ルックダウン能力

ルックダウン能力

ルックダウン能力

戦闘機のレーダーを評価する項目の一つに「ルックダウン能力」があります。

これは「自機より低高度を飛行している目標を発見できるか」という能力の指標です。

逆を言うと、低性能なレーダーでは高高度を飛行していると、低空で進入してくる敵機を発見することが出来ないのです。

何故ルックダウン能力は高性能なレーダーで無いと不可能なのか、その理屈を解説していきたいと思います。

レーダーの原理は「反射」

radar航空機から発信されたレーダー波を、対象物が跳ね返して、その返って来た波を感知することで「そこに何かがある」というのを認識するのはレーダーの基本的な原理です。
どれだけ高性能なレーダーでも、基本的にここは変わりがありません。
対潜哨戒機のアクティブソナーも「電波」か「音」の違いであり、反射する波を拾ってくるのは全く一緒です。
(最近はパッシブソナーが主流になっているそうですが)

しかし、この単純な原理、実は欠点もあります。
被対象物の他に、レーダー波を跳ね返す存在があれば、そちらからの反射波も一緒になって返ってくるのです。

radar2被対象物の後ろに、壁があるとすれば、レーダー波は被対象物だけでなく、後ろの壁からも跳ね返ってきます。

こうなるとレーダーは言わば「真っ白」な状態になってしまい、仮に被対象物がその中にあっても見抜くことが出来ないのです。

これが可視光であれば色の違いや濃淡で見分ける事が出来ますが、レーダーはそうもいきません。

最近は数が減りつつありますが、高速道路等のトンネルでオレンジ色の照明を見たことがある方は多いと思います。

さて、少し思い出していただいて。
あのオレンジ色の光の中で「色」は見分けが付いたでしょうか?

恐らく、色はほとんど見分けが付かず、オレンジ一色の世界になっていたと思います。

あれは「波長」の問題なのです。

オレンジは白色光に比べ波長が長めの光ですが、波長が長いと細かな違いを識別することが難しくなります。
(逆に、色鮮やかに見せたいときは、スポットライトやレフ板なんかを使いますよね)

反面、波長が長いほど減衰や拡散、屈折の影響を受けにくく、より遠くに飛ばすことが出来ます。

レーダーは数十km先まで電波を飛ばして、更に返ってこないといきませんので、オレンジや赤の光よりも更に波長が長く、40000倍近く長い波長になります。
(Xバンドレーダー10GHz、赤色光は400THz)
当然、細かな違いを識別する事など出来ません。これをレーダーの分解能と言います。

何故、レーダーは「下」が苦手か

本題に戻りまして。

空中には当然「壁」はありませんので、同じ高度や自分より上を飛んでいる被対象物に対してレーダー波を反射しても、残りの電波は空の彼方へ消えて行きます。

しかしこれが自分よりも「下」になると

radar3こうなります。

即ち、地面が先ほどの「壁」と同じ降下を果たしてしまうのです。

むしろ、延々と広がる地面の方が、航空機なんかより遥かに大きな面積でレーダー波を反射するので、レーダー画面はほぼ真っ白になってしまいます。

これがレーダーで上から下を見張りにくい理屈です。

身近なもので実験すると、後ろに何も無い状態でフラッシュを焚くと

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

当然、くっきりと写りますが、これが白い紙になると

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

こうなります。

分解能の高い白色光でこれですから、電磁波だと如何に識別が難しいかというのが分かるかと思います。
(友情出演:MRJさん)

ルックダウンには何が必要か

被対象物を「航空機」とした場合、地面と航空機では一つ全く異なるものがあります。「速度」です。

地面は止まっていますが、飛行機は動いています。
そんな当たり前のことと思われるかもしれませんが、レーダーのルックダウン能力を確保するには、これが非常に重要なのです。

救急車の音が近付くときと遠ざかるときで高さが変わってきこえる「ドップラー効果」というのがあります。
普段、体感するのは「音」ですが、電波も当然「波」ですので、全く同じことが起きます。

分かりやすく説明するために、対象物をサイレン鳴らしてる救急車と考えましょう。
対象物と自分が全く同じスピードで飛んでいると考えれば、相対的な位置関係は常に「静止」です。
相対的位置関係が変化しないので、自分と相手には常に同じ音が聞こえています。

対して地面は非常に大雑把に考えれば止まっています。
地面でサイレンが鳴ってて、自分がそこへ近付いていけば、当然音は変化が生じます。

この音の変化と同じことがレーダー波でも起きるのです。

つまり地面から返って来る周波数と、飛行してる物体から返って来る周波数は、その速度差によって変化が生じます。

この周波数差を利用して「地面」と「動いている物体」を見分けるのがルックダウン能力の肝です。

と、言っても音が空気の振動で秒速330m程度であるのに対し、レーダー波は電磁波なので「光速」です。
ドップラー効果は、電波の発信→受信までの位置変化に起因するので、音に対して電波のデップラー効果は非常に微弱となります。
10GHzのレーダー波に対して亜音速で飛行していたとしても、静止物に対する波長変化は10~20kHZ程度と見積もられます。
GHz帯のレーダー波の周波数に対して○万分の1程度の変化です。

これを正確に処理するためには、レーダー自体に高い精度を求められるのと同時に、高度な演算処理装置が必要です。

高度な演算処理には当然、高性能な処理装置が必要になりますが、性能が上がれば上がるほど大きく重く、更に電力も必要になります。
故に小型の機体に積もうと思うと、制約が大きいのです。

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故に、一昔前は大型の機体にレーダー+処理装置を積んだE-2のような機体が不可欠でした。

現代では技術の発達によりルックダウン能力は戦闘機でも標準的な装備となっています。

しかし、そこにはレーダー技術の発達が不可欠だったのです。