P-1へのレーダー照射問題。個人的見解とまとめ

P-1へのレーダー照射問題。個人的見解とまとめ

やはり、この話題には触れておくべきと思いつつ、なかなか考えがまとまらなかったのを、年末年始の休みで整理してみました。

あくまでも個人的かつ私的な見解であることを御容赦ください。


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問題点の整理

この話をする上で、筆者なりの認識について予め断っておきます。

まず、韓国艦が日本のEEZ内で活動していたことについて。
これは全く問題無いと言えるでしょう。
EEZはあくまでも経済活動の権利を保障するものであり、その他は公海の扱いに準じます。

すベての国は、沿岸国であるか内陸国であるかを問わず、排他的経済水域において、この条約の関連する規定に定めるところにより、第八十七条に定める航行及び上空飛行の自由並びに海底電線及び海底パイプラインの敷設の自由並びにこれらの自由に関連し及びこの条約のその他の規定と両立するその他の国際的に適法な海洋の利用(船舶及び航空機の運航並びに海底電線及び海底パイプラインの運用に係る海洋の利用等)の自由を享有する。
(国連海洋条約第58条)

なので日本国以外の艦・船舶がその場所にいても何ら問題はありません。

但し、日本のEEZ内で『漁船』が遭難しているのであれば、義務ではなくても海上保安庁などに一報があっても良いのではないかとは思います。

次に、本当にレーダー照射があったかどうか。

今回、韓国海軍が使用したと思われる広開土大王級駆逐艦のレーダーはシグナール、現タレス社のSTIR-180です。
STIRシリーズのレーダーは同社のWM-20シリーズ火器管制装置からの派生型ですが、日本では「しらね型護衛艦」でWM-20シリーズを採用した実績があります。
自国で同系統のレーダーを使っていたということは電波情報も持っているということで、レーダー警戒受信機にも当然反映されているのではないでしょうか。

このことから自衛隊側は受信したレーダー波が火器管制レーダーであったことに、十分な自信を持っていると考えられます。

また韓国側は『威嚇的な飛行、低空飛行』について防衛省が主張する国際民間航空条約は『軍用機には適用されないものである』と主張しています。

しかし逆を言うと民間基準を守っているものを『威嚇的』と解釈する根拠は何なのか?

海上自衛隊の哨戒機は日頃より、中国・ロシアなどの艦艇を日本国周辺で監視しており、必要に応じて写真撮影なども実施しています。
それらの写真と見比べる限り、今回のP-1が撮影した動画は低い高度を飛んでいるようには見えません。

他の国とは問題が起きていない、民間機の最低高度も上回る高さでの飛行を『低空飛行だ、威嚇的だ』というのであれば、どのような根拠に基づくものなのか。

この点、韓国側は自らの受けた印象のみで語っており、説明があまりに不足していると言えるでしょう。

よって自分の中では

  • 日韓双方に航行と飛行の自由が認められている状況
  • レーダー照射を受けたことは信頼性が高い
  • 威嚇的、低空飛行は客観的根拠に欠ける

と考えています。

本件最大の問題

今回の事態において、ここまで話が大きくなってしまった、収拾がつかなくなってしまったのは、やはり『現場での無線コミュニケーションが無かった』という点に収束されると思います。

先にも書いたとおり韓国側は『救難活動中にP-1が低空飛行、威嚇的な飛行を行った』と主張しています。

救難活動中に航空機の接近を拒む事については騒音等防止の観点から、ある程度の合理性が認められるでしょう。

しかし事情を知らない哨戒機側からすれば『未確認の船舶を見つけたので、とりあえず確認する』というのは自然な行動であり、救難活動中であることを察してくれというのは無理があります。韓国側から積極的に周辺の船舶・航空機へ発信すべきです。

また、仮にP-1哨戒機が低空で韓国艦に一直線の飛行をしていたとして、それを『危険』と判断するのであれば、レーダーでの探知、または目視見張員による発見後、まずは無線による警告が行われるべきかと思います。

『相手の行為を危険と思うなら、何故無線で警告しなかったのか』、この点は韓国側の『威嚇飛行』という主張に対する疑問ともなります。

更にレーダーの照射を受けた後、海上自衛隊より無線で呼び出しを受けていますが、これに対しての返答がありません。

使用したのは

  • 121.5MHz(民間航空機緊急周波数)
  • 156.8MHz(国際VHF無線ch16)
  • 243.0MHz(軍用機緊急周波数)

この3種類ですが、特に156.8MHzは船舶同士の呼び出し(近くにいる船を無線で呼び出す)、遭難通報などにも使用する周波数であり、これを航行中の船舶で「聴取していなかった」というのは到底考えにくいです。

仮に聴取していなかったとすれば韓国海軍の錬度をかなり疑問視せざるをえません。

映像では121.5MHzでの交信後、P-1のクルーが「後尾5マイル(相手艦の後ろ5マイルの意か)」と言っており、海上の気象条件も併せて考えると通信に支障を来たす距離とも思えません。

レーダー照射はCUES(洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準)に反する行為であり、照射を受けた側が『そちらは何故そのようなことをした?トラブルか?』と行動の意図を問いただすというのは当然です。

しかし、これを無視するというのは、『相手の意図が不明のため、自衛行動に移る』として警告・威嚇へとエスカレートしかねない行為であり、この点は強く非難されるべきところであると思います。

また英語の発音などについて指摘する声もありますが、筆者の聞く限り通信を担当しているP-1のクルーの発音は日本の空港の管制官などと大差なく、これを発音が悪かったから聞き取れなかったと言うのは無理がある主張と思います。
大韓航空・アシアナ航空など、韓国のエアラインも頻繁に飛来しているわけですので。

もし本当に内容が分からなかったとしても、フォネティックコード(通話表)を使ってる艦番号などは聞こえるでしょうから、速やかに再送を求めるべきです。

事態収拾は可能か

最早、日韓の二国間では収拾不可能になっていると思います。

故に事態を収拾させるのであれば、第3国の仲介・介入が不可欠でしょう。

日本政府・防衛省は韓国側の反論に対して電波情報の公開も考えていると述べていますが、韓国艦が採用している火器管制装置は世界中の海軍で採用されており、これを公開するとなれば影響は日韓の間だけでは済まなくなります。

故に西側諸国から「電波情報の公開は認められない」と今回の騒動に牽制球を投げてもらうことで、双方の幕引きを計るという可能性が1つ。

もう1つは今回の韓国海軍の行動がCUESに違反すること、また現在極東の海域では各国が北朝鮮制裁監視の名目で哨戒機を飛来させているため
『日本周辺海域での偶発的な衝突防止に必要なことを再確認する』
という二ヶ国間ではなく多国間の協議の場を持つことで、韓国側に矛を収めさせるという可能性も考えられます。

 

筆者自身は、韓国の存在は日本の安全保障・防衛を考える上で重要であると考えています。しかし一方で一線を超えた行動には毅然とした対応が必要です。

今回の韓国海軍及び政府の行動は守るべき一線を明らかに超えているものであり、日本国政府には今後も理路整然とした冷静な対応を求めたいところであります。

※1月7日21時頃、一部加筆しました