複座戦闘機の後席には誰が乗ってる?複座機の役割分担

複座戦闘機の後席には誰が乗ってる?複座機の役割分担

戦闘機、または戦闘機をベースとした偵察機などには複座機と呼ばれる搭乗員が2名乗り込むタイプの機体があります。

戦闘機はパイロット1名でも操縦が可能になっていますが、ではもう1人の搭乗員は何の為に乗り込んでいるのか?

複座機の「2人目の搭乗員」について紹介していきます。


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飛行教官が乗っている

複座機の用途として最もポピュラーなのは、自動車教習所で助手席に指導員が座るように、訓練生が教官と一緒に乗り込む場合。

T-7初等練習機やT-4も含めて、前席に訓練生、後席に飛行教官が乗り込むというのが基本的な配置です。

F-2なら第21飛行隊のF-2B、F-15ならF第23飛行隊に配備されているF-15DJも同様に、戦闘機操縦課程でパイロットとしての訓練を重ねる訓練生と教官が乗り込みます。
また、戦闘機パイロットは訓練課程を修了して部隊配備されてからも飛行隊の戦力としてのスキルを習得する訓練が続くので、そういった教育・訓練にも各飛行隊に配備された複座型が活躍することになります。

なお後席のコクピットにも操縦に必要な装備は一通り備わっていますが、F-2Bを例に取るとヘッドアップディスプレー(HUD)や無線操作パネルが後席では省かれており、一部が簡略化された構成になっています。

またブルーインパルスも2名が搭乗していることがありますが、これは片方が先輩パイロット、もう片方が後輩のパイロットという関係です。

ブルーのパイロットは3年間の在籍期間で

  • 先輩パイロットから教わる訓練期間(TR)
  • 自らが展示飛行要員として活躍する期間(OR)
  • 次の担当パイロットを指導・育成する期間

という流れで任務にあたるので、先輩から教わる、後輩を指導するというのも重要な仕事なのです。

複座戦闘機
ファントム

F-4ファントムの場合、単座機が存在しません。

元々、後席の操縦士は前席だけでは対応しきれないレーダーや火器管制などの操作を担当するのが仕事でしたが、航空自衛隊のファントムはF-4EJ改として改修を受けた際に前席だけでもそれらの操作が可能となっています。
(なお米海軍のファントムでは、後席はレーダー迎撃士官が搭乗。操縦は行わない)

自衛隊のファントムは基本的には前席が主操縦士として先輩パイロット、後席が後輩パイロットの関係です。

F-4EJ改のパイロットとして部隊に配属されると

  • 後席TR(後席要員の訓練生)
  • 後席OR(後席で任務に参加可能)
  • 前席TR(前席要員の訓練生)
  • 前席OR(前席で任務に参加可能)
  • 前席CR(前席であらゆる任務に参加可能)

TRはトレーニングレディ、ORはオペレーションレディ、CRはコンバットレディ

という段階でステップアップしていくことになります。

なお複座戦闘機には前後での独特のコミュニケーションは話し方の「間」があるそうで、ファントムライダーとしてこれを習得するのも大事な仕事とのこと。

なお空中戦の訓練では前席が目の前の敵を追いかけ、後席が後ろを警戒するという役割分担が可能など「眼と頭が2組ある」のが複座であるファントム最大の利点であるとファントムライダーは口を揃えます。

偵察・電子戦
各々のプロ

ここまでは前後どちらもパイロットが搭乗しているという機体を紹介してきましたが、前席は操縦で後席は別の役割を担うという機体もあります。

まずは偵察飛行の専門家が乗り込むパターン。

間もなく退役の近い偵察航空隊のRF-4では、後席にはナビゲーター・偵察航法幹部と呼ばれる偵察に特化した乗員が乗り込みます。

偵察機は定められた撮影ポイントに寸分の狂い無く到達する、極めて精度の高いフライトが要求されます。その為、飛行ルートの策定及びパイロットの誘導役として後席のナビゲーターが非常に重要な役割を果たすのです。

更に偵察用の撮影機材を操作する役割もナビゲーターが担います。

パイロットは操縦に専念、後席はパイロットを誘導して目標の撮影に専念して、偵察目標を確実に捉える。

「見敵必撮」は、前後の協力で成り立っているのです。

アメリカ海軍のEA-18Gグラウラー電子戦機では後席は電子戦士官という、電子戦のプロフェッショナルが搭乗します。

グラウラーではパイロットは操縦に、後席の電子戦士官が電子戦に専念するという分業が行われます。
なお通信や電波工学にも精通した電子戦士官の育成は非常に時間を要するそうで、事故の際にはパイロットよりも電子戦士官を先に救出するという話があるほど。

これらの偵察・電子戦の複座は、後席には操縦装置が備わっておらず、また搭乗員もパイロットとしての操縦資格は持っていません。
但し、偵察航法幹部ではパイロットと同等の航空身体検査が必要とされているため、操縦こそ行わないものの厳しい基準が求められるそうです。

徐々に減る複座機

様々な役割を担う複座機ですが、実は徐々にその数を減らしつつあります。

最新鋭のF-22及びF-35には複座型の機体を用意せず、飛行訓練はシュミレータを活用しているため、従来の機体のように教官と一緒に飛行するという機会は無くなりました。

また兵装やレーダーなどの操作も自動化、コンピュータによる補助が発展しています。

旅客機でも過去には機長・副操縦士・航空機関士・通信士・航法士という5人体制で操縦していたものが今では機長・副操縦士の2名体制になったように、パイロットの負担軽減を目的とした複座は徐々にその意味が薄れているのです。

完全に複座機が無くなることはないかもしれませんが、徐々にその姿は珍しくなっていくのかもしれません。

※参考資料

  • 戦闘機年鑑2019-2020(イカロス出版)
  • 永遠の翼F-4ファントム(著:小峯隆生)
  • F-2の科学(著:青木謙知)
  • 世界の名機シリーズF/A-18
    ホーネット スーパーホーネット(イカロス出版)