EA-18Gグラウラー導入の報道が新装備導入の中でも異質な理由
新年早々、新聞の報道で自衛隊が電子戦機EA-18Gの導入を検討するという内容が出ました。
自衛隊の新装備導入の話は色々と出ますが、EA-18G・グラウラーの導入に関しては、かなり「異質」であると言えます。
今回はEA-18Gグラウラーが自衛隊に導入されるという話が、何故他の装備とは一線を画すものなのか、解説していきます。
EA-18G グラウラーとは
グラウラーは電子戦機の中でも電子攻撃・電子防護(ECM)を担当する機体で、空母航空団(CVW)の一角を占めます。
機体そのものは同じく空母艦載機であるF/A-18E/Fスーパーホーネットをベース機としていますが、胴体下と両主翼端に電子戦用装備を搭載しているのが特徴です。
また電子戦装備の機内搭載量確保のため、固定武装である機銃が付いていないなどの違いもあります。
電子防護(ECM)機とは
簡単に書いてしまうと、敵の電子的索敵・攻撃手段から自軍航空機を防護することを目的とする作戦を担う航空機です。中でもグラウラーの様な小型の機体は作戦機と共に敵陣へ切り込む、非常に危険度の高い任務を担います。
レーダーは通常、送信した電波が目標に当たって跳ね返り、それを受信することでそこに物体があることを認識します。
暗い場所で何かを探すとき、サーチライトを当てるようなイメージです。
しかし逆を言えば相手側から「送信した電波と同じような電波」を故意に浴びせられると、強烈なフラッシュライトを浴びて眼が見えないのと同じような状態になってしまいます。
要は自軍の航空機が見つからないように目をくらませる役、それが電子防護機です。
説明を簡単にする為にライトの例を出しましたが、実際のレーダーでは周波数を細かく変更したり、更に特殊な変調方式やパルス方式を利用して簡単に相手が欺瞞出来ないような電波を出します。
攻守双方においては如何に相手の「眼」を騙すかは戦場においての勝敗を決する非常に重要な要素となり得るものです。
平時より諜報活動の一環として「ELINT(電子情報収集)」が各国で行われていると共に、逆に相手へ電子情報を渡さないため訓練任務では別の電波を使用するなどの防諜活動も行われます。
↑画像は入間・YS-11EB。航空自衛隊においてもELINTの活動は行われている。
戦時以外においても、日頃から探りあいと騙しあいの世界なのです。
さて、そんな電子防護機であるグラウラーが日本に導入されるのが何故、他の装備品とは事情が違ってくるのか。
自衛隊への導入が異質な訳
①日本周辺のみで使うには過剰装備である
グラウラーのような作戦機と一緒に行動する戦闘機ベースの電子防護機は一般に、SEAD(敵防空網制圧)など敵軍の地上レーダー施設や対空ミサイルの脅威に晒されるような任務を行う場合に真価を発揮する機体であると言えます。
先制攻撃・制圧を強く意識した装備であり、専守防衛を基本としている自衛隊が導入を検討する装備としては、かなり「過激」なものなのです。
最も我が国の政府は敵地への攻撃を憲法解釈において否定していません。
我が国への攻撃が確実であるとされれば、座して死を待つのではなく、脅威を排除する為に自衛権の範疇として敵基地へ攻撃を行うのは合憲であるとされていますので、グラウラーの保有やその運用が違憲ということではないのであしからず。
②オペレータ育成
グラウラーには通常2名の乗員が搭乗します。
前席にパイロット、そして後席には米海軍では電子妨害士官(ECMO)と呼ばれる電子戦に精通したオペレーターです。
この電子妨害士官は電子戦のエキスパートで非常に貴重な人員とされています。
米軍では電子防護機が墜落したら、パイロット(艦載機のパイロットも育成に時間の掛かる職種です)よりも電子妨害士官を先に救助するようにと言われてた逸話があるほど。
この育成は一朝一夕とはいきませんので、かなり長期的な視野を必要とする計画であると考えられます。
③電子戦は機密情報の塊である
電子戦が平時から常に各国で探りあい・騙しあいが行われている事は先ほども書きましたが、当然、電子防護機はその情報戦において非常に機密度が高いものです。米軍も電子防護機をオーストラリア以外に輸出したことはありません。
今まで米国と英国連邦の間でしか共有されていない物が日本にも導入されるということは、かなり深い意味を持つのではないでしょうか。
以上の点を整理しますとグラウラーの自衛隊導入は
米国及び英国連邦との密接な協力の下に、かなり長期的な視野を持って、現在の自衛隊の活動範囲を超える作戦行動を見据えている
と考えられるのです。
昨今、F-35Bの導入などの話もありましたが、グラウラー導入の話が出てきたことで、それらは「将来の自衛隊像、日本の安全保障の姿」として1つの方向性にまとめられるかもしれないと思っています。
これを纏めるにはまだ自分の頭も整理出来ていませんので、また改めて別の機会に。
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