「見えない」飛行機を目指して。軍用機、視覚のステルスへの挑戦。

「見えない」飛行機を目指して。軍用機、視覚のステルスへの挑戦。

ステルス機というと「レーダーに写りにくい」機体を真っ先にイメージする方が多いかと思われます。

しかし「ステルス」という言葉の本来の意味は「こっそりと忍び寄る」。

必ずしも電波に限った話ではありません。

その中でも飛行機が軍用として使われるようになってから力が注がれてきたのは「眼で見えにくい」という視覚に対する隠密・欺瞞の分野です。

今回は、軍用機が如何にして「見えない」を目指してきたか紹介していきます。


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迷彩塗装

飛行機で視覚に対する欺瞞として、やはりもっとも代表的なのは迷彩塗装でしょう。

航空戦の主力がレーダーに取って変わるまで、ステルスとは「相手の視覚を騙す事」と同義だったと言えます。

軍用機の迷彩塗装の歴史は第一次世界大戦まで遡り、フランスが主翼を緑と茶色に塗ったのが始まりと言われています。

色からして分かるとおり、当時は「上から見下ろして地面に溶け込む迷彩」としての効果が期待されたようです。

その後、迷彩塗装はその戦場に合わせて砂漠に合わせた色、海に溶け込む色など様々に発展してきました。

また戦闘機VS戦闘機の空中戦の機会が増えるに従い「空に溶け込む迷彩」、すなわち制空迷彩も様々な塗装が考案されました。

現在では主に戦闘機を中心に、灰色の濃淡を付けた塗装が広く用いられていますが、空の青色に溶け込むような薄いブルーの採用例などもあります。
(水色塗装はU-125A救難機の塗装としても現役)

照明を照らして隠れる?
コンパスゴースト計画

なるべく相手に発見されないためには「目立たない」ことが鉄則ですが、逆に機体に高輝度の照明を取り付けるという変わったプランが実験されたこともあります。

F-4ファントムⅡで行われたコンパスゴーストライト計画というのがそれで、ファントムのお腹を真っ白に塗り、更にそこへ9つの高輝度照明を取り付け。

明るい空と、機体の影とのコントラスト差を少なくすることで、地上から発見されにくくするという計画でした。

当時の画像などは見たことがありませんが、腹を白く塗るということは、こんな感じだったのでしょうか。

効果は非常に高く、通常塗装と比較して目視で発見される距離が30%になったと言われますが、機体に部品や配線を増やす手間が割に合わないと判断された為か、試験段階で終了し実用化はされなかったようです。

機体をコンパクトに

迷彩塗装と並んでポピュラーなアプローチとして機体をコンパクトにする、特に正面から見た際の横幅を小さくするというのが挙げられます。

この代表的な例が攻撃ヘリコプターの先駆けとなったAH-1コブラ。

それまでのヘリコプターはUH-1に代表されるように並列複座式で座席が横並びになっていたのを、2名の搭乗員が縦に並ぶというそれまでにない方式を採用したヘリコプターです。

縦並びの座席、更に胴体への搭載能力は全て排除して武装は左右の小翼に搭載という斬新な設計は、機体の幅を1メートル以下に収めることに成功しました。

原型となったUH-1の胴体幅は2.5メートルを超えるので半分以下となったことになります。

このスリムな胴体設計は大成功と言えたようで、実戦に初投入されたベトナム戦争では輸送ヘリ部隊の護衛として多大な戦火を挙げています。

飛行機雲を消し去る?

視覚による発見を防ぐ上で、意外な盲点が「飛行機雲」。

どれだけ機体を見えないように工夫しても、青空に綺麗な飛行機雲を引いてれば、どこに飛行機が飛んでいるのか一目で分かってしまいます。

しかしジェットエンジン・ターボファンエンジンを積んでいる以上、飛行機雲を発生させないというのはなかなか困難ですが、排気中に特殊な薬品を混ぜる事で飛行機雲の発生を抑制するという装置が実用化されたことがあります。

アメリカ空軍のB-2爆撃機に搭載された装置がそれで、塩化スルホン酸という薬品をエンジン排気中に噴射。

この薬品は水分を吸収する働きが強いため、排気中の水分を吸い取り、冷たい外気へ排気が触れても雲を発生させにくいという原理です。

どれだけの効果があったのかは定かではありませんが、このシステムには

「薬品が防護服を要するレベルの超危険物」
「非常に腐食性が高く、薬品タンクなどの劣化が著しい」

という非常に大きな欠点があり、その煩わしさから使用される機会は非常に少なくなっているそうです。

 

今後、軍用機の戦場はより一層、レーダーとデータリンクを用いた視界外戦闘が主流になると思われます。
しかし一方で戦争以外の軍事作戦=MOOTWの機会も増えることから、人間の眼から逃れるという軍用機の取り組みは今後も続いていくのかもしれません。

※参考文献

  • 世界の名機シリーズAH-1コブラ(イカロス出版)
  • 戦闘機と空中戦の100年史(著:関賢太郎)
  • 知られざるステルスの技術(著:青木謙知)