哨戒機の『尻尾』は何のため?磁気で潜水艦を探す『MAD』

哨戒機の『尻尾』は何のため?磁気で潜水艦を探す『MAD』

P-3C、P-1など日本の海を飛び回り警戒にあたる海上自衛隊の哨戒機部隊。

その機体の後ろには、まるで尻尾のように伸びている部分があります。

この尻尾のような部分、一体なにが入っているのか、どんな事に使うのか。

今回はそんな哨戒機の「尻尾」の話です。


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尻尾の中身は
磁気探知機

哨戒機の尻尾の正体は、磁力を感知する為の磁気探知機。

magnetic anomaly detectorの頭文字を取って、通称MADと呼ばれます。

海上自衛隊が現在配備しているP-3CとP-1は、どちらもこのMADを装備した哨戒機です。

磁気探知機といっても、埋蔵金や古代の海底遺跡を探すために付いているわけではありません。

哨戒機のMADが狙うもの、それは我が国の安全を脅かす『潜水艦』なのです。

MADの原理

MADの原理は磁気の乱れを検出するというもの。

磁界の中に大きな金属の塊があると、その周辺では磁場に乱れが生じます。

深海の圧力に耐える必要のある潜水艦は、その大半が金属の塊ですので、磁場の中を潜水艦が通れば僅かながらでも磁場には乱れが生まれます。

しかし潜水艦が通る「磁界」とは一体何か?海の中に大きな磁石が置いてあるわけでもあるまいしと思うかもしれません。

しかし、とてつもなく巨大な磁石が存在するのです。

『地球』という巨大な磁石が。

哨戒機のMADは、地球という巨大な磁石が発生させる磁場=地磁気の中を通る潜水艦が生み出す僅かな磁場の乱れを検出するという、何ともスケールの大きな装置なのです。

何故、尻尾になってる?

では、何故MADが尻尾のように機体後部に突き出しているのか。

それは磁場の乱れというのが、あまりにも微細な変化であり、容易に周囲の影響を受けてしまうためです。

機体そのものも金属を多く使っている上に、各種のレーダー・センサー・無線機などを備えている哨戒機は、そのものがMADを狂わせる原因となり得ます。

故に機体からはなるべく距離を置いたほうが良いのです。

そのため、機体の尾部にまるで尻尾のように突き出す形で、なるべく機体から距離を取るように設置されています。

機体そのもののサイズが小さい哨戒ヘリコプターの場合には、機体からワイヤーで吊り下げる曳航式のMADが使用されます。

MADによる
潜水艦探し

先ほども書いたとおりMADは非常に微細な変化を探知します。

その精度は哨戒機パイロットの方によれば「地上で作動させれば、工具を持った整備員が近くを通っても反応する」というレベルとのこと。

これがMADの欠点でもあり、同時に利点でもあります。

MADの反応の強さは、MAD本体と対象物の『距離』に左右されます。

その為、潜航中の潜水艦を捕らえることは難しく、主にシュノーケル(通常動力潜水艦がエンジンを稼動させて充電するため、給排気の煙突を海面に出す状態)に備えて浅い深度に来ているような時でないと探知は期待出来ません。

更に、潜水艦が浅い深度に来ていても哨戒機が高いところを飛んでいては意味がありません。その為、哨戒機もかなりの低高度を飛ぶ必要があります。

過去にP2を運用していた頃にはMAD探知飛行では100フィート、高度30m、10階建のビルくらいを飛ぶこともあったそうで、パイロットにとってはかなり精神を消耗する飛行だったそうです。

また、運よくMADが潜水艦を捕らえたとしても、反応は極めてピンポイントで生じます。
言うなれば「点」で捉えるのです。

広大な大海原の中で、潜水艦を見つけ出す「点」を探すのは最早宝くじを当てるようなものでしょう。

その為、MADは単独で潜水艦を探すことは難しく、ソノブイによる音響探索などと併せて使用することが求められます。

逆に、この繊細さはピンポイントで場所を特定するのに非常に有意義な特性となります。

ソノブイによる音響探索は、複数のブイによる音の解析で大まかな場所を割り出すことが可能ですが、一方で正確なピンポイントの位置を特定することは苦手です。

対してMADの反応は極めて限られた範囲でのみ生じるため、正確に場所を特定することが出来ます。

この正確なピンポイントでの位置の特定は、潜水艦に対して魚雷攻撃を行う場合などに非常に有効となるそうです。

MADの無い哨戒機

海上自衛隊では最新鋭のP-1にMADを装備していますが、一方で装備を廃止した哨戒機も存在します。

アメリカ海軍の使用するP-8ポセイドンがその例です。

アメリカ海軍はP-8を従来の哨戒機のような低空哨戒には用いずに、無人機との共同運用による哨戒任務を想定しているため、P-8にはMADを装備しませんでした(但し、P-8という機体そのものはMAD装備に対応している)

 

今後、軍隊の省力化・無人化が1つの課題となる中で、大型の哨戒機のMAD装備というのは、その存在意義が変わっていく装備の1つなのかもしれません。

※参考文献

  • 海上自衛隊 各航空隊HP
  • 潜水艦を探せ ソノブイ感度あり(著:岡崎拓生)