ミサイルの射程距離は何で決まる
ミサイルには大きく分けて、固体燃料の燃焼で推力を得るもの、ターボジェットなどの小型エンジンで飛翔する物に分別されます。
前者の固体燃料式は主に対空ミサイル、後者の小型エンジン式は大型の対艦・対地ミサイルなどが主です。
固体燃料の場合、点火後は燃焼を止めることが出来ないので一度発射すると燃料が燃え尽きるまで燃焼を続けます。
なので、どれだけ遠くに飛ばせるかは固体燃料の量次第です。
小型エンジン式のミサイルは、エンジンを燃料で稼働させることで推力を得ますが、当然燃料が尽きればエンジンも動きません。
なので、こちらもどれだけ遠くまで飛ばせるかは燃料次第となります。
なのでミサイルの飛距離は「どれだけの時間、推力を維持できるか」により決まります。
もっともミサイルの目的は「目標まで誘導して、目標にダメージを与えること」なのであまり燃料ばかり積むわけにもいきません。
相手が止まっているか動いているか
ミサイルの射程距離に影響を与える要因の1つが「相手が止まっているか、動いているか」という点です。
特に「ミサイルの進行方向と、相手の進行方向が同じ」場合には大きな影響が出ます。
大型の長距離空対空ミサイル(AIM-120など)を例に取ると、飛翔速度はおよそ音速の3~4倍。
ここでは計算を分かりやすくするために、音速の4倍として秒速1300mと仮定しましょう。
このミサイルを100km先にいる目標に向けて発射すると、相手が動いていなければおよそ77秒後に到達します。
しかし、相手が動いている飛行機の場合は?
相手が音速の一歩手前、ここでは秒速300mとして自機から逃げるように動いている場合
「ミサイルの速度-目標の速度」
がお互いに近づく速さになるので、着弾までに必要な時間は先ほどの約77秒に対して、およそ100秒後。
仮にこの23秒の差の間に推力を失えばミサイルは敵に到達することが出来ません。
対して逆に相手がこちらへ向けて近づいている場合には、同条件で62秒後。
先ほども書いた通り、ミサイルが届くかどうかに重要なのは「距離」ではなく「時間」
つまり発射母機に対して、目標がどのように動いているかはミサイルが届くかどうかに大きな影響を与えるのです。
発射母機と目標の位置関係
宙を飛ぶ物体は速度=運動エネルギーと同時に高度=位置エネルギーを持ち、戦闘機はこの運動エネルギーと位置エネルギーを上手く変換しながらドッグファイトを繰り広げます。
この時、上昇するときに大きく燃料を消費するように、宙を飛ぶミサイルも当然重力に逆らうように「上昇」する時と、逆に低いところへ向かって「下降」する時では消費するエネルギー量は大きく変化します。
つまり同じ距離でも自機より高いところにある目標を撃つ時と、逆に見下ろすように低い目標を撃つ時では、同じ燃料でも届く距離は大きく変化するのです。
発射母機の状態
ミサイルは推力によって運動エネルギーを得ることで飛翔しますが、もう1つ運動エネルギーを「事前に」得る方法があります。
ミサイルを運搬している発射母機そのものに「速度」を稼いでもらうという方法です。
地上発射型のミサイルのように速度がゼロ、即ち固定された状態から発射された場合、ミサイルは飛翔速度に達するまで自らの燃料を消費して加速しなければいけませんが、飛行機に搭載されたミサイルの場合は音速に近い速度で発射母機に飛んでもらいながら発射してもらえば、最初から音速近い速度の運動エネルギーを有していることになります。
(その分のエネルギーは発射母機の燃料を消費する形となってはいますが)
当然、加速に有するエネルギーを必要としない分、同じ燃料でもより遠くに届くことが可能です。
過去には、この「発射母機にエネルギーを稼いでもらう」という理屈を突き詰めた『ASM-135』といミサイルが存在しました。
このミサイル、狙う相手は遥か彼方の空高く、宇宙空間に浮かぶ「人工衛星」。
宇宙空間までミサイルを到達させるために、F-15戦闘機を発射母機として高度1万メートル以上まで上昇、そこから速度を稼いで上昇姿勢で打ち出すことで軌道上に浮かぶ衛星まで到達可能という「対衛星兵器」でした。
これは非常に極端な例ですが、ミサイルが発射される時に発射母機がどのような状態にあるかというのは、それくらい大きな影響を与えるのです。
他にもミサイルの射程に影響を及ぼす要素はありますが、一口に同じミサイルでもどれくらい先まで届くかは大きく異なる、というのは御分かりいただけたでしょうか。ミサイルの射程というのは、「ある条件下における参考値」として考える方が無難なのです。
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