戦闘機が多用する着陸。オーバーヘッドアプローチ。
基地で着陸する戦闘機・軍用機を見ていると、滑走路上空まで進入して大きく旋回、そのまま基地の周りをグルッと一周するように着陸するのを目にする機会が多いかと思います。
オーバーヘッドアプローチ、または360(スリーシックスティー)と呼ばれるこの着陸方法。
民間機ではあまり見かけませんが、なぜ軍用機では多用するのか。
軍用機ならではの事情も交えて解説していきます。
(オーバーヘッドアプローチは小型機を中心に民間機でも実施することがあるのは前もって補足しておきます)
着陸するには「減速」が必要
飛行機が着陸するためには高度を下げると同時に、飛行速度を規定値までしっかりと減速する必要があります。
ファントムの場合、ファイナルアプローチ(滑走路に着陸する直前)の速度は150ktほど。
旅客機の場合、空港に向かう中で遠くから徐々に速度を落として着陸速度まで減速しますが、戦闘機でこれをやると低速で低空を長時間飛ぶこととなってしまいます。
実際の任務では攻撃に晒されるリスクのある戦闘機にとって、これは無防備な状態が長く続くことになるのです。
飛行機が速度を落とすにはエアブレーキを使う、あるいは上昇する(運動エネルギーを位置エネルギーに変換する)などの方法がありますが、機動性の高い戦闘機ではもう一つ「急旋回する」という選択肢があります。
航空祭などで急旋回機動を取る戦闘機はアフターバーナーを炊いていることが多いですが、あれは飛んでいる飛行機にとって「旋回」という機動が運動エネルギーを大幅に失うためエンジンの推力で支えているという状態なのです。
つまりエンジンの出力を上げずに旋回機動を取れば、長い時間・距離を用いなくても一気に速度を着陸に向けて落とすことが出来ます。
基地の上空まで速度を保ったまま飛んできて一気に速度を落とすことが出来るので、戦闘機にとっては安全な着陸法なのです。
編隊を保てる
オーバーヘッドアプローチが戦闘機に適しているもう一つの理由が「戦闘機は編隊で飛行する」という点です。
戦闘機は単機で行動することはまずありません。
最低でも2機、または4機でのエレメントとしての行動が基本であり、飛行中は編隊を組んで移動します。
当然、基地に帰って来る時も編隊飛行していますが、着陸する為には一定の間隔まで離れなくてはなりません。
一方、オーバーヘッドアプローチの場合、基地上空まで全機がフォーメーションを組んだまま進入。
そこで1機ずつタイミングをずらしてブレイクすることで、ダウンウィンドレグ(滑走路と並行のでは着陸に適した間隔の直線隊形に並ぶことが出来ます。
なおパイロットの方曰く、ダウンウィンドレグで綺麗に間隔を開けて並ぶにはタイミングを間違えなければいいというほど簡単ではなく、旋回率や速度を絶妙にコントロールする必要があるとのこと。
当然、機数が増えれば増えるほど難しいらしく、大編隊でのオーバーヘッドアプローチは熟練の腕の成せる技だそうです。
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