初の米艦防護任務・「いずも」出港

初の米艦防護任務・「いずも」出港

5月1日、海上自衛隊創設以来初の任務となる「米艦防護」が開始されました。

横須賀を出港した米海軍補給艦を海上自衛隊の護衛艦が、太平洋航行中エスコートするというもので、いわゆる平和安全法制により、この任務が付与されてから、初の適用事例となります。

今回は、そもそも米艦防護とは何か、「いずも」が使われた意味などについて解説していきます。

米艦防護

「米艦防護」はあくまでも通称で、正確には「合衆国軍隊等の部隊の武器等の防護のための武器の使用」(自衛隊法第95条の2)となります。

自衛隊には以前より「自衛隊の装備品・施設・武器を守るために必要であれば、自衛隊の持つ武器を使ってもよい」という権限がありましたが、米軍基地を守る行動に付いては内閣総理大臣の発令する「警護出動」が最低でも必要でした。
(警護出動が掛かると、警察官がその場にいない場合、自衛官が警察権を行使して、職務質問などを行う事が出来る)

ただし警護出動は総理大臣が直接発令するということで、かなりハードルの高い措置です。
また対象は「米軍施設・米軍基地」であり、艦船などについては想定されていませんでした。

これに対し「米艦防護」は、アメリカ軍その他自衛隊と行動を共にする外国の軍隊に対し、相手方からの要求を受けて、防衛大臣が許可・発令するというもので、平和安全法制において自衛隊法が改正されて可能になった行動です。
いわゆる「集団的自衛権」ではなく、国家としては警察権の行使と解釈するのが妥当であるかと思います。

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「いずも型」を使った意味

今回、防護対象となった艦はルイス・アンド・クラーク級貨物弾薬補給艦 USNS Richard E. Byrd (T-AKE-4)
いわゆる「補給艦」で、横須賀を出港して日本海に展開しているカールヴィンソン空母打撃群への補給任務に向かうとのことです。

これを「いずも」が浦賀水道を抜けた後に千葉沖で合流して、太平洋を数日間併走することになります。

しかし「いずも」は決して補給艦=武装の乏しい艦を、外部の攻撃から守るような護衛艦ではありません。どちらかというと「いずも」自身が護衛隊の僚艦に守ってもらう立場です。

searam

いずも型護衛艦は最新型のDDHですが「ひゅうが型」と違い、自ら敵艦・敵航空機へ仕掛ける能力は皆無です。

「いずも型」と「ひゅうが型」の違い解説は此方の記事を

武装は自らに飛来する対艦ミサイルを撃ち落とすSeaRAMとCIWS(どちらも近接防御システム)、それに対魚雷用の欺瞞・デコイ発射装置があるのみで「自分の身は自分で守る」ための最低限のものしかついていません。

つまり「一緒に航行する友軍艦を防御する能力」は「無い」と断言出来ます。

では、何故「いずも」だったのか、考えられる理由は以下の通りです。

①「動く司令部」としての能力を活かす

いずも型は自らの武装を大きく制限する代わりに、指揮通信機能が大幅に強化されており「洋上司令部」としての役割を担う存在となっています。

今回、初めて米艦防護が発令されたことで、現場側としては米軍側との調整など様々な確認・チェックを行う機会となりますので、乗組員だけでなく幕僚や市ヶ谷の方々も乗り込んでいるかもしれません。

そうなると100人規模の統合任務部隊司令部すら備えられる能力がある「動く司令部」としての「いずも」の能力は、今回の事例にピッタリであると言えます。

②外交的アピールの意味合い

そもそも今回の米艦防護、実務的な要素は、ほぼ皆無ではないかと思います。

横須賀には米海軍の艦船が他にもいますし、そもそも日本の領海またはその付近を航行するのであれば、軍事的脅威はそれほど高くはありません。

と、なると「日米関係の外交的アピール」と考えるのが妥当です。
米艦防護は法改正以降、発令事例が無かったので、「実際に動かせること」をアピールするという意味合い、また「現在の日本国政府は日本海に展開している米海軍空母打撃群の行動は、自衛隊とも連携しており、日本国の防衛に寄与している」と政府としてメッセージを発信する意味合いが大きかったのではないでしょうか。

そうなると「見た目のインパクト」「ネームインパクト」というのは、あながち無視出来ません。

ルイスアンドクラーク級は全長200mを超える巨大な艦で、海上自衛隊でこれに見合う大きさの護衛艦は「いずも型」「ひゅうが型」くらいです。
ただ「ひゅうが型」は現在、佐世保と舞鶴に配属されていますので、横須賀からの任務には厳しい、となると自然と横須賀の「いずも」になるでしょう。
また比較的最新の名前が目立つ艦を動かすことで、政治的アピールを強めたいという意図もあったのではないでしょうか。

③「いずも」の行動とのタイミングが合致した

いずもは以前より、南シナ海への長期展開が計画されており、実は今回の出港はそれに向かうためのものです。

大型艦を1日動かすというのは凄まじい予算が吹っ飛んでいきます。
できれば「抱き合わせ」で済むのであれば、都合が良いのです。

米海軍補給艦の行動予定に「いずも」の出港予定が近かったので、両者調整の上、行けるところまで一緒に動くことになったと。

何かと御予算の厳しい昨今ですので、こんな理由も致し方ありません。

 

ただ、北朝鮮情勢の緊迫する昨今「アピール」も「訓練」も非常に重要なことです。
これで北朝鮮が圧力を弱めるかは分かりませんが、「自衛隊と米軍は緊密に連携している」ことを示すのは、有事を回避する上でも非常に有意義であると思います。