装輪(タイヤ)と装軌(キャタピラ)のメリット・デメリット

装輪(タイヤ)と装軌(キャタピラ)のメリット・デメリット

一般車両では土木作業用重機などでしか見かけませんが、軍用の車両ではキャタピラ式(自衛隊では「装軌」)の車両を多く見かけます。

タイヤ(装輪)とキャタピラ(装軌)、それぞれどのようなメリット・デメリットがあるのか解説していきます。

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タイヤ(装輪)の特徴

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タイヤを使う大きなメリットは「同じ距離を移動するのに、より小さなエネルギーで済む」という点です。

タイヤに加わる抵抗は「転がり抵抗」で、これは水平方向に引きずる摩擦力のそれに比べて圧倒的に小さくなります。

つまり車が移動するには、タイヤは圧倒的に経済的で効率の良い道具なのです。

また、空気の入っているエアータイヤの場合、地面から伝わる振動・衝撃の一部を、空気の圧縮によって受け止めてくれる、エアサスペンションのような効果があります。

筆者はフォークリフトの運転資格を持っているのですが、フォークリフトは空気の入っていない「ソリッド」と言われるゴムの塊みたいなタイヤを使っています。
そのクッション性の悪さたるや…(そもそも車軸にもサスが入ってないので、一概にタイヤの影響とも言えんのですが)

路面には多少の凹凸が付き物なので、振動・衝撃をタイヤが緩和する事で、車軸やホイールなどへの負荷が減り、結果的に機械の耐久性も確保出来るのです。

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反面、設置する面積が少ないということは、必然的に単位面積あたりの接地圧力が上がります。
接地圧力が高いということは、軟弱な地面においては、それだけ地面が変形しやすく、いわゆる「タイヤがはまった」状態に陥りやすくなります。雪道、泥道などが代表的な例です。

また軍用車両においては、搭載火器発砲時の衝撃を車体で受け止めなければなりませんが、この場合も接地面積が少ないことは不利に働きます。

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いわゆる装輪戦車と呼ばれるタイプの車両でも、現状105mm砲を超える主砲は搭載された例がありません。
主力戦車の120mm砲は、現在の技術ではタイヤによる衝撃吸収は実用的な域に達していないのです。

キャタピラ(装軌)の特徴

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キャタピラを使う車両の代表格と言えば、やはり「戦車」ですが、これには先ほど書いたとおり、「強力な戦車砲の衝撃を広い面で吸収する」という効果があります。

自走榴弾砲なども同様で、強力な火器を安定して運用するには、広い面で地面と接触できるキャタピラに圧倒的な分があるのです。

重機なども同様で、いわゆるラフター(車輪式)のクレーンだと、アウトリガー(クレーン車などの外に張り出して車体を浮かせてる支え)を展開しないと作業に大幅な制限が掛かりますが、クローラ(キャタピラ)クレーンはアウトリガー無しでの作業が可能なものが多いです。

また同じ車体重量であれば、その分、接地面の単位面積あたりに加わる力が分散されるので、軟弱地盤などにおいては、より高い走破性を発揮する事が出来ます。

10式戦車の鉄履帯。スパイクタイヤのように凹凸で地面に食い込んで進んでいく。
10式戦車の鉄履帯。スパイクタイヤのように凹凸で地面に食い込んで進んでいく。

圧力を広い面に分散できるというのは、非常に大きなメリットなのです。

また、凹凸のある路面でも、キャタピラ自体が形状を保持するため、非常に高い走行能力を維持できます。
(コメント欄御指摘により誤字訂正 H30.3.16)

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但し、あまり凹凸が激しすぎると、地面と履帯が「点」の接触になり、特に鉄製の履帯は摩擦が小さいので、逆に走行に支障を来たす場合もあります。

反面、デメリットはタイヤのメリットの真逆になります。

幅の広い鉄の履帯をずっと地面と接触させながら進まなくてはいけないので、そのエネルギー消費量たるや尋常なものではありません。
また特に鉄製の履帯は、それ自体が非常に重量のあるものなので、動かすだけでも大きな力を必要とします。
つまり同じ距離を進むのにタイヤと比較して大量のエネルギー、即ち燃料を消費するので、燃費は非常に悪いものになります。
当然、進むためにも大きな力が必要なので、馬力・トルクに優れた大型のエンジンが不可欠です。

また地面から伝わる振動・衝撃は、金属あるいはゴムの履帯を通じて、直接駆動軸に加わります。
振動・衝撃が車体に伝わりやすいと言うことは乗り心地が悪いだけでなく、車体自体にも大きな負荷が掛かることになり、特に車軸周りには衝撃荷重を見越した設計が必要です。

また履帯の1箇所でも破断すれば、基本的に走行は不可能になり、再度走れるようになるまでにも大きな手間を要します。

これら多くの手間・コストが必要な故に、キャタピラを使用する車両は

  • 高い不整地走破能力を要求される
  • 火砲、搭載機器などにより生じる荷重が大きい

これらの理由により、キャタピラにするコストを考えても、十分なメリットを得られる場合に限られます。

例えば89式装甲戦闘車(通称89FV)は搭載されている火器が35mmで、これは十分装輪車両でも対応可能な火器ですが、この車両の主たる目的は機甲部隊の戦車隊に随伴することなので、戦車と同等の走破能力が必要→キャタピラにする必要があるという理由があります。

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キャタピラは、高い能力と引き換えに多大な負担を要する、諸刃の剣なのです。