空飛ぶレーダーサイト E-2C
以前、ルックダウン能力に関する記事でも書きましたが、レーダー波というのは幾つか厄介な特性を抱えています。
その1つが「直進性」。
レーダー用の電波は、周波数が非常に高いので、音声無線通信やAMラジオなどと比較しても、直進する特性が非常に強いです。
よくAMラジオとFMラジオの特性を比べるときに
・FMは障害物の影響を受けやすい
と言われますが、これがまさに電波の特性によるものです。
(FM波は100MHz前後、AM波は1MHz前後)
軍事用のレーダーは例えばXバンド帯であれば10GHz前後。
FM波のさらに100倍近い周波数になります。
直進しやすいということは、球体である地球においては「死角」が増えるということ。
どんなに高性能なレーダーでも、死角は見ることが出来ないのです。
俗にこれを「電波の水平線」と呼びます。
軍事行動において「早期発見」は重要な課題です。
特に対空戦闘においては、相手も音速に近い速度で飛んできますから、発見が10秒遅れれば3km以上接近を許します。
この「電波の死角」を補うために存在するのがE-2Cのような、早期警戒機と呼ばれる機体です。
E-2の歴史
E-2の歴史は、アメリカ海軍の空母艦載機として1960年代から始まっています。
空母打撃群にとって、航空脅威を早期に発見することは、生存性向上の為に不可欠であり、艦隊の「眼」として警戒にあたるための機体として開発されました。
ペットネームの「ホークアイ」は、まさに空飛ぶ鷹のごとく鋭い眼で、獲物を見つけるところから来ています。
アナログ機器のA型、デジタル換装したB型と続き、さらにエンジン強化とレーダーの高性能化が行われたC型が、長らく米海軍や各国の主力として活躍して来ました。
現在、最新型としてD型も登場していますが、この説明は後ほど改めて。
E-2Cの特徴
E-2Cの大きな特徴といえば、やはりこの大きな背中の円盤。
ちなみに、このレーダーの中身・・・実は「八木アンテナ」なのです。
八木アンテナって何だ?と言う方は、屋根の上にあるテレビ受信用の棒が幾つも並んだアンテナを思い出してみてください、まさにあれが「八木アンテナ」です。
この円盤の中には、あの棒が並んだようなアンテナが幾つも入っているのです。
周波数帯はUHF帯で、探知距離とシークラッタ除去を優先した選定となっています。
なおC型の最新版では、最大2000の目標を同時処理して、複数の要撃機と連携することも可能とのことで、限定的ながら管制能力も備えた早期警戒管制機としての役割も担うことが出来るようです。
もう1つ大きな特徴はエンジン。
E-2Cのエンジンは「アリソンエンジン」として有名な、アリソンT-56エンジン。
実はエンジンそのものは、C-130Hハーク輸送機と同じシリーズなのです。
ハークが同エンジンを4発搭載して、最大離陸重量約80トンなので、エンジン1発が20トンの重量を受けるのに対し、E-2Cは最大25トンで同じエンジンを2発積んでいます。
つまり、圧倒的にエンジン1発あたりの重量は少なく、機体重量に対してかなり大きなエンジン出力を持っていることが分かります。
空母艦載機として、どうしても最高出力を求められた事が、この選定の由来になっているみたいです。
自衛隊のE-2C
現在、三沢基地の第601飛行隊と、那覇基地の第603飛行隊が、E-2Cを用いた空中警戒任務に当たっています。
自衛隊のE-2C導入は言ってしまえば「屈辱」から始まったもので、冷戦当時のベレンコ中尉亡命事件がきっかけです。
当時の自衛隊による対空監視はレーダーサイトによる監視と、GCI=地上要撃管制によるスクランブル機の対処で担っていましたが、レーダーサイトは低空で侵入された敵機を捕捉出来ず、F-4EJのレーダーもルックダウン能力は無かったため、相手が何処にいるかも分からず、お手上げだったのです。
これを契機に急遽E-2C型導入が急ピッチで進められ、警戒航空隊・第601飛行隊として1986年に運用を開始。
現在は南西方面の緊張が増した事を受けて、那覇に第603飛行隊も置き、北と南で任務に当たっています。
なお1機あたりの乗員は、パイロット2名に加えてレーダー員3名の、計5名となっています。
最新型E-2Dとは
アメリカ海軍で既に導入が開始され、航空自衛隊にも2018年から導入が開始される予定のE-2D型。
まずレーダーは従来の八木アンテナを廃して、フェイズドアレイレーダーに換装されました。型式名AN/APY-9。
フェイズドアレイ式になったことで、レーダー走査を特定の空域へ指向されて精度と探知距離を向上させるなど、従来のアンテナでは不可能だった運用が可能になっています。
また更に大きく変化したところがデータリンク機能です。
E-2Cでもデータリンク機能は勿論存在しましたが
E-2Cが敵機を発見する→その情報を要撃機に共有させる
くらいが限度と言われていました。
これをNIFC-CAと言われるデータリンク構想により「艦隊と早期警戒機の情報をリンクさせ統合的な対空戦闘を行う」ことを可能にしたのがE-2Dです。
例えば、E-2Dが低空飛行で進入してくる敵対艦攻撃機を発見、そのレーダー解析情報を艦隊防空のアーレイバーク級駆逐艦に共有させて、艦に搭載された対空ミサイルが、E-2Dから提供される情報に基づいて発射・誘導される、という最早SF映画のような戦闘が現実で可能になっていると言われます。
ここのF-35などのステルス機も加われば、その防空網を突破する事は、容易ではないでしょう。
ただし自衛隊においては、その機能を活かしきれるのか、若干疑問な点はあります。
と、いうのもF-15Jの近代化改修も、まだ十分追いついているとは言えず、未だに地上からの要撃管制もある状態です。
せっかくのデータリンク機能も、戦闘機側が対応できないのであれば、宝の持ち腐れになってしまいます。
さらに艦隊との連携となると、イージスシステムの改修も必須でしょう。
E-2D自体は間違いなく高性能な最新の早期警戒機ですが、その性能を十分に活かせるようになるには、何かと課題が多いというのが、自衛隊の現状だと思います。
コメントを書く